「離婚するって言ってたのに、別居すらしてなかったなんて…もしや美人局?」
職場の同僚男性と不倫関係にあった女性から、弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられています。
女性は、不倫相手の妻から「あなたのせいで家庭が崩壊した」「別居もしている」などと責められ、慰謝料150万円を支払いました。
条件には「離婚前提」「夫への求償権放棄」「夫への接触禁止」などが含まれており、一括で支払いを済ませたといいます。
ところが最近になって、夫婦は離婚どころか、その後に同居を再開していたことが判明。女性は「まるで美人局」「私だけが慰謝料の支払いをしただけということになり、納得できない」と憤りを感じています。
では、このような場合、支払ったお金を返してもらえる可能性はあるのでしょうか。離婚問題にくわしい水谷江利弁護士に聞きました。
●慰謝料は返還してもらえる?
──「離婚前提」という条件で示談書に合意したものの、その前提が違った場合、慰謝料を返してもらえるのでしょうか。
非常によくあるケースだと思いますが、結論から言うと返還は難しいです。
不貞慰謝料は「婚姻関係がどの程度破綻しているか」に応じて金額が決まります。婚姻関係が完全に破綻した離婚や別居に至ったケースと、いわゆる「元サヤ」に戻るケースでは、慰謝料の水準は異なります。
そのため、「破綻していないなら150万円も払う必要がなかった」と思うのは当然でしょう。
しかし、不貞慰謝料の支払いに関する示談は、民法上の「和解契約」にあたります。和解には「確定効」と呼ばれる効力があり、一度合意すれば「争点となっていた事実が実際とは異なった」ことがわかったとしても、その効力を覆すことはできないのです。
つまり、「婚姻がどれだけ破綻していたか」こそが、不貞慰謝料の「争点そのもの」である以上、その事実が思惑と違っていたとしても、示談を覆すことはできません。
「離婚前提」と聞いたとはいえ、離婚は離婚届を出すそのときまで成立はしませんし、そのときに離婚をめぐって話し合いをしていて「気をとり直してやり直す」ということはありえます。
●どういう場合に示談を取り消せる?
──では、どんな場合なら示談を取り消すことができるのでしょうか。
「和解の基礎になっていたが、争いの対象にはなっていなかった事項」が真実に反することがわかった場合は「錯誤」による取り消しができます。
たとえば、「離婚した」と言われて、偽造した離婚届や戸籍を見せられて示談したという場合です。これは離婚していることを前提に合意したので、詐欺や錯誤が成立し、示談を取り消すことができます。
一方で、「離婚前提」と言われただけで示談したのであれば、詐欺・錯誤の取り消しは難しいでしょう。

