「継父=危険」のデータなし…京都男児殺害事件で広がる言説、ステップファミリー研究者が指摘「親にならなきゃ」の罠

「継父=危険」のデータなし…京都男児殺害事件で広がる言説、ステップファミリー研究者が指摘「親にならなきゃ」の罠

●うまくいくステップファミリーは継親が「親役割から降りる」

菊地教授は、うまくいくステップファミリーに共通するのは、継親が「親代わり」となることを目指さないケースだと指摘する。

しつけや教育は同居親が担う。継親はそのサポート役に回り、継子との信頼関係ができてから、進路選択やトラブルの場面で子どもの「アドバイザー」になる──。

「継父であれ継母であれ。『親』というポジションに立とうとするともうひとりの実親と競合してしまい、『よりよい親』と認められようとして苦しくなる。むしろ、そのポジションから降りたほうがいい。そのうえで、継親その人にしかできない関わり方で、継親子関係を創造する。初婚家族にはない関係が追加されるので、子どもにとってもプラスになります」

●「早く『家族』になりたい」それは大人側の願望

これまでの調査によると、別居親との関係を保ち続けることも重要だという。同居親が、新しいパートナー(継親)との法律婚や同居を急がず、子どもと継親の信頼関係がつくられるのを優先したケースは、子どもにも受け入れられやすかったという。

「早く『家族』になろうとするのは大人の願望です。子どもも同じ願望をもっているとはかぎらないし、むしろ大人の願望を受け入れようとして本心は伝えられず、心に蓋をしてしまうのではないかと思います」

●「継続モデル/連鎖・拡張するネットワーク型」の家族形成へ期待

今年4月に施行された改正民法を、菊地教授は一定程度評価する。

選択的共同親権が新たに導入されたことそのものではなく、親の責務が明示されたことにより、親権の有無や婚姻関係に関わらず、父母に互いの人格を尊重し「親」として子どもの扶養への協力を求めている点を重視する。

「この理念が広まれば、子どもにとって一方の親がいなくなることが起きにくくなる。父母の婚姻関係にかかわらず、子どもが父と母、そして継親、両方の祖父母や継祖父母ともつながり続ける『継続モデル/連鎖・拡張するネットワーク型』のステップファミリーへと進むルートが開かれたのではないかと期待しています」

なかにはDVなどが原因で離婚し、加害親に子どもを会わせられないケースもあるが、「それはまた別途で、男性でも女性でも加害親に対しての支援プログラムが必要です」と付け加えた。

●「語れない子ども」をどう支えるか、救うか

今回の事件は最悪の結末を迎えてしまった。見えにくい"子どものSOS"をどう拾うかは、何より優先されるべき課題だ。

菊地教授が出会ってきた、ステップファミリーで育った子どもたちの多くは「自分の家族経験や想いを打ち明けたことはない」と語っていたという。明かせる相手は、同じように親が離婚した経験をもつ友人などに限られ、極めて少ないという。

子どもの心のなかは、父母の離婚や再婚により生活環境や家族関係が変わっていくことへの戸惑いや不安・不信感と、同居親や継親が望む家族形成への配慮や忠誠心との間で揺れる。

なかには、学校の課題で「自分史をつくる」という宿題が出され、交流の無くなった父親の写真を探していたところ、継父から「そんなに前の父親がいいんだったら出て行け」と叱られた子もいたそうだ。語ること自体がタブーになっていく。

●子どものSOSに気付ける立場の人から理解を広げる

求められるのは、子どもの意見表明を支える仕組み、だ。SOSに気付くことができる立場の人への理解がまずは求められる。

子どもの心身の変化にいち早く気づけるのは、保育や教育現場など、日常的に子どもに接する専門職や実務家たちだ。

「子どもが本当に信頼して、気持ちを語れる場をつくれるとよいでしょう。子どもの変化をキャッチしたうえで、ステップファミリーへの理解を踏まえながら、必要な支援につなぐとともに、保護者にもどう伝え家族をサポートできるか。それも重要な役割です。まずは保育や教育現場にステップファミリーへの理解が広まることを願っています」

さらに「行政には、子育て支援の通常のメニューのなかにステップファミリーを加えてほしい」と強調する。

たとえば、自治体から妊娠時に母親学級や父親学級の案内があるように、再婚の入り口の段階で、大人側にステップファミリーがうまくいくやり方や子どもに配慮すべきことを知る(学ぶ)機会があれば、それが子どもの生きやすさにもつながることが期待できるという。

●多様な「家族の形」への理解を

血のつながりの有無で「危険か安全か」を語るのは、問題の核心を外している。菊地教授はそう繰り返す。

「血縁ではなく、家族の構造を理解すること。そして、ステップファミリーの大人も子どもも、孤立を防ぐ仕組みや情報を社会が整えることが大切です」

ステップファミリーの多様性を認め、初婚家族をなぞらない家族のかたちを肯定する。それを支える制度と支援があって初めて、子どもを守る土台が作られるのではないだろうか。

【プロフィール】菊地 真理(きくち・まり)。大阪産業大学経済学部教授。家庭裁判所調査官試験委員会臨時委員(最高裁判所)。共著などに『ステップファミリー―子どもから見た離婚・再婚』(KADOKAWA)、『ステップファミリーのきほんをまなぶ―離婚・再婚と子どもたち』(金剛出版)。SAJ(ステップファミリー・アソシエーション・オブ・ジャパン)の運営委員。

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