「馬鹿じゃ」で10万円、「見た目からしてバケモノ」は30万円 法務省が初公表した侮辱罪の“相場”

「馬鹿じゃ」で10万円、「見た目からしてバケモノ」は30万円 法務省が初公表した侮辱罪の“相場”

法務省は9月12日、2022年7月に厳罰化された侮辱罪に関する具体的な事例集を初めて公表した。SNSへの安易な書き込みから、対面での暴言に至るまで、生々しい事例の数々が並び、最高刑である罰金30万円が科されたケースも複数含まれている。

侮辱罪は2022年に厳罰化。ネット上の誹謗中傷が社会問題化する中で、どのような言動が罪に問われ、いかなる処罰が下されているのか詳細は不明だった。

専門家からは「対面で『馬鹿じゃ。』といった事例で、10万円の罰金が命じられているなど興味深い。基準は明確になっていないようにも見えるが、網羅されたもので大変参考になる」(清水勇希弁護士)と注目が集まる。

●公表された事例

2022年7月の法改正により、侮辱罪の法定刑は従来の「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」から、「1年以下の懲役・禁錮もしくは30万円以下の罰金」が加えられ、大幅に引き上げられた。

法務省が今回公表した事例は、改正刑法が施行された後、裁判が確定した事案だ。清水弁護士によれば「公表結果からは対面よりネットの方が重い処罰結果となりやすいことがわかる。拡散性など被害の程度が対面よりも大きくなるからと考えられる」という。

実際にどのようなケースで、いくらの罰金が科されているのか、具体的な事例を見ていきたい。

<【罰金30万円】ネット掲示板での執拗な誹謗中傷>

最も重い罰金30万円が科された事例には、インターネット上の匿名掲示板やSNSでの執拗かつ悪質な投稿が目立つ。

・事例1
SNSに、「●●(被害者勤務先名)会社の社長●●(被害者の名字の誤字)全てやりっぱなしひでーし社長だわい違法行為ばっかりすべての証拠もありまし」と投稿した。詳細は不明だが、ハッシュタグをつけて拡散や検索を促す内容だ。

・事例2
同じくインターネット掲示板で、被害者の氏名を挙げたスレッドに「●●(被害者の名字)みたいな醜い女に勃起する訳ないだろ。こんな女、大枚積まれても抱きたくねぇ!」などと3回にわたり掲載。性的、外見的な侮辱を含む卑劣な投稿だ。

・事例3
SNSに被害者の容姿が映った画像と共に「見た目からしてバケモノかよ。」と掲載した事例。短い言葉であっても、写真と組み合わせることで被害者の尊厳を著しく傷つけ、重い処罰の対象となっている。

<【罰金10万円~20万円】日常に潜む侮辱のリスク>

罰金額が10万円から20万円の範囲になると、ネットだけでなく、日常生活における対面での暴言も多く見られる。

・事例1(罰金20万円)
路上で被害者に対し、「泥棒」「泥棒家族」などと発言したケース。ネットだけが処罰の対象ではないことを示している。

・事例2(罰金10万円)
駐車場において、被害者に対し「馬鹿じゃ。」と言った事例が2件、それぞれ罰金10万円となっています。多くの人が「つい口にしてしまう」かもしれない「バカ」という一言が、10万円もの罰金につながったという事実は、注目すべき点だ。

・事例3(罰金10万円)
団地の集合ポストで被害者の名字が印字されたシールに黒色ペンで「ブタ子」と記載したケース。多くの人が目にできる場所での容姿にかかわる嫌がらせであったことから、10万円という高額の罰金につながったのだろうか。

<【科料9,000円~9,900円】「その一言」が犯罪になる瞬間>

1万円未満の科料であっても、前科であることに変わりはない。ここでも、日常的な場面での安易な発言が罪に問われている。

・事例1(科料9,900円)
空港の待合スペースで、被害者に対し「携帯充電してただけだろ。デブ。」と言ったケース。公共の場での外見を揶揄する言葉が処罰対象となった。

・事例2(科料9,900円, No.49)
パチンコ店の出入口付近で「ストーカーで。」「底辺で。」「あほじゃなお前。」などと言った事例。複数の侮辱的な言葉を投げかけた行為だ。

・事例3(科料9,000円, No.6)
会議の場で被害者に対し、「おいゴミ。」「ゴミ野郎。ゴミなんだよ。」と言い放ったケース。職場であっても、侮辱罪に問われるケースがあることがわかる。

●「感情的にならず、容姿をいじるような言動は控える」

「カッとなって書き込んでしまった」「これくらいは許されると思った」。そんな軽い気持ちが、数十万円の罰金という重い結果を招きかねない。

清水弁護士は「事例集は文言だけがピックアップされているが、判決では前後の文脈や状況、加害者属性なども考慮される」ことに注意が必要だと指摘する。

また「刑事事件になっても科料は9000円から30万円程度で、かつ刑事事件の罰金は被害者に支払われるわけではない。民事で開示請求した場合も裁判費用を踏まえると、経済的には被害者の負担は大きいことも事実」(同)といい、実態にあわせて法改正を重ねていく必要があると話す。

最後に清水弁護士は「表現の自由があるとは言え、一歩間違えたら、刑罰法規に抵触してしまうかもしれない。ご自身の身を守るためにも、感情的にならず、暴言や容姿をいじるような言動は控える必要がある。特にネットでの発言には注意が必要だ」(同)と警鐘をならした。

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