我が家は夫、私、息子、娘の4人家族。
しかし2020年。
一度も家族4人で食卓を囲むことなく、終わる。
夫は一度も子ども達を抱くことなく、終わってしまうのだ。
新型ウイルスなくして、今年は語れない。
夫はヨーロッパのとある国に単身赴任中だ。
こちらから行くことも、あちらから来ることも出来ない1年だった。
夫を追って当然あちらに出国するものだと、日本にある持ち家も賃貸に出してしまったので、行き場を失った母子3人は私の実家に居候させてもらっている。
実両親の助けを借りている今、「子育ての大変さ」って人手で解決する部分がかなりあるよな、と過去のワンオペ育児時代を回顧する。
たとえばこんな時。
私が皿を洗っている時に洗濯物を干してくれる、ばーば。
イヤイヤ期の娘に私が怒り狂っている時に、サササと現れ、「おーよしよし」と娘を連れ去ってくれる、じーじ。
等々。
私にとって実家での子育ては、控えめに言って、最高なのだけれども。
家族で囲む食卓も、我が子のニオイまでもが輝く。「日常」こそ、最強。
5,475 View2020年、これを抜きにして思い出を語るのは無理そう。
我が家の2020年
遠い異国にひとり……夫の変化
夫はどうだろう。
過ぎし今年の3月には、自分以外の家族が単身赴任している国へやって来るはずだった。
しかし、休校からのロックダウン。
国からの渡航自粛勧告。
予定変更を余儀なくされていた。
さぞかし寂しく過ごしていると思ったが、夫は持ち前の強メンタルで、想像していた程ストレスもない模様。
それどころか「子ども達のこと、いつもありがとう」と、こちらを労ってさえくれた。
しかし夏の渡航も難しそうだ、という状況に差し掛かった頃、少し夫が変になってきた。
私達がそれぞれ住む両国には7~8時間の時差があるので、お互いの睡眠時間中にLINEを送ることはなんとなくしていなかった。
だがこの頃、夜中(あちらは昼間)に「息子ォォォォー!」とか「娘ちゃああああん!!」といったような、名前をシャウトしたのみのボイスメッセージが頻繁に届くようになった。
お、おう。
これはもしかすると、けっこう限界が、近い......!?
夏、娘の頭のニオイ
そうこうしているうちに、季節は夏本番になった。
夏になると、子どもは、臭う。
そう、汗臭いのだ。
夏の朝、起きてきた娘の頭からはもれなく「酢飯」のようなニオイがした。
でも親になるとそれすらも可愛くなってしまい、クサくても度々嗅いでしまうのだ。
私はまだ眠気冷めきらない娘を抱っこしながら、実母に言ってみた。
「なんだか酢飯みたいなニオイがするから、嗅いでみてよ~」
すると、「え、クサいんでしょ?やめとく~」と苦笑スルーする母。
え!?
夫だったらビュンと飛んできて、「クサイ!クサすぎる!でもかわいい!」と言ってくれるはずなのに!
「そんなこと言わずに可愛い孫を嗅いでくださいよ~」と母に食い下がる私の気持ちを察してか、妹をこよなく愛する息子がタタタと駆けて来る。
そして、娘のニオイを嗅いで、こう言った。
「うんうん、クサイね。でも可愛いニオイ。今日から”酢飯ちゃん”と呼ぼう」
迷いのない、直球ストレートなネーミング。
きっと夫がいたら、酢飯ちゃああん!と言うのだろうな。
きっと今ここに夫がいたら、息子と3人で娘の愛しいニオイを胸いっぱいに吸い込むんだろうな、と思った。
ああ、なのに今日も我が家には、夫がいない。
私はこの時、「2歳の娘の夏は、酢飯ちゃんだったよね~」と将来家族で語らう思い出を、一つ失ってしまったのだと考えたら、無性に悲しくなってきてしまった。
「当たり前の日常」とは
新型ウイルスのことは正直、ハチャメチャに憎いのだけれど。
この状況において、不自由なこと、不満なこと、悲しい事に目を向ければ、それらは無尽蔵に溢れ出てきてしまう。
それでもこの時間を通して、改めて気付いたこともある。
家族一緒に同じ家で暮らせることが、どれだけ幸せな事か。
息子と娘の成長を、同じテーブルに座って語り、共有できることの素晴らしさ。
家族旅行へ赴き、それがみんなの思い出になっていくこと。
なんでもない日常が、あらゆる人々の努力と、いくつもの幸運が重なって成り立っていたということ。
そして私の親バカに120%で同調してくれる夫の存在。
私はそれらにもう一度、きちんと感謝しようと思うことができた。
巻き戻せない夏を憂うよりも、明日からも続く「これから」を想って、楽しく過ごそう。
将来、息子はマスク姿の自分の写真を見て、「あー、この時大変だったよねぇ」とか言うのかな。
そんな今がとっくの昔になった未来を想像して、毎日なんとか過ごしている。
その未来の日常には、もれなく隣に夫がいて、家族でゴロゴロ、UNOとかに興じていたいなと思うのだ。
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