「どうしてママと同じ手じゃないの?」いつか聞かれると思っていた娘からの質問。そのとき母が伝えた言葉とは【先天性絞扼輪症候群(せんてんせいこうやくりんしょうこうぐん)体験談】

「どうしてママと同じ手じゃないの?」いつか聞かれると思っていた娘からの質問。そのとき母が伝えた言葉とは【先天性絞扼輪症候群(せんてんせいこうやくりんしょうこうぐん)体験談】

生まれつき「先天性絞扼輪症候群(せんてんせいこうやくりんしょうこうぐん)」という障がいがあるりあちゃん(9歳・小学3年生)は、手指や足指に、ひもで縛ったようなくびれがあり、一部の指がくっついた「魔法の手」の持ち主。大変なことや嫌な思いをすることもあるけれど、持ち前の明るさと器用さで何だってできちゃうスーパーガールです。そんなりあちゃんとママは、この個性についてたくさんの人に知ってもらいたいと、YouTube「たらこ3姉妹」で動画を発信しています。今回はりあちゃんと双子の妹の母親であるたらこ3姉妹ママさんに、障がいのことや日常のこと、YouTube発信に込めた思いなどを聞きました。全2回インタビューの後編です。

成長するにつれて出てきた「心」の問題。保育園で心ない言葉をかけられて…

手足以外には身体的な問題はなく、りあちゃん自身もできないことがほとんどなく、あまり困ったことはなかったというたらこ3姉妹ママさん。ただ、りあちゃんが大きくなるにつれて、りあちゃんが自分を人と比べたり、まわりの子が心ない言葉をかけてきたり、といった場面も増えてきました。

「娘が、自分の手足の違いをはっきりと自覚したのは、保育園の年長のころかなと思います。そのころには、双子の妹たち(ひなちゃん・かのちゃん)も生まれていました。そんな中で、『どうして、りあはママと同じ手じゃないの?』『りあも、ひなやかのと同じ手がよかった』とぽつりぽつり言うようになったんです。

いつか聞かれるだろうなとは思っていたので、聞かれたらどう伝えようと、もう何年もずっと考えていたんですが、実際言われると、やっぱり考えていたとおりには言えないもので。ただ、娘の思いを聞いて、その思いを受け入れて共感してから、それでもママはあなたの手が本当に大好きだって伝えました。

娘には、とにかく自分のことを嫌いになってほしくない、自分が生まれてきたってこともすごく誇りを持ってほしいって思っていて。えらそうなことは言えないけど、『あなたの全部が大好き』ってことだけはわかってほしいと思いました」(たらこ3姉妹ママさん)

そうやってりあちゃん自身が人との違いに気づき始めたころ、保育園で小さなトラブルもありました。

「保育園は赤ちゃんのころからずっと一緒に過ごしてきた子がほとんど。だから、みんな娘の手足のことも気にしていなくて、当たり前として受け入れてくれている感じでした。

そんな環境ではあったんですが、年長のとき、娘の手足についてある男の子から嫌なことを言われたことがありました。すると、なんとその場に一緒にいたお友だちの女の子たちが、娘よりも先に、男の子に言い返してくれたそうなんです。そのことが、私も娘も本当にうれしくて。

嫌なことを言われたのは悲しいことだったけれど、そういう味方になってくれるお友だちがいてくれることを知れたうれしい機会でもありました。だから、悪い経験だったねとは、私も娘もとらえていません。親としては、すごくありがたい出来事でもあったんです」(たらこ3姉妹ママさん)

確かに、りあちゃんの姿や話している様子を見ると、自分にちゃんと自信を持てていることが伝わってきます。それは、もし嫌なことがあったとしても、根底にママに愛されているという揺るぎない自信があるからかもしれません。そして、そんなりあちゃんの笑顔は、きっとママやパパにも大きな力として伝わっています。

「実は、娘は自分の手足を1度も隠したことがないんです。それがすごく私も自信になっていて…。娘の障がいがわかってから、いろいろ悩んだり考えたりしながら接してきたことが、『1度も自分で手足を隠さない』という娘の行動につながっているんだとしたら、こんなうれしいことはないなって。

もちろん、みんなと同じだったらいいなと思うことはあるみたいなんですが、それと同時に自分の手足も大好きだし、『りあの手ってかわいいよね』って言ったりもするから、どっちの気持ちもあるんだと思います。でも、娘を見ていると、『これが自分の手足だ』って自信を持って言えていると感じるんです。

親としての罪悪感は多分一生消えないと思うのですが。こういう娘の姿には日々励まされていますね。生まれたばかりの娘を抱っこして『あったかい』って感じたときから、もうずっと励まされているんです。

りあという子を産めたことは、だれもができる経験でも学びでもないことなので、本当に自分の人生にとってすごく大切なものですね」(たらこ3姉妹ママさん)

「みんなに『魔法の手』のことをもっと知ってほしい」9歳のりあちゃんがYouTube配信に込めた思い

現在、りあちゃんはママとYouTubeで動画配信をしていて、ママとりあちゃんが個性について話すこともあります。動画配信を始めたきっかけはなんだったのでしょう。

「実は、YouTubeを始める前、まだ下の子たちを妊娠する前に、SNSで少し娘の手足のことを発信していたことがあるんです。それでつながった同じ個性の仲間たちもいるんですが、それが双子の妊娠・出産を機にストップしてしまって。ただ、常々この活動は続けていきたいと思っていたんです。

