年齢に伴って現れてくるお悩みの1つであるシミのなかでも、3割以上の割合を占めるともいわれる肝斑が気になるという方は多いのではないでしょうか。
この記事では、肝斑とはそもそもどういった症状なのか、そしてどのように治療ができるのかなどについて、詳しく解説いたします。
肝斑とは
肝斑という言葉を耳にしたことがある方は多いと思います。
肝斑とはいわゆるシミの一種であり、その特徴としては頬骨のあたりや口の周辺、または額といった箇所に左右対称に現れるものです。
シミというと頬や手の甲などにくっきりと出てくる黒い点のようなものを思い浮かべやすいですが、肝斑は境界線がはっきりしておらず、もやもやとた形で現れることも1つの特徴となっています。
肝斑の原因
実は、肝斑が発生する根本的な原因については、現在のところ明らかになっていません。しかしながら、一般的に肝斑は30~50代の女性に生じることが多く、それ以降の年齢では発生率が低下していくことから、ホルモンバランスの乱れが主な原因として考えられています。
ホルモンバランスが乱れることによって皮膚組織にあるメラノサイトが活発になり、過剰なメラニン組織を作り出す状態が続くと、肝斑の症状として現れます。
肝斑はさまざまな要因で悪化する可能性があり、紫外線による刺激や洗顔などの摩擦による刺激によって肝斑が濃くなるほか、心理的なストレスや睡眠不足といった不規則な生活習慣などのホルモンバランスの乱れを誘発するような要因によっても肝斑が悪化しやすいとされています。
肝斑とシミの違い
一般的にシミといって思い浮かべる、境界のハッキリとした濃い色のシミは老人性色素斑といって、紫外線などの影響によってメラニン色素の排出が正常に行われなくなり、肌内部に色素が留まり続ける状態になることで引き起こされるものです。
メラニン色素の沈着によって生じているため、医療用のレーザーなどでこの色素沈着を引き起こしている組織を破壊し、排出を促すことで治療することができます。
一方で肝斑はメラニン色素が過剰に作られ続けている状態であり、刺激をうけるとメラニン生成がより増加してしまうことから、強いレーザーの照射はかえって肝斑を悪化させる要因となります。
なお、肝斑とシミはそれぞれ別にできるものではなく、同時に発生することも多い症状です。そのため、シミの治療としてレーザーや光による治療を行ったところ、肝斑が悪化して余計にシミが濃くなったように見えてしまうケースなども多く、治療を行う際にはそれぞれの見極めが重要になります。
肝斑の治療法について
肝斑を治療するためには、原因であるメラニン色素の産生を抑える方法と、肌に刺激を与えない方法でメラニン色素の除去を行うという2つのアプローチがあります。
薬物療法
現在、肝斑の治療において主流となっている方法が、トラネキサム酸という成分の医薬品を服用するものです。
トラネキサム酸は主に出血を止める作用をもつ薬で、抗炎症剤や止血剤として手術後のケアや、咽頭炎や口内炎といった症状の治療に使用されてきたものですが、蕁麻疹の患者さんの治療薬として処方した際に肝斑への改善効果があることが判明し、肝斑治療の薬として利用されるようになった経緯があります。
トラネキサム酸がなぜ肝斑に効果を発揮するのかというと、止血作用を発揮する過程でプラスミンという炎症を引き起こす要因となる酵素の働きを抑え、これによって過剰なメラニン生成を抑制して肝斑の改善につながるとされています。
肝斑治療ではトラネキサム酸を毎日決められた分量服用する形となりますが、トラネキサム酸は止血作用を持つ薬であるため、血栓症を引き起こすリスクなどがあると考えられ、市販の医薬品では2~3ヵ月間までの連続服用を上限としているものが多くなっています。
なお、薬物療法においてはビタミンCも同時に処方されることが多く、ビタミンCにも抗炎症作用やメラニン色素の生成抑制作用が期待できるため、トラネキサム酸との併用によって肝斑を効果的に改善できると考えられています。
レーザートーニング
レーザートーニングとは、レーザーの照射を弱い力で肌に対して均一に当てていくという治療法です。
レーザーの光によって肌の表面側にあるメラニン色素を破壊し、シミや肌の色ムラを改善することができます。
通常のレーザーによるシミ治療では強い熱エネルギーの刺激によって肝斑が悪化する可能性がありますが、レーザートーニングの場合は肌の深部に強い刺激が加わらないため、肝斑があっても対応可能、または肝斑を薄くするレーザー治療として用いられています。
ただし、レーザートーニングでは肌表面の色素を除去することしかできず、肝斑を治すためにはメラニン色素が過剰に作られている状態を改善しなければならないため、薬物療法などの併用が必要となります。
ピーリング
ピーリングは肌表面の古い角質を酸性の薬剤などで剥離することで、肌の再生機能を高めてターンオーバーを促し、メラニン色素が沈着している組織を排出させることなどによってシミの悩みを改善する治療法です。
また、近年では必ずしもピーリング=角質の除去を主な目的としたものではなく。マッサージピールのように、薬剤の浸透によって肌の機能に働きかける治療をピーリングと呼ぶこともあります。
ピーリングによって角質の代謝を促すと、メラニン色素が蓄積された層が薄くなるため肝斑の症状を改善することができます。
ただし、一方でピーリングによる刺激が肝斑を悪化させる可能性もあるため、治療を行う際にはしっかりとした診断と適切な治療でのケアが重要となります。
最近では肝斑治療を目的としたリバースピーリングといった治療もあり、これは表皮層への働きかけだけではなく、真皮層といった深い層への働きかけによってメラニン生成を抑制することで、肝斑を改善する効果が期待できるものとされています。
肝斑の治療の注意点
肝斑を治療するうえで気を付けたいのは、不適切な治療によって症状が悪化することの防止と、肝斑ではないほかの症状との見極めです。
肝斑に対して不適切な治療を行ってしまうと症状が悪化する可能性がある点は上述のとおりですが、肝斑治療として行われている治療法でも、肌質や治療の際の出力調整などによっては刺激が強すぎる状態となってしまい、悪化につながる可能性があります。
また、肝斑と間違われやすい症状であるADM(後天性真皮メラノサイトーシス)という症状との見極めも重要です。ADMは主に10代後半頃から生じることの多いあざの一種で、目元で左右対称に、ぼんやりとした形で現れるという特徴から肝斑と混同されやすい症状となっています。
しかしながら、肝斑と異なりレーザーによる治療が必要となるなど改善するための方法がまったく異なるため、この見極めが適切に行われないと、肝斑治療のために薬物療法を続けていたのに効果が見られなかったといった結果や、ADMだと診断されてレーザーを照射したところ肝斑が悪化したという結果につながってしまいます。
さらにいえば、肝斑とADMは混在して現れることもあるため、適切な治療を受けるためには診療経験が豊富で、しっかりとシミの種類について見極めが行える医師による治療をうけることが重要です。
配信: Medical DOC