不倫による慰謝料請求は、相手配偶者から突然にされることがあり、金額は数十万円から300万円の相場に及ぶことが一般的です。
不倫が法的に認められた場合、慰謝料支払いは避けられず、具体的な状況によって支払額が変動する可能性がありますが、不倫による精神的苦痛を考慮すると、慎重な対処が必要です。
この記事では、不倫慰謝料の相場、支払いを回避または削減する方法について詳しく解説し、不倫慰謝料に関する疑問や悩みに対応します。
1、不倫慰謝料請求された場合、支払いを拒否できるの?
不倫が発覚すると慰謝料の問題が発生するのが通常ですが、不倫慰謝料は絶対に支払わなければならないのでしょうか。
まずは、そもそも不倫慰謝料とはどのようなものなのかということを知っておきましょう。
(1)慰謝料とは
慰謝料とは、法律に違反する行為によって他人に損害を与えた場合に、被害者が受けた精神的損害に対して支払う損害賠償金のことです。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用元:民法
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
引用元:民法
不倫をすると、不倫相手の配偶者が精神的苦痛を受けるのが通常なので、慰謝料の支払い義務が発生するのです。
(2)「妻」は法的保護に値する
もっとも、不倫は刑事上の犯罪ではありませんし、民法上も「夫婦は不倫をしてはならない」などと明文で定められているわけではありません。
しかし、「不貞行為」が離婚原因とされていることから、夫婦にはお互いに貞操を守る義務があり、貞操を侵害することは民事上の違法行為となると解釈されています。
不貞行為とは、簡単にいうと肉体関係を持つことです。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
引用元:民法
つまり、「恋人」や「彼女」は法的保護に値しない場合が多いけれど、「配偶者」「妻」は法的保護に値するのです。
したがって、彼女がいる独身男性と肉体関係を持っても基本的には慰謝料の問題にはならないですが、妻がいる既婚男性と肉体関係を持つと慰謝料の問題が発生します。
(3)相手が既婚者であると知らなかったことに落ち度がなければ慰謝料を支払う義務はない
不倫慰謝料の支払い義務が発生するには、いくつかの要件があります。
自分に落ち度がない場合はその要件を満たさないので、慰謝料を支払う義務はありません。
主な要件は、以下のとおりです。
故意または過失によって権利侵害行為をしたこと
相手方に損害が発生したこと
権利侵害行為と損害との間に因果関係があること
たとえば、交際相手が既婚者であることを知らず、知らないことについて過失もなかった場合は、上記のうち「故意または過失によって権利侵害行為をしたこと」という要件に該当しません。
その場合は、不倫慰謝料の支払い義務は発生しません。
他にも慰謝料を支払う義務がないケースがありますが、詳しくは後ほど「3」(1)でご紹介します。
(4)「妻」は金の亡者?
不倫は民事上の違法行為であるにもかかわらず、突然何百万円もの慰謝料を請求されると、「妻は金目的か」と考える人は少なくありません。
実際に、交際相手が既婚者であった場合、普通は妻のことを良く言う男性はいません。逆に、妻のことを悪く言い、「妻とはもう終わっている」「近いうちに離婚する」という男性が多いことが考えられます。
そういった不倫相手の言葉を信じていたのに、慰謝料を請求されると、妻のことを本当にひどい女性だと思ってしまうのも無理はありません。
しかし、慰謝料を請求してきた妻は、必ずしもお金目的であるわけではありません。妻としては、夫と不倫相手であるあなたによって、平穏な夫婦生活を送るという権利を侵害されているのです。そのやり場のない気持ちをぶつける手段として、慰謝料を請求してきているわけです。
日本の法律では、他人の不法行為によって損害を与えられた場合でも、実力行使によって相手に制裁を加えることは禁止されています。損害を回復するためには、加害者に金銭を請求するしかないのです。
時には請求内容が過大で理不尽な場合もありますが、妻には妻の立場と感情があることを理解しておくべきです。
2、不倫慰謝料を拒否する方法と支払いの義務がないケース
不倫慰謝料の支払い義務がない場合には、支払いを拒否することができます。
ここでは、慰謝料の支払い義務がないのはどのような場合か、および実際に支払いを拒否する方法についてご説明します。
(1)慰謝料の支払い義務がない場合とは?
