パートナーのベストプレー…
「なんだと!?今でも許せない夫の言動」とかなら100個くらい思いつくんだけどなあ…とは言え、あります。
探せばあります!
あれはまだ息子が2歳だったころ。
その日、私たちは家族旅行に出かけて大きな自然公園に来ていた。
池の鯉のエサやりスポット、大型遊具やゴーカートがあったりして、家族連れでそこそこ賑わっていた。
なぜか公園の入り口に観葉植物屋があって、「明らかな観光地で誰が買うのだろう…」と思っていると、夫が「好きなのあったら買っていいよ」と。
いやいや、旅行先で観葉植物買う、って何よ。
「これとか?」って1.5メートルくらいあるじゃない。
要らないです。
普段「合理的であること」をこよなく愛するのに、突拍子もないことを言い出す男、我が夫。
家族や数少ない友人など心を許した人にはニコニコするが、それ以外の人には必要最低限のやりとりしかしない、それが我が夫なのだ。
他人に興味を示さない夫を、私は「コミュ障だよね~」と折に触れて笑った。
夫はそれを甘んじて受け入れ、「へへ…」とニヤニヤする。
よその子が池に落ちた!?不愛想な夫が見せたベストな対応<第四回投稿コンテストNO.1>
80,531 View家族以外の他人には愛想を振りまかない、合理的な夫。とっさの時に獅子えもんさんが目撃した、「軸がぶれない夫の行動」は、今でも忘れられないエピソードになっているそうです。
話は旅行に戻る。
一通り公園で遊び、帰り際に息子が「もういっかい さかなに ごはんあげる~」と言うので、夫は嬉々としてエサを買いに行った。
鯉の泳ぐ池はなかなかの広さで、1周歩くと大人の足でも5分くらいはかかる大きな池だった。
それでも鯉たちは人間が来るとエサがもらえるからか、池の淵にわらわらと集まっていた。
エサやりのためか池に柵はなく、私はまだまだ頭の重い息子の体をしっかりと支え、「あんまり鯉に近づかないでぇ…」とお願いしていた。
全然聞いてないけど。
そして私はこの時、気になっていることがあった。
隣の幼稚園~小3くらいの5、6人の子どもグループ。
鯉の口に触ろうと、小突き合いながら必死に池に手を伸ばしている。
「あぶないよね」と夫がポツリと言い、私は彼らの保護者の顔色をうかがおうと辺りを見回すと、どうやら20メートルくらい後ろのカフェのテラススペースで談笑しているのが親御さん達なようだ。
幼稚園児くらいの子が、池と親の間を行ったり来たりしている。
複数の家族で来ている模様。
せっかくの旅行。
親たちだって楽しみたい。
分かる。分かるけども。
「エサ終わったし帰ろうか」 「うん」
その時だった。
「ボチャン!!」
落ちた。
一番大きい小3くらいの子が、頭から落ちた。
私はカフェに向かって「子ども落ちましたよ!!」と叫んだ。
親たちはギョッとして、私は息子も落ちてはかなわん、と池から離れた。
振り返ると、幸い池の深さは1メートル強だったらしく、男の子は池の中で顔面蒼白で立っていた。
顔は水面にしっかり出ているが、水に浸かって今にも泣き出しそうな顔をしている。
親たちがすごい形相で駆け寄ってきている。
と思ったら、夫が両足どっぷり池に浸かって、長くはない足を精一杯伸ばし、子どもに「つかまって」と言っている。
足にしがみつく子どもをぐっと引き寄せて、陸に上げた。
夫は親たちの方を振り返り、「自分の子どもは自分で見てなきゃダメでしょうが!!」とだけ言った。
走ってきた大人たちは、ただ呆然とするばかりだった。
何か言いたかったのかもしれないが、何も言わなかった。
「…うわぁーん!!」
普段温厚な夫が大声を出したので、うちの息子だけが泣いてしまった。
下半身ビショビショの夫は、息子を抱き上げると「よし、家に帰ろう」と言った。
すごい。
この人は、すごいな。と思った。
私だったらすぐ親たちが来る状況なら池にも入らないし、助けた後も(私がいつも夫を責める時みたいに)クドクドと相手の親に言ってしまったと思う。
夫はその場にいる大人として、彼の思うベストな行動を淡々とこなしたのだ。
車に向かって歩きながら「よく池に入ったね」と言ったら、「だってかわいそうじゃん」と。
ほんとだね。
その通りだよ。
他人に愛嬌を振りまかない夫を私は、どこか尊敬している。
私はむやみやたらに誰にでもニコニコしてしまう。
一瞬でも他人によく思われたいのだ。
夫はそれをしない。
彼は自分の中にブレない軸を持っている。
車に着いて「着替えたら?」と言うと、まさかの「1泊だからズボンの替えは持って来てない」。
出たよ、合理主義。
ビショビショの下半身で運転し、「濡れてるズボンってさ、エアコンの風が当たると寒いんだね。知らなかった」と、夫。
え…そういえばこの前も、食卓テーブルの上で味噌汁椀が勝手に動いた!なんで?見た!?って大騒ぎしてたね。
夫の「人間」としての成長のデコボコ具合を目の当たりにし、じわじわと笑いが込み上げてくる。
「親の背をみて 子は育つ」
息子よ、君がお父さんみたいな男に成長してくれたら、母は、ちょっと嬉しい。
(ライター:獅子えもん)
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