YouTubeを始めた当時、夫は双子が産まれたことで仕事が今以上に忙しく、帰ってくる時間も21時前後でした。双子妊娠中から出産後までコロナ下ということもあり、人と会えない状況の中、毎日のワンオペ育児と睡眠不足で、私は産後うつのような状態に。子どもはかわいくてしかたないのに『自分が消えたい』という思いが出てきてしまって…。このままではいけないと思い、双子育児の共有と先天性絞扼輪症候群を広める活動をYouTubeで始めることにしました」(たらこ3姉妹ママさん)

最初は、双子ちゃんの生活を主に配信していましたが、徐々にりあちゃんの手足についての動画も配信。りあちゃんの手足を映すときには、事前にりあちゃん本人に確認しているというママ。りあちゃんは自分の手足のことを動画で配信することについて、どう感じているのでしょうか。

「娘に聞いたら、もっとみんなにりあのような手足を持っている『個性』を知ってほしい、という思いがあるようです。こういう個性があること、生まれつきだということをたくさんの人が知ってくれたら、りあのような手足を見てもびっくりされないから、と言っています。

私と夫も、娘と同じようにまずはこの障がいのことをたくさんの人に知ってほしいという気持ちがあります。それは、いろんな個性を持った人に出会ったときに、障がいのことを知っているのと知らないのでは気持ちも対応も全く違うと思うから。知っていれば、きっとあたたかい気持ちや、やさしい気持ちで接することができるんじゃないかと思うんです。

娘の場合、現状生活面ではとくに困ることはなく、見た目の問題が大きい。つまり、目が大きいとか小さいとか、背が高い低いとかそういう個性と似ていると思っています。ただ、みんなが知らないから、みんなの当たり前ではないから、目立つのかなと…。

もし、娘のような手足がみんな知っている当たり前のことだったら、娘が傷つく言葉を投げられることはないかもしれない。だからこそ、YouTubeでの動画配信などを通して、たくさんの人に知ってもらうことが必要かなと思うし、娘の個性だけではなく、ほかの個性や障がいも当たり前になっていってほしいという願いがあります。

実際に『手のことで嫌なことを言われました』という動画を配信したあと、学校でいろんな学年の子が見てくれたらしく、娘は小学校で手足について嫌なことを言われなくなったそうなんです。

それに加え、その動画には、娘の味方をしてくれるコメントもいっぱいいただいていて。これから娘が中学生、高校生と成長してつらいことがあったときにはきっと励みになると思う。会ったことはないけれどSNSにもいっぱい味方がいるんだということがわかったことも、YouTube活動をしていてよかったことですね」(たらこ3姉妹ママさん)

障がいのことを話している動画でも、家族がわいわい楽しく過ごしている動画でも、ママとりあちゃんは親子というより、仲のいい友人同士。それもママの思いがあってのことだそう。

「まだ娘が生まれたばかりのころ、私はこの子のために何ができるんだろうってすごく悩んだんです。そして考えた結論が、娘が、今後大きくなって、手足のこととかで嫌なことを言われたりして、悩んだり悲しくなったりしたときに何でも話せる親友みたいな関係性でいたいということ。

だから、そういう存在でいるためにも、ちゃんと心について学びたいなっていう気持ちが強くなり、娘を産んですぐから心理学を学びました。

娘は基本的にポジティブな子に育っているんですが、小学校に入ってからも、ときどき嫌なことを言われて傷つくこともあります。でも、そのことをちゃんと話してくれるし、冗談交じりで『じゃあ、次言われたら何て言い返してやる?』なんて話をしたり。実際には相手にきつく言い返すことはないんですけど、友だち同士で話すみたいに、遊び心を持って話したりしますね」(たらこ3姉妹ママさん)

親友のように支えたいと思ったりあちゃんに、実際は励まされたり勇気づけられているというママ。今、読者の人に伝えたいことは…

「娘の障がいがわかったとき、私はこれからたくさん書いていかなくちゃいけないんだと思って、『先天性絞扼輪症候群』という言葉を何度もノートに書いて練習したんです。先天性絞扼輪症候群っていう病名も読めない方がすごく多いので、まずはこの個性を知ってもらって、読める方が増えるだけでもうれしい一歩だと思います。

そして先天性絞扼輪症候群についての記事を最後まで読んでもらえてうれしいです。ありがとうございました」(たらこ3姉妹ママさん)

■たらこ3姉妹さんのInstagram
https://www.instagram.com/wakeup2424/
■たらこ3姉妹さんのYouTube
https://www.youtube.com/@tarako3

お話・写真提供/たらこ3姉妹ママさん 取材・文/酒井有美、たまひよONLINE編集部

ただただ楽しくてかわいくて、思わず笑っちゃう動画が多い「たらこ3姉妹」のYouTubeチャンネル。「娘の障がいは個性のようなもの」というたらこ3姉妹ママさんの言葉でもわかるように、周囲の私たちが「知る」ということが、どんなに大切で、偏見を取り除くものなのかを改めて感じます。明るくて気づかいができ、やさしくて頼れる長女・りあちゃん。まわりにいっぱい味方をつけて、これからもたくさんの笑顔を見せてほしいです。

「 #たまひよ家族を考える 」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指して様々な課題を取材し、発信していきます。

関連記事: