糖尿病には様々な合併症のリスクがありますが、なかでも気をつけたいのが3大合併症です。一体、どのようなものなのか、どんなことに気をつけたらいいのかなどについて、「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」の髙橋先生に解説していただきました。
≫【イラスト解説】放置するととんでもない「糖尿病」の初期症状6選
監修医師:
髙橋 紘(いんざい糖尿病・甲状腺クリニック)
埼玉医科大学医学部医学科卒業、東京慈恵会医科大学大学院医学研究科修了。東京慈恵会医科大学附属病院、富士市立中央病院などで経験を積む。2024年、千葉県印西市に「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」を開院。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医、日本肥満学会肥満症専門医。難病指定医、小児慢性特定疾病指定医。
糖尿病の合併症とは?
編集部
「糖尿病は合併症が怖い」と聞きます。一体なぜですか?
髙橋先生
そもそも糖尿病とは、何らかの原因で膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンが作用不足となり、血液中のブドウ糖が増え過ぎてしまう病気を指します。初期にはほとんど自覚症状がありませんが、血糖値が高い状態を放置すると血管をはじめ、全身の様々な組織に影響が及び、合併症を引き起こすことがあります。場合によっては、その合併症によって死に至ることもあるため「糖尿病は合併症が怖い」と言われるのです。
編集部
具体的に、どのような合併症があるのですか?
髙橋先生
例えば、慢性腎臓病や狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などは糖尿病の代表的な合併症です。糖尿病を発症すると血管が傷つき、固くなって動脈硬化が起きるため、これらの合併症が発症します。特に心筋梗塞や脳梗塞は突然死を引き起こすこともあるので、注意が必要な合併症です。
編集部
そのほかには、どのような合併症がありますか?
髙橋先生
糖尿病には、有名な3大合併症があります。それぞれの頭文字をとって「しめじ」と呼ばれるもので、糖尿病の合併症のうち、特に注意が必要とされています。「し」は糖尿病神経障害、「め」は糖尿病網膜症、つまり目に出現する症状、「じ」は糖尿病性腎症をそれぞれ指します。これらは糖尿病特有の合併症であり、いずれも細い血管がダメージを受けることによって起きるという共通点があります。
糖尿病の3大合併症
編集部
細い血管がダメージを受けるとは?
髙橋先生
血糖値が慢性的に高い状態が続くのは、いわば水道管が錆びてしまうようなもので、全身の血管がボロボロになります。特に怖いのは、細い血管。太い血管よりも細い血管の方が糖によるダメージを受けやすく、傷つきやすいのです。このように細い血管がダメージを受けることによって発生する合併症を、「細小血管合併症」と言います。神経、網膜、腎臓はいずれも細い血管が張り巡らされる部位であり、それらがダメージを受けることによって障害が発生するのです。
編集部
それぞれの合併症について、もう少し詳しく教えてください。
髙橋先生
糖尿病神経障害は糖尿病の合併症として最も多く起きるもので、感覚神経や運動神経、自律神経などに障害が起きることによって、様々な症状が出現します。例えば、感覚神経に障害が起きれば、足先にしびれや痛みを感じたり、物に触れた時の感覚が鈍くなったりします。また、運動神経に障害が起きれば筋力が低下して歩きにくくなるほか、筋肉痛や足の強張りがみられることもあります。自律神経に障害が起きると、立ちくらみ、発汗障害、消化不良、排尿障害などが起きます。
編集部
続いて、糖尿病網膜症とは?
髙橋先生
血糖値が高い状態が長く続くことで、網膜の細い血管が少しずつ障害され、変形したり詰まったりします。血管が詰まるとすみずみまで血液が行き渡らなくなるため、網膜が酸欠状態となり、新しく異常な血管を作って酸素を補給しようとします。しかし、新しい血管は脆いため、すぐに破れて出血を起こします。それが原因となって網膜剥離を起こすことがあります。糖尿病の合併症である糖尿病網膜症は、成人の失明原因の上位に位置するため、注意が必要な疾患です。
編集部
糖尿病性腎症についてもお願いします。
髙橋先生
目や神経と同じく、腎臓にも細かい血管が張り巡らされています。特に、血液を濾過するフィルターである「糸球体」は、網の目のように血管が走行している組織です。この糸球体の血管が糖尿病によって障害を受けると目詰まりを起こし、老廃物を濾過できなくなります。その結果、血液中に余分な老廃物や塩分が溜まります。初期にはほとんど自覚症状はありませんが、やがてむくみ、貧血、高血圧などを引き起こし、最終的には人工透析や腎移植が必要になります。
配信: Medical DOC