国内観光地でインバウンド客が急増する中、古都「鎌倉」の住宅地が観光公害に直面している。
問題となっているのは、江ノ電「鎌倉高校前駅」近くの踏切。人気漫画『スラムダンク』のアニメ版オープニングにこの踏切とみられる場所が描かれたとされ、今では「聖地」として中国を中心に外国人観光客が押し寄せている。
しかし、ゴミのポイ捨てや民家への立ち入りといった迷惑行為が相次ぎ、ひどい場合は公園で全裸になって水道で体を洗ったり、民家に入り込んで排泄するといった事例まで報告されている。
鎌倉市は警備員の配置や多言語看板の設置など対策を講じてきたが、トラブル解消には至っていない。市議会では、住民や議員から改善を求める声が続出している。
10月1日から中国の大型連休「国慶節」が始まることもあり、さらなる混雑が懸念されている。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
●「車道に出ないで!」警備員が必死の注意
9月中旬、記者が鎌倉高校前駅に降り立つと、平日にもかかわらずホームは観光客であふれていた。下校中の高校生よりも外国人観光客が多く、中国語が飛び交っていた。
人をかき分けて改札口に向かうと、そこにも疲れた様子で座り込む人の姿が目立つ。
そこから徒歩数分、例の踏切が見えてくる。ざっと見ただけでも数十人が集まり、スマホやカメラを構えていた。

「危ないから、歩道に戻って!」「車道に出ないで!」
警備員の必死の声を無視して、観光客が車道に繰り返し飛び出す。踏切と海を重ねた「アニメの構図」を撮影するためだ。日本語が通じず、そのまま撮影を続ける人も少なくない。

江ノ電だけでなく、タクシーで乗りつける人もいる。神奈川県外のナンバープレートをつけたワゴン車が民家の前に停車し、中からぞろぞろと外国人の家族連れが出てくるのを何度も目撃した。
住民は、自宅前のタクシーに気を配りながら、車庫の出入りを余儀なくされている。
ここが繁華街であれば、観光客は歓迎されるかもしれないが、閑静な住宅地に大勢が押し寄せる状況は、地域の日常生活を大きく脅かしている。

●公園で全裸になる観光客
「鎌倉には観光地が多いですが、ここは普通の住宅街なんです。みんな静かに暮らしていたのに、いきなり観光地化してしまいました」
そう訴えるのは、この地域に住む堀内尚子さん。トイレやゴミ箱など、観光地に必要なインフラがないため、負担が地域に押し付けられているという。
「この地域の人たちは海辺を散歩しながらゴミを拾う習慣があります。サーファーや学校の生徒たちもビーチクリーン活動をしています。でも、今は量が多すぎて対応できない」

民家の敷地や自転車のカゴにポイ捨てされることもある。トイレも足りておらず、民家の敷地で排泄して壁を汚したり、公園で全裸になって水道で体を洗う観光客までいたという。
「結局、きれいにしているのは、私たち住民なんです。言葉は悪いですが『ケツをふかされている』状況が続いています」


