職場のお土産お菓子を「部外者」が勝手に食べてしまった。これは窃盗罪にあたるのでしょうか──。弁護士ドットコム編集部にこんな質問が寄せられました。
相談者によると、同僚のAさんが北海道旅行の定番お菓子を職場で配ったところ、少し余りが出たため部署の共通デスクに置いていたそうです。ところが翌朝、そのお菓子が跡形もなく消えていました。部署のメンバーに確認したものの誰も心当たりがなく、おそらく部外の人が食べてしまったと推測されるといいます。
確かに机の上には「○○部のみなさんへのお土産です」といった但し書きはなかったそうですが、常識的に考えれば「その部署の人のもの」と分かりそうなもの。それでも無断で食べてしまうのは、法的には「窃盗」にあたるのでしょうか。
オフィスでの「ちょっとした食べ物」をめぐるトラブルは、珍しくありません。職場のお菓子の「所有権」はどこまで法的に保護されるのでしょうか。また、こうしたケースで刑事責任を問うことは可能なのでしょうか。中西祐一弁護士に聞きました。
●窃盗罪は成立する?
──実際に通報に至るようなケースではないかもしれませんが、理論上は今回のような事例で、窃盗罪は成立しますか?
成立し得ると考えられます。
刑法235条は「他人の財物を窃取(せっしゅ)」することを窃盗罪としています。
ここでいう「他人の財物」とは、「他人が占有している物」を意味します。「占有」とは、物を事実上支配・管理していることです。
──職場のお菓子は、誰が占有していると考えられますか
今回のケースでは、相談者が所属する部署内の共通デスクにお菓子を置いたということですので、その部署の責任者(部長や課長など)がお菓子を占有していることになります。
そして、「窃取」とは、物に対する他人の占有を奪うことをいいます。
共通デスクにお菓子が置いてあれば、通常は、その部署の関係者に対してお菓子を食べることを許可する意味合いと考えられます。その部署と全く関係のない人に食べさせる意思はないと思われますし、そのことは、常識的に判断可能であると思います。
したがって、お菓子を食べた人が、相談者の部署と全く関係がない人物であれば、窃盗罪が成立すると思います。
●お菓子の横に「○○課員用のお土産です」メモも有効
──今回、「●●部の方へのお土産です」といったメッセージはなかったそうです。質問を寄せた人は「誰がとってもいいと勘違いさせてしまったかもしれない」と反省していましたが、事情によっては窃盗罪が成立しない可能性もあるのでしょうか。
その部署に所属していないが業務上頻繁に出入りしている人などになると、状況によっては、自分が食べてもよいと勘違いする可能性もあるので、窃盗罪が成立しない可能性があると思います。
なお、お菓子くらいの経済的価値があれば、窃盗罪は問題なく成立すると思われますので、お菓子の値段は問題にはならないと思われます。
このようなトラブルを避けるには、お菓子の横に「○○課員用のお土産です」などといったメモを添えておくとよいと思います。
【取材協力弁護士】
中西 祐一(なかにし・ゆういち)弁護士
金沢弁護士会所属。地元の方々の身近なトラブルの解決を目指し、民事・刑事を問わず幅広い分野の案件を取り扱っているが、その中でも、刑事事件には特に力を入れており、裁判員裁判や冤罪事件の国家賠償請求事件などにも積極的に関わっている。
事務所名:中西祐一法律事務所
事務所URL:http://www.nakanishi-law.net

