先日ようやく、七五三の後撮りが終わった。
今年は三人そろっての七五三だったので、ただひたすらにかわいい、だった。
子どもがお衣装を選ぶ時、わりとハラハラしませんか。
まず長女。
今日びの子ども向けのお着物って、テイストの幅がとても広くて、レトロでポップなものから、古典柄から、レースがたっぷりとついたファンシーなものまで様々だ。
親っていうのはどうしてこうも保守的になってしまうんだろう。
「好きなのを選んでいいよ」と言いながらも、つい心の中で小さくハラハラしてしまう。
なにを着たってかわいいのは、分かっちゃいるのだけれど。
親のハラハラをよそに、長女は赤い古典柄で絞り風の、粋なデザインを選んでいた。
忖度では!と心配になって、「エメラルドグリーンもあるよ!」と見せたけれど、赤ががいい、とのことだった。
ドレスのお写真も撮っていただけるとのことで、そちらは黄色を選んでいた。
お次は息子。
一枚の着物を見る時間、およそ0.5秒。とにかく早い。
ざっとすべての着物に瞬く間に目を通していた。
そして、ちゃんと見たのか疑いたくなる早さで、「龍のやつ」と言った。
いや、息子よ、龍の柄はなかったよ。
龍はないよと伝えると、ああそっか、じゃあ青、と言って青いお着物を選んでいた。頓着のなさ。
次に、「洋装はこちらになります」とスタッフさんに促された先を見てぎょっとした。
明らかに一枚、洋装ではないのが混ざっている。
真っ赤な上下のセットアップで、ウエスト部分に変身ベルトのようなものがついている。
黒とグレーのスーツが並ぶ中、そのセットアップは異彩を放っていた。
「これにする」
息子の目が輝いた。もちろん赤のセットアップを指している。
なにを着てもいい、と思っていた。
ついさっきまで。
ファンシーでレーシーな着物に対しても、心をまっすぐにして、かわいい、と言える準備もできていた。
けれど、けれど、それは、どう見ても、スーツじゃない。
受け止める気持ちも少し、心の中に用意して、想像してみる。
黄色い長女のドレスの隣に、赤いセットアップ、しかもだいぶ猛る感じに気持ちも仕上がっているはず、の息子を頭の中で召喚した。
けれど、2秒でやっぱりだめだ、と打ち消した。
今しか撮れない写真が出来上がるだろうし、それはそれで最高なんだけれど、ごめん、お母さん、自分で思うよりうんと保守的みたいだ。
勇気を出して、「それは、ちょっと七五三のお洋服じゃないんだよ」と言うと、息子はあっさりと「じゃあなんでここにあるんだよぅ」と言いながら、ちょっと派手目のグレーのスーツを選んでいた。
歌謡界のスターみたいで大変似合っていた。
さてさて、最後は我が家のアイドル末っ子だ。
最近は絶賛「ぷりんちぇちゅ」に夢中で、毎日のように「ぷりんちぇちゅになりたいの」と言っている。
叶えてあげることができるこの日が来るのを、私はひそかに心待ちにしていた。
彼女は着物も、ドレスも、ピンクであればオールOKらしかった。
小柄な体形が邪魔をして、あまり衣装の選択肢がなかったのだけれど、用意があった衣装に、ピンク色のものがあったのでそれで即決した。
その日、私はかなりの覚悟をもって臨んでいた。
慣れない着物も、退屈な撮影も、知らない人に「笑って」と言われるのも、子どもたちにとっては面倒で仕方がないだろう。
ノリにノッている子と、もう帰りたい子と、疲れて泣いてしまう子、が入り乱れるのではないだろうかと危惧していた。
スタッフさんから事前に「お菓子を持ってきてもらって大丈夫です!」と言われていたので、これは、相当な修羅場が訪れるという伏線であるな、という判断もしていた。
ところが、私の心配をよそに、撮影は終始円満だった。
因みに私の心配スコアは、末っ子>息子>長女、の順だった。
なんと言ってもイヤイヤ期の2歳だから、窮屈な服を着ているということだけで愚図るのでは、と震えていた。
だけれど、そこはピンクの魔力と彼女の女子力が優勢になったらしい。うっすら口紅をひいてもらったのも、髪の毛をくるくるにしてもらったのも、たまらなく嬉しかったようだった。メイクが始まってから、撮影が終わるまで、終始ご機嫌のルンルンだった。どんなポーズを指示されても懸命に応えていた。
身も心も「ぷりんちぇちゅ」になったらしい末っ子は、スーツを着た兄が王子様に見えたらしく、「踊りましょう」とダンスに誘っていたのもまた、とてもよかった。
息子は、髪の毛をワックスで整えてもらったあたりから、かなり満足していて、特にスーツに着替えてからは絶好調だった。カメラマンさんにポージング(台の上に腰を掛けた姿勢で足を組み、頬づえをつくというもの)の提案までしていた。
そんなポーズどこで覚えてきたのか、こちらとしてはちょっと吹き出し案件だったのだけれど、その日の私は徹底してファンタジスタに徹するのみだったので、ひたすら「かっこいい」と「最高」を交互に叫んでおいた。
その後も息子は、バラを一輪持たされたり、ハットを斜めに被らされたりして、そのすべてに、これ以上ないくらいのキメ顔で応戦していた。
5歳が悦に入るとこういうことになるんだな、と可愛いと面白いの見事なマリアージュを非常に楽しく見守った。
意外と難航したのが長女だった。
「笑うのがちょっと恥ずかしい…」と言って、もじもじしたりしていた。
が、そこは7歳、カメラマンさんの事情も分かるし、母の事情も分かる。
グミをあげたり、励ましたり、気に入りのぬいぐるみを見せたりして、なんとかその都度口角をあげてもらうことに成功した。
最後の方は、カメラマンさんと私による「二重の褒め殺し」で、わりと楽しくなったらしく、うふふ、と自然に笑みがこぼれたりもした。
照れ笑いもかわいらしかったので、はなまる。
かなり覚悟を決めて行ったものだから、なんとか平和に終われたことに、心の底から安堵した。
子どもたちに感想を聞いたら、みんな「楽しかった」と言っていた。よかった。
そして、私も最初のハラハラをよそに、実はとっても楽しかった。
3人ともとびきりの正装をして、眩暈がするほどかわいくて、この子たちはなにか人類史上最大の奇跡なのでは、と思うほど尊かった。
しかも、撮影を円滑に進めるために褒め殺す、という大義名分のもと、肺と喉が疲労するほど「かわいい」を大声で叫ぶことができて、思い残すことも心残りも、なにひとつない。
後日、アルバムに収める写真を選ぶために、再び写真館に行ったのだけれど、画面いっぱいに子どもたちの最高ショットがぎゅうぎゅうに押し込められていて、またさらに最高にかわいかった。
どこを切り取っても最高だったし、かわいいだったし、もはや来年も七五三でいいんじゃないかな、と思うほど。