乳房にしこりや痛みを感じると「もしかして乳がん?」と不安になる人も多いのではないでしょうか。しかし実際には、乳がんではない良性の変化によって起こるケースもあるようです。今回は、乳がんと間違えやすい「乳腺炎」「乳腺症」について、「登戸ブレストケアクリニック」の土屋聖子先生に解説していただきました。
監修医師:
土屋 聖子(登戸ブレストケアクリニック)
琉球大学医学部医学科卒業。その後、聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科、那覇西クリニック乳腺科、HAKUブレストケアクリニックなどで乳腺診療の経験を積む。2024年、神奈川県川崎市に「登戸ブレストケアクリニック」を開院。医学博士。⽇本外科学会外科専⾨医、⽇本乳癌学会乳腺専⾨医、検診マンモグラフィ読影認定医、乳がん検診超音波実施・判定医。
乳腺炎とは
編集部
まず、乳腺炎について教えてください。
土屋先生
乳腺炎は、乳腺に炎症が起こる病気で、授乳中に多くみられますが、授乳とは無関係に発症することもあります。授乳期には母乳のうっ滞や乳頭の小さな傷から細菌が侵入することが原因となるケースが多い傾向にあります。授乳をしていない人の場合は、乳頭から細菌が入って炎症を起こすことがほとんどです。
編集部
どのような症状が表れるのですか?
土屋先生
乳房の痛みや腫れ、しこりや熱感、赤みなどが典型的です。症状が進むと、発熱や寒気、倦怠感などの全身症状が出ることもあります。軽度であっても、症状に気づいたら早めに受診することが大切です。
編集部
乳腺炎の原因はなんですか?
土屋先生
母乳が乳腺にたまって炎症を起こす「うっ滞性乳腺炎」と、細菌が乳腺に入り込んで感染する「化膿性乳腺炎」があります。また、これらが重なり、母乳のうっ滞に細菌感染が伴って発症する場合もあります。
編集部
乳腺炎の治療はどのようにおこなうのでしょうか?
土屋先生
うっ滞が原因の場合は、搾乳や授乳を続けることで改善を図ります。痛みや熱がある場合は、抗生剤や解熱鎮痛薬を併用することもあります。化膿性乳腺炎の場合は抗生剤による治療が中心になりますが、重症例で膿がたまると切開排膿も検討されます。
乳腺症とは
編集部
一方で、乳腺症とは?
土屋先生
乳腺症は、女性ホルモンの影響で乳腺に生理的な変化が出た状態で、基本的には病気ではありません。月経周期や加齢、体調などによって乳房の状態が変化し、それが症状として表れることを指します。
編集部
どのような症状が出るのでしょうか?
土屋先生
しこりのような硬さを感じたり、乳房にハリや痛みを伴ったりすることがあります。乳頭から分泌物が出ることもありますが、通常は透明や乳白色です。これらの症状が月経周期にあわせて変化することも特徴の1つです。
編集部
乳腺症の診断や検査について教えてください。
土屋先生
マンモグラフィ検査や乳腺超音波検査で診断しますが、がんとの鑑別が難しいケースでは、造影MRI検査や針生検などの病理検査を追加することもあります。病気ではないとはいえ、検査で正しく判断することが重要です。
編集部
「治療が必要ない」というのは本当ですか?
土屋先生
基本的には治療を必要としない良性の変化です。痛みが強い場合には鎮痛薬や漢方薬を処方することもありますが、「カフェインや脂肪の摂取を控える」「十分に睡眠を取る」「ストレスを減らす」などの生活習慣の見直しが効果的なことも多く、薬を使わず自然に治まるケースが大半です。
配信: Medical DOC