男の子と女の子2人のママであり、泌尿器科医である岡田百合香先生の連載。今回は、精巣のけがについての解説です。「腹部から由来した臓器である精巣が、骨格で保護されることなく体表面に出て来ていることは心もとない状態」と岡田先生は言います。「お母さん・お父さんのためのおちんちん講座」ママ泌尿器科医#52です。
臓器である精巣が体表面に出ているという心もとなさ
今回は精巣(たまたま)のけがについてお話をします。
精巣は生殖の際に必要な精子を作る機能と、男性ホルモンを産生・分泌する機能をもつ、男性に存在する臓器です。
もともとは女性の卵巣と同様におなかの中で発生するのですが、お母さんの胎内にいる間に徐々におなかの外に降りてきて、出生のときには陰嚢(いんのう・精巣を包んでいる皮膚の袋)の中に収まります。
「男性の急所」としても知られており、誤ってぶつけたりスポーツで蹴られたりするともん絶するような痛みを感じるようです。
腹部に由来する臓器が丈夫な骨格で保護されることなく体表面に出ているというのはたいへん心もとないし、内臓にダイレクトに衝撃が伝わると想像しただけでつらそうです。
精巣のけがにはどのような対応が適切なのか?
そんな精巣(たまたま)にけがを負ったら、どう対応すればいいでしょうか。
過去の記事で「精巣捻転(せいそうねんてん)」という病気が緊急疾患であることをお伝えしましたが、実は精巣のけがも早急に病院を受診したほうがいいケースが少なくありません。
精巣は陰嚢という皮膚に包まれているため、精巣そのものを見たことがある人は限られた医療職を除いてほとんどいないと思います。
泌尿器科では精巣捻転や精巣腫瘍、男性不妊症の手術で直接精巣を見る機会があるのですが、健康な精巣は白くてツルツルした卵型で、とてもきれいな臓器です。
この精巣の外側を覆う白い膜を「白膜(はくまく)」と呼び、精巣のけがにおいてはこの白膜が傷ついているか否かが非常に重要になってきます。
白膜が傷いていなければ一般的な打撲やねんざと同様に患部を冷却して経過をみることができますが、白膜が傷ついている場合(「精巣破裂」と呼びます)、放置すれば将来的に不妊症の原因となり得るのです。
したがって、白膜が傷ついている場合には手術によって白膜を縫い閉じるか、あまりに損傷がひどい場合には精巣を摘出する必要があります。
それでは、白膜が傷ついているか否かをどう判断すればよいのでしょうか。
痛みや腫れの程度のみで判断するのは非常に難しく、病院でエコーや画像検査を受けなければわかりません。また、エコーや画像検査でも白膜の傷を100%正確に把握することはできず、「迷ったら手術で確認」という判断になることも。
私が泌尿器科医になりたてのころ、休日にサッカーの試合で遠方から来ていた高校生の男の子が試合中に陰部を蹴られて救急外来にやってきました。
診察時には痛みは落ち着いており、腫れも軽度でした。エコーと画像の検査をして、「白膜は傷ついていない」と思われたため、上司とも協議して手術はせず入院で1泊様子を見ることに。その夜も痛みや腫れが悪化することはなく、翌日に地元の病院へ紹介状を書いて転院になりました。
ところが、地元の病院で念のため手術で精巣の様子を確認したところ、白膜が傷ついていたため手術で縫い合わせたと連絡がありました。
手術はけがをしてから72時間以内に行うことが望ましいとされているため、タイミングとしては問題なかったのですが「精巣のけがの診断は難しい」ということを痛感しました。
というわけで、精巣をぶつけたり蹴られたりした場合に「痛みが続く」「腫れている(赤い、大きさが左右で違う)」ときには泌尿器科を受診してください。
痛みや腫れの程度が強い場合には、常勤の泌尿器科医がいる総合病院(休日夜間であれば救急外来)がベストでしょう。
手術が必要な場合には72時間以内に行うことが望ましいため、できるだけ早く受診してください。
配信: たまひよONLINE