認知症の患者さんが一人暮らしをしている事例は決して珍しくありません。認知症患者さんのご家族は、「一人暮らしでも大丈夫だろうか」と心配になるかと存じます。そこで本記事では認知症患者さんにおける一人暮らしのリスクやトラブル事例、安全に暮らす方法、そして一人暮らしの限界のサインを解説します。
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一人暮らしをする高齢者の実態
日本ではどの程度の高齢者が一人暮らしをしていますか?日本において、65歳以上の一人暮らしの高齢者は男女ともに増加傾向にあり、昭和55年には65歳以上の男女それぞれの人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%でしたが、令和2年には男性15.0%、女性22.1%となっています。
特に女性の一人暮らしが多く、男性と比較して割合が高くなる傾向があります。背景として、核家族化の進行や配偶者との死別が挙げられます。また、高齢者の一人暮らしは都市部と地方で状況が異なり、都市部では利便性が高い一方、地方では買い物や医療機関へのアクセスが課題となることが多いです。
高齢者の一人暮らしは生活の自由度が高い反面、認知症や病気の進行、社会的孤立による健康リスクが懸念されています。そのため、地域の支援体制や見守りサービスの活用が重要になります。
日本の高齢者における認知症の発症割合を教えてください。日本では高齢化に伴い、認知症と診断される方も増加しています。65歳以上の高齢者を対象にした令和4年度(2022年度)の調査の推計では、認知症の方の割合は約12%、認知症の前段階と考えられている軽度認知障害(MCI)の方の割合は約16%とされ、両方を合わせると、3人に1人が認知機能にかかわる症状があることになります。
認知症の一人暮らしによって生じるリスク
認知症で一人暮らしをすることにどのようなリスクがありますか?認知症の高齢者が一人暮らしを続ける場合、いくつかの深刻なリスクが生じる恐れがあります。まず、日常生活の維持が困難になることが挙げられます。食事の準備や服薬管理が適切に行えず、栄養不足や脱水症、病気の悪化につながる恐れがあります。また、火の不始末による火災や、ガスの閉め忘れなどの事故のリスクも高まります。
さらに、金銭管理が困難になり、詐欺や悪質商法の被害に遭いやすくなります。消費者庁によると、認知症の高齢者が詐欺の標的となるケースは一定数あり、特に電話勧誘や訪問販売による被害が目立ちます。また、家族や支援者への不信感から「もの盗られ妄想」が生じることがあり、周囲との関係が悪化することもあります。
外出時の危険も大きな問題です。道に迷って帰宅できなくなったり、交通事故に巻き込まれたりする恐れがあります。実際に、認知症による行方不明者が年間約1万8000人にのぼるとされています。これらのリスクを軽減するためには、地域の見守りサービスの活用や、必要に応じて施設入居を検討することが重要です。
認知症の一人暮らしで生じたトラブルの事例を教えてください。認知症の一人暮らしによるトラブルは多岐にわたります。例えば、日常生活の混乱による健康被害の事例があります。ある80代の女性は、認知症の進行によって食事の準備ができなくなり、同じ食品ばかりを食べるようになりました。結果として栄養が偏り、低栄養と脱水症状により救急搬送されてしまいました。
また、金銭管理が難しくなることで詐欺被害に遭ったり、望まない出費をしてしまうこともあります。ある高齢の認知症の男性は、新聞の広告を見て何度も健康食品を注文し、短期間で高額な料金を支払っていました。家族が異変に気づいて止めようとしましたが、本人は「自分は間違っていない」と思い込み、家族との関係が悪化しました。
さらに、火災や事故のリスクも存在します。認知症の高齢者が料理中にコンロの火を消し忘れ、火災を引き起こした事例があります。幸い早期に発見されて被害は最小限で済みましたが、こうした事故は十分な見守りや環境整備がないと深刻な事態になりかねません。
外出時のトラブルとしては、認知症の男性が散歩中に道に迷い、警察に保護されるといった事例もあります。
このようなトラブルを防ぐためには、地域の見守りサービスやGPS機能付きの靴やキーホルダーを活用し、安全を確保することが重要です。また、家族や地域住民が協力して日常的な見守りを行うことが、認知症の高齢者が安心して暮らすためには重要となります。
配信: Medical DOC