息子を添い乳で寝かせるようになったのは、生後半年を過ぎた頃からでした。
我が家の寝室は八畳の和室に大きなマットレスを敷き、その上に普通の敷布団を二枚並べています。床ベッドのような雰囲気といえばいいのでしょうか。
生まれたての息子はふにゃふにゃでか弱くて、私と夫の間に置いて寝て、「潰してしまったらどうしよう!」と不安でした。なので、布団の脇に段ボール製のベビーベッドを置いて、そこに息子を寝かせていました。
新生児の頃は正直どうやって寝かしつけていたのか、もう記憶にありません。母乳の出が少なかったので、母乳をあげた後にミルクを追加し、飲みながらウトウトした息子をそーっとベッドに寝かせ……。
そーっと手を抜くと、お目々がパッチリ開いた!
じゃあ、抱っこしててあげよう、トントンがいいかな……。
そんなことの繰り返しでした。
母乳の出がだんだん良くなったので完母になると、夜中は布団の上であぐらをかき、その間に息子を置いて、背中を丸くして授乳。
そうしているとすうすう寝てくれるので、膝から降ろすのがもったいない!膝の上に息子を乗せたまま、後ろにひっくり返って寝落ちすることがよくありました。
名付けて栓抜きスタイル!
夏の熱帯夜だったので、エアコンの効いた涼しい部屋でおっぱい丸出しでひっくり返っては、よく夫に風邪引くよと怒られていました。
膝から持ち上げるたびに目を覚ましてしまい、一時間ずっと抱っこトントン、間もなく次の授乳時間が迫る。
育児あるある状態に、どんどん疲弊していきます。このまま、膝の上で寝かせていられればなぁ。
生後半年頃、久々に会った高校の友人が、添い乳を勧めてくれました。
「添い乳かあ、潰しちゃいそうで心配で……」
「もう首も座って、寝返りもできるんでしょ?大丈夫だよ。ママもそのまま寝られるよ」
ママも寝られる。なんて素敵!
季節も冬に突入し、栓抜きスタイルで寝るといよいよ本格的に風邪をひきそうになっていたのもあり、私は添い乳に挑戦することにしました。
息子を寝室に連れていき、ベッドではなく、大人の布団の真ん中、川の字の真ん中のところに寝かせてみる。
「あれ、ボク、ここで寝るの?」とでも言いたげに、くりくりのお目々でこちらを見上げてきます。息子の横になって、あれ、これ、片っぽのおっぱいしかあげられない?そのうちできるようになるのかな?
横になった状態でおっぱいを飲むのが初めてなのは、息子も同じ。戸惑ったようにおっぱいをじーっと見つめていましたが、パクリとくわえてくれました。
ちゅうちゅう。
ドキドキしながら見守ります。寝てくれるかな?
ちゅうちゅう。ちゅうちゅう……。
寄り添って寝ると、こんなに暖かいんだ。一所懸命飲んでるな。
ちゅうちゅう。ちゅう……すう……すう……。
え!? もう寝た!?
想像よりもずっと早く、息子は眠りに落ちました。まだ乳首を口にくわえたまま、時々もにょもにょと吸い続けています。
そーっと引っ張ってみると、ぽろんと乳首が飛び出して、小さな唇は慌てたように空中をちゅうちゅうしますが、すぐに寝息に変わりました。
添い乳、すごい!
こんな簡単に寝てくれるなら、もっと早くからやればよかった!
それ以来、ねんねの時は添い乳になりました。教えてくれた友人に大感謝です。
しかし、息子も慣れてくると、添い乳すればいいってわけではなくなってきました。1歳を過ぎて、成長して生活リズムが整ったのもあるかもしれません。
夜眠る時など、もう寝る時間なのに、おっぱいから離れて元気に寝室を駆け回ってしまう、なんてことがよくありました。
すんなり眠ってくれる方法はないのかな。
生活リズムは気を付けてるつもりなんだけどな……。
そんな時、寝かしつけには足を温めると良い、と聞きました。赤ちゃんが眠るときは手足が暖かくなるので、逆に温めてあげると眠くなるんだとか。
なるほどと思い、その日の寝かしつけの時に息子の足を触ってみると、先ほどまで冬の寝室を走り回っていたこともあり、石のようにひんやりと冷たかったのです。
「わ、冷たい!あったかくしてあげるね」
おっぱいをあげつつ、息子のつま先を温めてあげようとすると、手だとなかなかうまくいきません。
試行錯誤の末、私は布団の中でパンツ一丁になり、素の太ももに息子のつま先を挟んであげることにしました。
「冷たいあんよだね、すぐにあったかくなるからね」
抱きしめるような形になるので、鼻を塞がないように気を付けていると、太ももの間の息子のつま先が、カイロのようにポカポカと暖かくなってきました。おっぱいを吸っている息子の顔も、トロンとなんだか眠そう。
足を温めるのすごい!そのままおっぱいを吸わせながらトントンしていると、あっというまに眠りに落ちてしまいました。
「足を温めるのすごいな……!」
添い乳に続き、ものすごい秘密兵器を手に入れた気分でした。
「そういえば、小さい頃、私もお母さんに足を温めてもらったなぁ」
私も小さい頃、両親と兄と「川の字+1」で眠っていました。
布団に入るも、なかなか寝付けず、天井を眺めてごろごろしていた私。母は家事やら何やらを終えて布団に入ると、目が覚めている私を見つけます。
「足冷たいね、あっためてあげるね」と抱き寄せてくれる母。私は嬉しくて、母のやわらかい足の間に自分のつま先を突っ込んで、そうするとすぐに寝てしまったっけ。
あれは、保育園に行くか行かないかぐらいの記憶だから、3歳前後でしょうか。
当時は、単に温めてもらっている、くらいにしか思っていませんでした。でも、もしかすると、私ももっと小さい時から、母に足を温めてもらって眠りについていたのかもしれない。
物心ついた時にしてもらったのは、その名残だったのかもしれない。
お母さんも、寝かしつけに苦労してたのかもしれないなぁ。
こうやって、受け継がれていくんだなぁ。
母から私、私から息子へ。
暖かなバトンが次の世代に繋がっていったような気がして、嬉しくなった夜なのでした。
ライター:吉田けい