現代社会ならではの凶暴性
この『Cloud クラウド』では黒沢清監督が、「現代社会のリアリティを象徴的に反映するアクション」と「暴力に全く縁のない人たちが凄惨な殺し合い状態になる物語」を企画の発端としているが、ヒントになったのは実際に起こった事件だった。
それは「全く知らない他人同士がインターネット上で連絡を取り合い、ターゲットとなる人物を殺害してしまった」ものだったという。そこから黒沢清監督は「無名の者たちが集まるからこそバレないだろう」という短絡的な発想でゲームのように人を殺してしまうことがあるのか、とその恐ろしさに衝撃を受けると同時に、現代社会ならではの凶暴性を感じたそうだ。
そこに転売屋という要素を入れたのは、黒沢清監督の知り合いに転売をやっている男がいて以前から興味があったことと、WOWOWのドラマ『贖罪』の中でも加瀬亮に転売屋を演じてもらったこともあり、「主人公を転売屋にしたら、思わぬ根みを買って危機的状況に遭遇したり暴力沙汰に巻き込まれたりしてしまうことがあるんじゃないか」と考えたからだそうだ。
転売屋は確かに忌み嫌われている職業だろうが、劇中のように狩りゲームと称して殺害まで企てるというのは、もちろん許されるはずもない。「匿名」が前提のSNSで転売屋に対して批判の範疇を超えた誹謗中傷が送られていることを思えば、その憎悪が浅はかなリアルの暴力に発展してしまうことも、決して絵空事ではないとも思える。その恐ろしさを認識する意味でも、本作を観てみるといいだろう。
<文/ヒナタカ>
【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF
配信: 女子SPA!
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