精神科医で、産業医として企業で働く人の健康管理をサポートしている吉次聖志さんには、10歳の長女と8歳の楽(がく)くんの2人の子どもがいます。楽くんは、5歳6カ月のときに指定難病の歌舞伎症候群と診断されました。
歌舞伎症候群は、発達の遅れや顔貌(がんぼう)に特徴がある生まれつきの病気です。
現代の医療では根治治療法がなく、対症療法が中心です。吉次聖志さんと妻の真理子さんに、楽くんが生まれたときのことや異変に気づいたときのことを聞きました。全2回インタビューの前編です。
生まれたばかりの息子は、だれにも似ていなくて不思議な気持ちに
公益財団法人難病医学研究財団が運営する「難病情報センター」のサイトによると、歌舞伎症候群は特徴的な顔貌をもつ先天性疾患で、発症率は3万2000分の1と推定されています。
遺伝子の変異によって発生すると考えられていて、主な症状は、まぶたが外にめくれているほか、切れ長の目、弓状の眉、先端がつぶれた鼻、成長障害、骨格系の異常などさまざまです。
――楽くんを妊娠したときのことについて教えてください。
真理子さん(以下敬称略) 2人目がほしいと思っていたときに生理が遅れて「もしかして!?」と喜んだ矢先に生理がきて、「違ったんだ・・・」と肩を落としました。しかし実は、妊娠していて不正出血だったんです。
翌月に、生理がこなくて検査をしたところ妊娠が判明しました。まさか不正出血だと思わなかったので、流産しなくて本当によかったと胸をなでおろしました。その後の妊娠経過は順調でした。
――楽くんが、生まれたときのことを教えてください。
真理子 楽は2016年11月に生まれました。妊娠40週になり妊婦健診を受けて、病院を出るときに急におなかが張り出したんです。医師からは「10~15分間隔の陣痛だけど、2人目だから早いかも」と言われて、そのまま入院することになりました。急なことだったのですが、夫や私の姉も駆けつけてくれました。
妊婦健診でGBS検査をしたところ、B群溶血性レンサ球菌(GBS)が見つかっていました。陽性でも母親に症状が出たり、おなかの赤ちゃんに感染したりはしないそうです。でも、経腟分娩で生まれる際に赤ちゃんに感染することがあるそうで、出産時に赤ちゃんがGBSに感染しないように、出産の際には、点滴で抗生物質を投与して産道感染を防ぐことになっていました。本当は、お産の終了までに数時間ごとに何回か点滴するという説明でした。でも私の場合、お産の進みが早くて、2回目の点滴を打つ前に、楽は生まれました。出生体重は3044g、身長は50cmでした。
楽は生まれたときに泣かなくて、助産師さんに抱かれて、すぐに別室に運ばれました。生まれたばかりの楽を抱っこすることはできませんでした。
その後、医師から「何の感染症かはわからないけれど、肺炎を起こしている」と言われて不安でいっぱいになりました。妊婦健診で、GBS検査で陽性と言われたときからGBSについて調べていましたが、GBSは新生児にとってはとっても危険な細菌で、感染すると肺炎、敗血症、髄膜炎などを起こすこともあるからです。
「GBSに感染してしまったのかも?」と心配しましたが、抗生物質を投与したりして、楽は元気になり無事退院できました。入院期間は10日ぐらいでした。
聖志さん(以下敬称略) 生まれたばかりの楽を見たとき、僕にも妻にも、そして長女にも似ていないな~、と感じて不思議な気持ちでした。長女は、私にそっくりだったので・・・。楽は、耳の形にも違和感がありました。
そのころは似ていない、ということが病気が原因とは思いもしませんでしたが、歌舞伎症候群の症状は、切れ長の目や突出した大きな耳などの特徴があるんです。
リトミックで先生の指示が伝わらず、動きについていけない息子を見て「何かある」と感じた
楽くんは退院後、すくすく成長しました。しかし成長するに従い、気になることが・・・。
――楽くんの成長について教えてください。
真理子 楽の名前は、夫婦で考えました。どんな状況でも楽しく生きていってほしいという願いを込めて、命名しました。
楽は生後3カ月ごろから、あやすとニコニコ笑って、本当にかわいかったです。母乳もよく飲んでくれて育てやすい子だな~と思いました。
聖志 本当によく笑う、かわいい子です。それは今でも変わりません。生まれたときにちらりと感じた「だれにも似ていないな・・・」というようなことは気にならなくなっていました。
しかし、だんだん発達の遅れが気になるようになりました。楽は保育園に通っていたのですが、まわりの子よりも運動の発達面が遅くて1歳半を過ぎても1人で歩けないんです。1歳6カ月健診で相談したら「経過観察」と言われました。
言葉の遅れも気になりました。「ママ いた」などの2語文から進まないんです。
体も小柄でした。
3歳のとき長女とリトミックを習っていたのですが、楽の様子を見ていると先生の指示が伝わっていなくて、お友だちの動きを見てまねしていることがわかりました。同じ年齢の子はできているのに、楽だけ片足立ちやケンケンもできません。その姿を見たときに「何かある」と思いました。
また楽は重度のアレルギーがあり、アナフィラキシーショックを起こして、これまで3回病院に駆け込んでいます。急に顔色が悪くなり、呼吸状態がおかしくなり、あわてて救急車を呼んだこともあります。でも、うちの家族はみんな同様のアレルギー疾患がないので「なんで楽だけ?」と思っていました。検査をしたところナッツ、くるみ、卵がアレルゲンとわかりました。
ほかにも2歳を過ぎたころに、白斑が現れたんです。歌舞伎症候群の症状は個人差がありますが、楽のように発達の遅れや白斑が見られることもあります。
しかし、まさか大きな病気だとは思わず「なんだろう・・・」とずっと考えていました。私は精神科の医師です。知人の医師にも相談したのですが、みんな口々に「なんだろう・・・」と言っていました。
配信: たまひよONLINE