泥酔した女性を自宅に泊めて男女関係に。同意があったと思っていたら、あとから「不同意だった」だと訴えられた――。弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられています。
相談者の男性によると、飲み会のあと、相手の女性が泥酔したため、自宅に泊めたそうです。その際に男女の仲になって、性行為も拒否されなかったといいます。
親密な関係に基づく性行為だったと考えており、女性が被害届を出したことに驚いているそうです。この相談者が罪に問われる可能性はあるのでしょうか。奥村徹弁護士に聞きました。
●性犯罪と判断されるポイントは?
——今回のようなケースで起訴される可能性はありますか?
刑法177条1項で準用される「アルコールの影響がある」ないし「睡眠その他の意識が明瞭でない状態にある」ことよって「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」の要件(176条1項)を検討することになります。
これらの要件は、改正前は準強制性交罪(178条2項)とされていたものですが、改正前刑法の下で積み重ねられた処罰範囲を前提として、その状態にあることの要件該当性の判断を容易にし、安定的な運用を確保する観点から、その状態の原因行為または原因事由をより具体的に例示列挙したものですから、現行刑法でも処罰範囲は変わりません。
一般に性犯罪は密室内でおこなわれることが多く、事後的に「承諾を得た」「不同意だった」のどちらが信用できるかという議論になりますが、刑事裁判では、双方の供述に客観的な裏付けがあるかどうかで決まります。
よく出てくるのは次のような点です。
【行為前】
・行為前の被疑者との連絡状況・交際状況
・被害者の飲酒量・飲酒状況
・飲食店・タクシー・コンビニ等の防犯カメラ・ドライブレコーダー
・被害者のLINE・メール、通話の履歴
【行為後】
・110番通報・警察相談の有無・時期
・家族友人同僚上司への相談
・医療機関への受診状況
・被害者の出退勤状況
・行為後の被疑者との連絡状況交際状況
・被害者のLINE・メール・通話履歴
今回のようなケースでも、検察官はこれらの証拠を集めて、不同意性交罪の成否を検討すると思われます。
性犯罪では、泥酔していた女性を自宅に連れて帰るというパターンが多いので、そういう状況は警戒する必要があります。
それらの客観証拠が、「同意があった」という男性の説明と矛盾しなければ、不同意性交罪で起訴されることはないでしょう。
女性があとから性行為に後悔するなどして、「同意がなかった」と言い出すことは時々あることですが、警察段階では、もっぱら被害者の供述に基づいて捜査が始められ、捜索押収や逮捕という強制処分があることにも注意してください。
統計上、強制性交罪・不同意性交罪の被疑者のうち、身柄拘束された人は6割です。
逮捕されてから、相手方との事後のメールなどを利用して起訴猶予になることはしばしばありますが、押収されてしまうとスマホを自由に使えないので弁解の支障になります。
●泥酔した状況は避けるべき
——起訴されないまでも、女性から民事で損害賠償請求される可能性がありますが、その場合はどのように対応することが望ましいのでしょうか。
説明した通り、男性の説明が通って、起訴猶予になった場合には、真剣な承諾があるので損害は認定されないと思われます。
——今回のように相手女性から訴えられないためには、どのような行動が求められますか。
泥酔など、真剣な承諾が得られないような状況での性行為は避けたほうがいいことになります。
性行為前後の客観証拠が重要ですので、消さないで残しておくこと、「不同意」が問題になったときには、弁護士の協力を得て証拠を集めて保存してもらうことでしょう。
【取材協力弁護士】
奥村 徹(おくむら・とおる)弁護士
大阪弁護士会。大阪弁護士会刑事弁護委員。日本刑法学会、法とコンピューター学会、情報ネットワーク法学会、安心ネットづくり促進協議会特別会員。
事務所名:奥村&田中法律事務所
事務所URL:https://okumuraosaka.hatenadiary.jp/
配信: 弁護士ドットコム