まず、慰謝料の支払い義務がないケースについて、具体的にご紹介します。
①肉体関係がなかった
もちろん、肉体関係がなくても、接触等の程度によっては、平穏な夫婦関係を破壊する行為であると評価され、慰謝料支払い義務が生じることはあります。
もっとも、例えば一緒に食事をしただけであったり、仲良くしていただけにすぎないのであれば、「慰謝料を支払う義務はない」と支払いを拒否できる可能性が高いです。
肉体関係の有無は一定の基準になるでしょう。
②相手が既婚者であると知らず、知ることもできなかった
相手が既婚者であることを知らなければ基本的には慰謝料を支払う義務はありません。
もっとも、知らなかったが「知ることができた」というような場合には、過失があるとして慰謝料支払い義務を負う可能性があります。
「知ることができた」場合とは、例えば不倫相手が左手の薬指に指輪をしていたような場合や、社内不倫で、不倫相手が同僚などに既婚者であることをオープンにしていたような場合等です。
このような場合に支払いを拒否するためには、不倫相手が正直に「既婚者であることを隠していた」と話してくれるか、メールなどでの不倫相手の言動から独身であると勘違いしたことなどを主張していく必要があります。
③不倫が始まったタイミングでは既に婚姻関係は破綻していた(もしくはそう思っていた)
婚姻関係が破綻していたとは、夫婦の別居期間も長く、当然夫婦生活もないような状態です。
既に離婚に向けて話し合いを進めていたとの事実があればより「婚姻関係は破綻していた」と言えるでしょう。
不倫相手から「妻(もしくは夫)とはもう終わっている」などと何度も聞かされていて、その言葉を信じていたのであれば支払いを回避できる可能性は高くなります。
④慰謝料を請求する権利は時効により消滅している
不倫慰謝料を請求する権利には時効があります。
不倫相手の配偶者が「損害及び加害者」を知ってから3年間何らアクションを取っていなかったのであれば、時効消滅を理由として慰謝料の支払いを免れることができます(民法724条)。
なお、不倫慰謝料の時効について詳しくは以下の関連記事をご参照ください。
⑤こんな場合は支払いを免れることは難しい・・・
慰謝料の支払いを拒否する理由でよくあるのが、「不倫相手である夫(もしくは妻)の方から積極的に誘ってきた」というものです。
しかしながら、この事実のみでは基本的に慰謝料支払い義務を免れるのは難しいでしょう。
不倫相手が積極的に誘ってきたのであっても、上記の不法行為の成立要件を満たすためです。
不法行為が成立する場合、加害者は被害者に対して損害の賠償をしなければなりません(民法709条、710条)。
(2)相手に対して証拠の提示を求める
不貞行為があったことの立証責任は、損害賠償の請求をする側にあります。
ですので、相手が証拠を持っていなければ支払いを免れることができる可能性があります。
具体的には、以下のような証拠の提示を求めましょう。
①肉体関係があったことを証明する証拠
肉体関係のほとんどは部屋などの密室空間で行われるので、盗撮でもしない限り肉体関係の直接存在を証明することは困難です。
ですから、証明する証拠は次のような間接的なものとなります。
あなたと交際相手がラブホテルに入るタイミングもしくは出るタイミングの写真もしくは動画
ただし、ビジネスホテルなどで打ち合わせで使用していたにすぎないのであれば、その旨反論することで慰謝料の支払いを免れることができる可能性があります。
一人暮らしの際に不倫相手が長時間滞在した証拠
具体的には、出入りの時間が確認できる動画や写真が考えられます。
不倫相手と理由もなく二人で泊まりがけで出かけて同室で就寝した証拠
具体的には、出かけた時の写真やホテルの領収書などが考えられます。
明らかに肉体関係があることを推測できる文章や画像
具体的には、LINEやメール、手紙などが考えられます。
②あなたが「不倫相手が既婚者だと知っていた(もしくは、知らなかったが知ることができた)」という証拠
具体的な証拠としては以下の通りです。
相手が左手の薬指に指輪をしていた
不倫相手の結婚式に出席した事実
不倫相手とメールをする中で「奥さん(もしくは旦那さん)にばれたら大変なことになるね」などの画像
不倫相手との関係が勤務先の上司と部下の関係の場合
通常であれば、同じ会社で働いていて、既婚者と知らなかったはずはないといえます。
勤務先が同じでも「既婚者とは知らなかった」と反論したいと思いますが、一般的にはそのような言い訳は通用しない可能性が高いです。
また、相手が左手の薬指に指輪をはめていたような場合も同様です。
③もし、「肉体関係の証拠」と「あなたが不倫相手が既婚者だと知っていた証拠」があったとしたら
もし、上記の「肉体関係の証拠」と「あなたが不倫相手が既婚者だと知っていた証拠」を不倫相手の妻(または夫)が持っていたとしたら、その際は逆に「不倫関係が始まった時点で婚姻関係が既に破綻したことを証明する証拠」を提示するようにしましょう。
具体的には以下のとおりです。
不倫相手と不倫相手の配偶者が長期間別居していたことを示唆するメール等のやりとり
不倫相手と不倫相手の配偶者が長期間別居していたという証言
これらの証拠を提示して慰謝料を支払う義務はないことを主張しましょう。
(3)具体的なやりとりの仕方
慰謝料の支払い拒否・減額の交渉は、できれば弁護士に依頼した方がよいでしょう。
弁護士は交渉のプロですし、同様の不倫慰謝料請求事件の経験もあることでしょうから、自分で進めるよりもスムーズに事件を解決できる可能性が高いからです。
他方で、ご自身で対応されるという場合は、下記のように対応するのがいいでしょう。
①やりとりは書面が基本!
