●今回死刑が求刑されなかった理由
今回の事件では、なぜ死刑求刑がなされなかったのでしょうか。
今回のケースでは、強盗「致死罪」で起訴されている点が大きいと考えられます。
実務上、刑法240条は、暴行の際に殺すつもりがある強盗「殺人」罪、殺意はなく暴行の結果死亡させれば強盗「致死」罪、と区別されています。今回の起訴は後者です。
なお、今回の激しい暴行の態様を考えれば、殺意があったものとして強盗殺人罪で立件することも、理屈の上では検討されうると思います。ただ、外傷が激しくても、「死亡する危険性を認識し、死亡してもかまわないと認容していた(殺意があった)」という立証は容易ではありません。検察官としては立証の難しさを考え、強盗致死罪で起訴したのではないかと思われます。
被害者が1人の強盗致死では、死刑を選択する事案はみあたりません(東京高裁平成26年(2014年)9月17日判決参照)。また、強盗致死罪では、無期懲役になるのも全体の4分の1程度で、多くは有期刑にとどまるとされています。私が調べた限りでも、殺意のない強盗致死で死刑が言い渡された例は確認できませんでした。
●無期懲役は「軽い」のか
条文の上では、無期懲役でも10年を経過すれば仮釈放がありえます(刑法28条)。ただ、運用は大きく違います。
法務省の資料によると、2024年(令和6年)に仮釈放された無期懲役の受刑者は1人で、服役期間は38年余りでした。直近10年間でみても、仮釈放された人より、刑務所の中で亡くなった人の方がはるかに多くなっています。
有期刑は、どれほど重くても30年で必ず終わります。仮釈放が難しく、多くの受刑者が刑務所で人生を終える無期懲役は、それよりずっと重いといえます。
条文には死刑も定められています。ただ、殺意のない強盗致死で選ばれた例が確認できないため、無期懲役がこの事件で現実にありうる最も重い刑だといえます。
極刑を望む遺族の思いを前に、検察は量刑相場の中では最大限重い求刑をしたものと考えられます。

