●なぜ精神疾患があると刑が軽くなるのか
「精神疾患があっても人を殺した事実は変わらないのに、なぜ刑が軽くなるのか」 という疑問を持つ方は多いでしょう。これは刑法の根本的な考え方に関わる問題です。
刑法は、行為者が「規範意識を働かせ、規範に従って行動できる能力」がある場合にのみ刑事責任を問うという考え方に基づいています。つまり、「悪いことだと分かっていて、それを止めることもできたのに、あえて犯罪を行った」場合に刑罰を科すのが原則です。
精神疾患により判断能力や制御能力が著しく低下していた場合、その人に対して通常と同じ非難を向けることが適切かという問題になります。心神耗弱の場合でも刑事責任は問われますが、精神状態を考慮して刑が減軽されるのは、こうした考え方に基づくものです。
今回の事件でも、妄想症状が犯行に影響を与えていたとしても、基本的な善悪の判断や行動制御能力が完全に失われていたわけではないため、心神耗弱として減軽はされるものの、依然として重い刑事責任が問われることになると考えられます。

