人気ロックバンド「ELLEGARDEN」のボーカルである細美武士さんが、11月8日に網膜剥離の緊急手術を受け、飛行機に搭乗できず12日に開催予定だったアジアツアーを延期にすると発表しました。
網膜剥離は視力の低下や失明の原因にもなる疾患で、レーザー治療や手術をおこなう必要があります。しかし、手術後安静にしなくてはいけないというのはイメージできますが、目の手術で飛行機に乗れないというのはなかなかピンときません。一体どういう理由があるのか、医師の郷先生に詳しく伺いました。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。
網膜剥離の症状や原因
網膜剥離はどのような病気ですか?
網膜剥離とは、眼球の中にある網膜が、その周囲から剥離してしまう病気です。網膜は、光を感知して脳に伝える役割を持っている重要な組織であり、網膜剥離が起こると視力の低下や失明の原因になります。
この病気が疑われる場合には、早期の診断と治療が必要です。特に網膜剥離が起こりやすい年齢は20歳代と50歳代です。
網膜剥離は、前駆症状を早期に発見できれば未然に防げます。そのため、眼科での定期健診を受けることがおすすめです。
症状を教えてください。
網膜剥離の症状には、以下のようなものがあります。
視野の一部が欠けている
視野の一部が歪んでいる
視力の低下を感じる
また、この病気の前駆症状としては以下のような症状があげられます。
視界に小さな粒や糸くずのような物体が浮かんで見える
暗い場所にいるときや目を閉じたときに光が見える
視界全体が薄暗くなって見える
これらの症状が現れた場合には、網膜剥離の一歩手前である「網膜裂孔」という状態の可能性があります。そのため、放置せずに眼科医の診察を受けることが大切です。
網膜剥離は早期に発見し適切な治療を行わないと、失明の原因になることがあるため注意しましょう。
発症の原因を教えてください。
網膜剥離の原因は様々ですが、加齢や外傷によって引き起こされることが一般的です。その他、糖尿病などの基礎疾患が原因となることもあります。
加齢による硝子体剥離
通常、網膜はゼリー状の物質で満たされた硝子体と密着した構造になっています。しかし加齢に伴って硝子体が縮小し、網膜から剥がれてしまうことにより、網膜に負担がかかってしまうのです。この状態が続くことで、網膜剥離が起こるリスクが高くなります。
近視
強い近視が原因で網膜剥離のリスクが高まることもあります。強い近視の人は、定期健診を受けることが重要です。
外傷
眼球に激しい衝撃が加わることで網膜が剥離する可能性があります。例えば、眼球をたたかれたり何かにぶつけたりした後には注意してください。
糖尿病
糖尿病を患っている人の場合、糖尿病網膜症を引き起こすことがあります。糖尿病性網膜症が悪化すれば、網膜剥離の原因となるでしょう。血糖コントロールや定期健診を受けることが大切です。
これらのように様々な原因で網膜剥離が起こります。網膜剥離は突然発症することが多いため、早期発見・早期治療が重要です。
網膜剝離はどのような見え方をしますか?
網膜剝離は、網膜が眼球の内部から剥がれ落ちる状態のことです。この病気が起こると、視覚障害が発生し、最悪の場合失明することもあります。
繰り返しになりますが、網膜剝離の特徴的な見え方としては以下のようなものが挙げられます。
突然、一部の視野が暗くなったり、ぼやけたりする
視野が歪んで見える
光の点滅や閃光が見える(光視症)
視界に細かい粒や蜘蛛の巣のような糸くずが浮かぶ(飛蚊症)
光の点滅や穿孔が見えるのは「光視症」です。また、視界に細かい粒や蜘蛛の巣のような糸くずが浮かぶ症状は「飛蚊症」といいます。
これらの症状は、網膜剥離の前駆症状として現れることが多いです。例えば、網膜が剥がれ落ちる前の「網膜裂孔」という状態で光視症や飛蚊症を自覚することがあります。
そのため、これらの症状が現れた場合は、すぐに眼科医に相談するようにしましょう。特に、視野の一部が急激に暗くなったり閃光が強くなったりした場合、網膜剥離である可能性が高いです。早急に受診するようにしてください。
網膜剥離の治療
どのような検査で診断されるのでしょうか?
網膜剥離の検査では、眼球の中の状態を確認する必要があります。眼底鏡という器具を用いて、「眼底検査」を行います。眼底検査では瞳孔から光を入れる必要があるため、瞳孔を散大させる薬を使用するのが一般的です。
これにより、網膜の状態を丁寧に確認できます。しかし、瞳孔を散大した場合、数時間の間は屋外の光がまぶしく感じたり視界がぼやけたりします。
そのため、検査後は基本的に車を運転できなくなるため注意してください。また、検査の後すぐに仕事や家事をすることは難しいでしょう。検査当日は、なるべく他の予定を入れないようにするのがおすすめです。
レーザー治療を行うと聞きましたが…。
網膜が完全に剥がれていない状態では、レーザー治療を行うのが一般的です。裂けてしまった部分にレーザーを当て、裂け目を防ぐ治療を施します。
しかし、場合によっては治療した部分が再び裂けてしまうこともあります。そのため、定期的な経過観察が重要です。レーザー治療は点眼による麻酔を用いて行われるため、基本的にはあまり痛みを感じません。短時間で終了するため、外来で治療が可能です。
しかしながら、片目で網膜裂孔が起きている場合、もう片方の目にも同様に負担がかかっていることが考えられます。もう片方の目にも気になる症状がないか、注意深く様子を見る必要があるでしょう。
網膜剥離の手術について教えてください。
網膜剥離が進行している場合、またはレーザー治療の効果がなかった場合は、手術が必要となることがあります。以下に、一般的な網膜剥離手術について説明します。
網膜復位術
網膜が水晶体に引っ張られる力を緩め、裂けた部分を塞ぐ手術です。網膜の外側に硝子体の液体が溜まっている場合には、針で穴を開けて排出します。最後に硝子体にガスを注入します。
硝子体手術
硝子体手術は、硝子体のゼリー状物質を除去して、空気やガスなどを注入する方法です。局所麻酔で行われ、非常に繊細な作業が必要となる手術です。水晶体を除去した眼球内は水で満たされることとなり、数か月程度で視力が回復します。
治療法は病気の状態により個人差があります。正確な治療法については、専門医に相談することが重要です。網膜剥離手術は、進行した網膜剥離の治療に効果的な方法であるとされています。
しかし、全ての症例で必ずしも手術が必要となるわけではありません。必要な治療法は病状や患者の状態によって異なります。気になる症状があれば眼科で検査を受けるようにしてください。
配信: Medical DOC