「涼しいから大丈夫」の罠 食中毒が秋も多いワケ

第1回 秋も要注意! 秋に食中毒が起こる理由と防ぎ方
気温が下がり、過ごしやすくなる10月。蒸し暑い夏と比べて食品の傷みを気にすることが少なくなるのかと思いきや、秋にも食中毒は多いという。秋の食中毒の種類と原因を東京医科大学の中村明子兼任教授に聞いた。

●菌が増える条件を知ろう

なぜ秋にも食中毒が発生しやすいのか。その理由について、中村教授は次のように語る。

「原因としては、大きくわけて2つあります。まずは、気温が下がって体感温度も低くなるため、食品に対する油断が生じてしまうことです。菌が育つ温度は10度~60度の範囲で、条件としては非常に広いのです。菌が増えるには『温度・栄養・水分』が必要で、条件が整えば2時間で食中毒を起こすまでに増えてしまいます。『涼しいから大丈夫だろう』と食品を冷蔵庫に入れないでおくと、どんどん増殖してしまいます」(中村教授 以下同)

そしてもうひとつの理由が、秋の体調変化だという。

「夏を過ごした後の体は疲れていて、免疫力が下がっています。細菌やウイルスが入ると抵抗できなくなってしまい、食中毒を起こしやすいんです」

ご飯を食べている子ども

●菌をゼロにすることは不可能。日々の注意が必要

どちらの理由もウイルスや細菌そのものよりも、私たち自身が食虫毒の原因を作っているようにも感じられるが…。

「自然界の食品には、当然ながら菌が存在しています。菌をゼロにはできませんが、増やさないための努力はできます。そのためには、『なぜ食品を放置してはいけないのか』など、食中毒に関する情報を私たち消費者側が知る必要があります」

例えば、2017年8月に発生した総菜店のポテトサラダによるO-157事件。原因究明の調査が続くなか、トングの使い回しによる感染の可能性も疑われている。

「この事件により、お客さんの使うトングが複数の食材で使いまわされることの危険性が周知され、トングの扱い方を見直す店舗が増えました。同様に『あの店はトングの使い方がよくない』と消費者がお店を判断する基準にもなりますよね」

菌の育つ温度について知れば食品を放置しなくなるように、食中毒に関する知識が得られれば自己防衛にもつながる。「お店の商品だから安全」と信じすぎないことも大切のようだ。

●ノロウイルスは10月から発生

年間を通して、食中毒の種類に違いはあるのだろうか。

「食中毒はおもに、カンピロバクターやサルモネラ菌などが原因となる『細菌系』とノロウイルスなどの『ウイルス系』、植物性のキノコ・動物性のフグなどの『自然毒』によるものがあります。10月は気温が下がるため細菌による食中毒は少なくなるものの、代わりにノロウイルスが発生します。ただ、細菌による食中毒もゼロになるわけではないので、どちらにせよ、注意が必要です」

かつては「夏の病気」といわれた食中毒も、現在では年間を通して発生している。厚生労働省のウェブサイトでは、食中毒対策についてのリーフレットを確認でき、「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」として情報も開示している。食中毒を起さないよう、目を通しておきたい。
(取材・文:畑菜穂子 編集:ノオト)

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お話をお聞きした人

中村明子
中村明子
東京医科大学兼任教授(微生物担当)・NPO栄養衛生相談室理事長
共立薬科大学(現慶應義塾大学薬学部)を卒業し、国立予防衛生研究所細菌部室長、共立薬科大学理事・特任教授を経て現職に就く。学校給食における食中毒予防のため衛生管理の指導をおこなう。
共立薬科大学(現慶應義塾大学薬学部)を卒業し、国立予防衛生研究所細菌部室長、共立薬科大学理事・特任教授を経て現職に就く。学校給食における食中毒予防のため衛生管理の指導をおこなう。

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