猫のヒゲのように、細く長く続く本屋を目指して
−−先ほど作家さんへの尊敬というお話がありましたが、大久保さんが猫に対して抱く尊敬は、どのあたりにあるのでしょうか。
大久保:正直なところですかね。それと、いるだけで幸せ、という存在ってすごいじゃないですか。いてくれるだけでいい。そんな人間になりたいけど、ちょっと無理ですかね(笑)。
−−分かります。うちも2匹とも19歳で、どうしても別れの時期を意識し始めているんですが、いてくれるだけでありがたい、いなくなっても、存在を感じたということだけで温かい——そういう境地まで来ております。
大久保:その余韻とか、気配とか。私はたぶん、それを本に求めているんだと思います。本をたくさん集めることによって、猫の余韻とか気配に浸っていたい。店の中を、猫の気配で満たしたいというか。文学作品って文字だけで、絵もないけれど、そこから猫の余韻が読み取れますよね。だからみなさんにも、そうなってほしいんですよ。写真集は目にダイレクトに来るけれど、脳に来てほしいですね。
−−今後の吾輩堂の展望や目標は、どういったところにありますか。
大久保:まず、私が元気でいなきゃいけない。うちは2階にギャラリーがあるので、展覧会のときは重い荷物を抱えて一日に何十回も階段を上り下りします。だから体に無理をかけないことを心がけていて、営業時間を12時から18時までに短くして、定休日も水・木の連休にしました。だいぶ楽になりましたよ。真夏の展覧会も、博多は暑いしお客様も来ないのでやめました。
あとは、いろんな作家さんともっと知り合いたいですね。東京は作家さんもギャラリーも多くて、それだけは羨ましい。だから数ヶ月に一度は東京に行って、ぐるぐる見て回るようにしています。2店舗目を出したいとかは全然ありません。時々「東京や京都に出しませんか」と言われるんですけど、無理ですよ。私のこのわがままなテイストを継いでもらえるかどうか。
−−本屋をやりたい、という方が相談に来られることもあるそうですね。
大久保:時々来ますよ。私ははっきり「本屋だけでは食っていけない」と言います。うちも売上は本と、展覧会の作品や雑貨とで年間で均すと半々。本は薄利多売じゃないと無理だし、家賃を払いながら本屋だけでは、特に首都圏では成り立たない。だから本屋プラス何か——展示でもカフェでも——をしないと無理ですよ、とアドバイスしています。
−−この店を、これからどう続けていきたいとお考えですか。
大久保:いつまでできるか分からないし、私一代で終わってしまうかもしれない。それはそれでいいかなって。私のモットーは、猫のヒゲのように細く長く続く猫本屋です。
−−ヒゲは抜け替わって、また生えてきますしね。
大久保:そう、抜け替わってまた生えてもいいですよね。エンドレスにやっていけるように。
−−最後に、飼い猫たちのことも聞かせてください。ご自宅には4匹いらっしゃるんですよね。
大久保:店長のもじゃは、すごくのんびりした大らかな性格です。

もじゃ店長と仔猫時代の飛梅太
黒猫のチーチー(16歳・オス)は、神経質で去勢したにもかかわらずマーキングが止まないので、最近は猫用おむつをしています。

黒猫ちーちーとお友達のタコのヘンリー
白サバのチロ(13歳)は、唯一の女子店員です。見た目に反して凶暴なヤンキー気質。あまり人に慣れていません。

白サバ、チロちゃん。
一番甘ったれているのが飛梅太(とびうめた)。ちっちゃい、目も開かないうちから人間に育てられたので、人を疑うことをまったく知らない。飛梅太は冷泉家からやってきた子で、毎年、冷泉家からはお誕生日ケーキが届くんですよ。本当に公家猫です。うちに来た経緯は冷泉家時雨亭文庫の「文庫だより」や、原田マハさんの本で「飛梅」という短篇になっています。マハさんの短篇はほぼ実話です。

公家出身の猫、飛梅太くん。
4匹とも自宅住まいで、店に連れてくることはないです。猫アレルギーのお客様もいらっしゃいますし、逃げたら絶対に戻ってこられないので。インスタに載っているのは全部自宅です。
−−その猫ちゃんたちには、これからどうあってほしいですか。
大久保:いつまでも元気でいてくれたら、本当に、それだけでいいですね。
写真に撮ることのできない吾輩堂の本棚は、訪れた者の記憶の中にたたずみます。路地の奥、欄間の向こうに、猫の余韻と気配で満たされた一軒の本屋があること。それを知っている者だけが、記憶の網膜に灯りをともして店を後にするのであります。
猫のヒゲは抜けても、また生える。細く、長く、しなやかに。猫と暮らす皆々様におかれましては、大久保さんの言葉を胸に、お手元の一冊に猫の気配を感じつつ、よき夜をお過ごしください。次回のインタビューもどうぞご期待くださいませ。The post 猫とはたらくvol.06:猫のヒゲのように、細く長くを目指して。店主・大久保京さんに聞く「書肆 吾輩堂」繁盛記 first appeared on 猫ジャーナル.