不倫相手の配偶者とのやりとりは、書面の他にも電話や直接会うなども考えられますが、基本的に書面でやり取りをする方がベターです。
たとえ、電話やメールで請求されたとしても返信は書面がよいです。
書面でやり取りをする目的は、きちんとやりとりの証拠を残すためです。
②書面を使用する際の注意点とは
相手が有利になる証拠を作らないことが大切です。
例として、実際は既婚者であると知ったのは交際を開始してしばらく経った後であり、またその時点では婚姻関係は破綻していたかもしれないのに、当初から既婚者であると知っていたと記載して謝罪することなどです。
あとから、やはり当初は既婚者であると知らなかったなどと否定しても、一度書面で認めている以上、信用されない可能性があります。
(4)内容証明郵便が届いたときの注意点
不倫慰謝料請求においては、内容証明郵便も利用されます。
この記事をお読みの方の中にも「内容証明郵便が届いて驚いた」という方もいらっしゃるでしょう。
しかし、落ち着いて対応することが大切です。
①内容証明郵便とは?
急に相手から内容証明郵便が届いた、という場合に備えて内容証明郵便について知っておきましょう。
初めて内容証明郵便が届くと、不安になる方も多いかと思いますが、法律上通常の書面による請求と基本的には変わりません。
ですが、郵便局が内容を証明してくれたり、相手に対して精神的なプレッシャーを与えることができるので、弁護士は金銭等の請求をする際によく使います。
不倫慰謝料の請求と内容証明郵便との関係について詳しくは、以下の関連記事をご参照ください。
②内容証明郵便が届いたら内容証明郵便で返さなければならない?
内容証明郵便が届いたからといって返信も内容証明郵便でなければならないわけではありません。
通常の郵便で大丈夫です。
ただ、先ほどお伝えしたように内容証明郵便は郵便局という第三者が郵送の事実と内容を証明してくれるので、証拠としての価値が高まります。
なお、内容証明郵便そのものについてより詳しくお知りになりたい方は、以下の関連記事をご参照ください。
(5)話し合いがまとまったら示談書を作成する
話し合いがまとまったら示談書を作成するようにしましょう。
①示談書作成の重要性
そもそもなぜ示談書を作成する必要があるのでしょうか?
それは、「後々のトラブルを防止するため」です。
せっかく話がまとまってその時は解決したのに、後で「言った言わない」となり、話が蒸し返されると非常に厄介です。
そのような事後のトラブルを避けるためにも示談書を作成しておくことは非常に重要です。
②示談書の作成方法
示談書作成の流れは、以下のとおりです。
1.請求してきた側と話し合いの結果、①支払うか否か、②支払うとしたらいくらかについて合意に至る
2.一方が「1.」の内容を示談書にまとめる(示談書はどちらが作成してもよい)。
3.「2.」のとおり作成した示談書について相手方が確認
4.2通用意し、2通双方に当事者それぞれが署名・押印し、それぞれが1通ずつ所持する
③雛形ダウンロード
ここで、不倫慰謝料の示談書の雛形も用意しました。
話し合いの結果、
1.支払わないことになった場合
2.支払うことになった場合
の2つのパターンがあります。
1.支払わないことになった場合
不倫慰謝料を支払わないという内容の示談書のダウンロードはこちら
2.支払うことになった場合
不倫慰謝料を支払うという内容の示談書のダウンロードはこちら
※雛形は個別具体的な事情に対応していません。実際に利用される際には専門家の意見を聞くようにして下さい。
また、不倫慰謝料の示談書についてより詳しくは「不倫慰謝料の示談書・誓約書の作成方法【無料雛形付き】」の記事をご参照ください。
配信: LEGAL MALL