「認知症」と間違われる“あの病気”?悪性貧血の見逃しがちな「症状」【医師監修】

「認知症」と間違われる“あの病気”?悪性貧血の見逃しがちな「症状」【医師監修】

悪性貧血の症状は、疲労感や息切れといった貧血症状から、手足のしびれ・歩行障害・気分の落ち込みまで多岐にわたります。「認知症かもしれない」「うつかもしれない」と思われがちな症状が、実はビタミンB12欠乏症によるものである場合もあります。見逃しやすいサインと、早めに医療機関へ相談することの大切さについて解説します。

山本 佳奈

監修医師:
山本 佳奈(ナビタスクリニック)

滋賀医科大学医学部卒業 / 南相馬市立総合病院や常磐病院(福島)を経て、ナビタスクリニック所属/ 専門は一般内科

悪性貧血(ビタミンB12欠乏症)の症状:見逃しやすいサインと重症化のリスク

悪性貧血の症状は多岐にわたり、初期には気づきにくいものも少なくありません。進行すると貧血だけでなく神経障害などを伴うこともあるため、早期にサインに気づくことが重要です。このセクションでは、代表的な症状と重症化した場合にみられる症状について解説します。

貧血症状:疲れ・息切れ・顔色の変化

悪性貧血で最初に現れやすいのは、赤血球が減少して全身への酸素供給が低下することで起こる貧血症状です。代表的な症状には、以下があげられます。

疲れやすさ・倦怠感(だるさ)
息切れ・動悸(軽い運動でも息切れや動悸を感じる)
顔色が青白い(蒼白)
めまい・立ちくらみ
集中力の低下

これらの症状は鉄欠乏性貧血とも共通するため、「貧血だろう」と自己判断されがちです。しかし、鉄剤を飲んでも改善しない場合や、血液検査で平均赤血球容積(MCV)の上昇を指摘された場合は、ビタミンB12欠乏症を含めた原因の精査が勧められます。

また、悪性貧血では、成熟前の赤血球が骨髄内で壊れやすく(無効造血)、ビリルビンが増加するため、皮膚や白目が黄色っぽく見える軽度の黄疸がみられることがあります。
さらに、悪性貧血では「ハンター舌炎(Hunter舌炎)」と呼ばれる舌の炎症がみられることがあります。舌が赤くつるつるした見た目になり、痛みやヒリヒリ感、味覚の変化を伴うこともあります。こうした症状もビタミンB12欠乏症の重要なサインの一つです。

神経症状:しびれ・歩行障害・認知機能の低下

悪性貧血(ビタミンB12欠乏症)のもう一つの重要な特徴は、神経系への影響です。ビタミンB12は、神経の周囲を覆って電気信号を効率よく伝える「ミエリン鞘(しょう)」の維持に欠かせません。そのため、不足が長期間続くとミエリン鞘が障害され、神経機能が徐々に低下していきます。
代表的な神経症状として、以下のものが挙げられます。

手足のしびれ・感覚の鈍さ(末梢神経障害)
足元がふらつく・歩きにくい(脊髄の後索変性)
筋力の低下
記憶力の低下・集中力の散漫
気分の落ち込み・無気力・不安感
重症の場合:認知機能の低下・せん妄(意識が混乱した状態)

また、深部感覚(位置覚や振動覚)が障害されることで、暗い場所で歩きにくくなったり、目を閉じるとふらつきやすくなったりすることもあります。 これは足の位置を正しく感じ取る機能が低下するために起こる特徴的な症状です。
特に神経症状は、貧血症状が目立たない段階で先に現れることもあり、「認知症」や「うつ病」など、他の疾患と区別が難しい場合があります。特に、中高年では、記憶力の低下や気分の落ち込み、手足のしびれなどの症状がみられる際には、ビタミンB12欠乏症が背景にないかを確認することも重要です。
神経症状は早期にビタミンB12補充療法を開始すれば改善が期待できますが、治療開始が遅れると回復に時間を要したり、症状の一部が残ったりすることがあります。そのため、手足のしびれや歩行時のふらつき、記憶力の低下などの気になる症状が続く場合は、自己判断せず早めに医療機関を受診しましょう。

消化器症状:舌の炎症・食欲不振・便の変化

悪性貧血では、口腔内や消化管にも症状が現れることがあります。こうした症状は見逃されやすいものの、ビタミンB12欠乏症の早期発見につながる重要なサインとなる場合があります。
舌が赤くなり、つるりとした表面になる「ハンター舌炎(舌乳頭が萎縮する状態)」
舌の痛みやヒリヒリ感
口角炎や口内炎
食欲不振・吐き気
下痢または便秘
体重の減少

特にハンター舌炎は、ビタミンB12欠乏症に比較的特徴的な所見とされています。「最近、舌が赤くつるつるしてきた」「舌がしみる、痛む」といった症状が続く場合は、内科などで相談するとよいでしょう。

これらの症状は、ビタミンB12不足によって細胞分裂が障害され、口腔や消化管の粘膜の新陳代謝(ターンオーバー)が低下することで生じると考えられています。舌炎は、貧血や神経症状より先に現れることもあるため、早期発見の手がかりとなる場合があります。

精神・心理的症状:気分の落ち込みや記憶への影響

悪性貧血(ビタミンB12欠乏症)では、気分や認知機能にも影響が及ぶことがあります。「気分が沈む」「意欲がわかない」「物忘れが増えた」といった症状は、ストレスや睡眠不足、加齢による変化と考えられ、ビタミンB12欠乏症が見逃されることも少なくありません。

ビタミンB12は、神経機能の維持や神経伝達物質の正常な働きに重要な役割を果たしています。そのため、欠乏すると抑うつ症状や集中力の低下、記憶力の低下などがみられることがあり、重症例では認知機能に影響を及ぼすこともあります。

気分の落ち込みや集中力の低下が続く場合には、精神的な要因だけでなく、ビタミンB12欠乏症を含む身体的な原因についても確認することが大切です。特に、動物性食品の摂取が少ない方、悪性貧血や胃切除後、消化器疾患の既往がある方、あるいはメトホルミンや胃酸分泌抑制薬を長期間服用している方では、必要に応じてビタミンB12値を確認するとよいでしょう。

ビタミンB12欠乏症が原因である場合には、適切な補充療法によって精神症状や認知機能の改善が期待できます。精神的な不調を「年齢のせい」「仕方がない」と考える前に、身体的な原因が隠れていないかを確認することも大切です。

まとめ

悪性貧血は、ビタミンB12の吸収障害によって起こる代表的なビタミンB12欠乏症です。疲れや息切れといった貧血症状だけでなく、手足のしびれ、舌の痛み、気分の落ち込み、記憶力の低下など、一見すると貧血とは結びつきにくい症状が現れることもあります。
ビタミンB12欠乏症の背景には、悪性貧血(自己免疫性胃炎)のほか、胃切除後、動物性食品の摂取不足、妊娠・授乳、加齢など、さまざまな原因が考えられます。症状が気になる場合やリスク因子がある場合は、自己判断せず、内科や血液内科などでビタミンB12値を含めた血液検査を受けることが大切です。
ビタミンB12欠乏症は、早期に発見し適切な補充療法を開始すれば改善が期待できる疾患です。一方で、神経症状は治療が遅れると回復に時間がかかったり、一部の症状が残ったりすることがあります。「年齢のせい」「疲れのせい」と見過ごさず、気になる症状があれば早めに医療機関へ相談しましょう。

参考文献

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」

国立健康・栄養研究所「ビタミンB12の解説」

配信元: Medical DOC

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