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公開 2022年02月16日  

1人目育児の経験が、まさかの無力…日々想定超えの長男は、まさに宇宙。

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真ん中っこ長男が2歳の頃、日々のほとんどが想定を超えていてフレッシュだった。


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真ん中っ子、長男が2歳だった頃。

私は日々度肝を抜かれていた。

長女がたどった2年間を彼は何ひとつなぞってはくれなかった。

上の子で培った子育て経験が爪の先ほども役に立たなくて、毎日が新鮮な驚きと、悲鳴であふれていた。


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長女はとてもおっとりした赤ちゃんで、歩き始めたのも遅かったし、2歳頃なんてお口こそずいぶん達者だったけれど、動きはよちよちかわいらしいものだった。

けれど、長男2歳はすべてが俊敏だった。

動きが速いし、常に何か新しいことを見つけては見つけたそばから身体をそちらへ向けていた。

もっとも大変だったのはお買い物。

今、この瞬間にここにいた子どもが、財布からお金を取り出すほんの一瞬でいなくなる、というのを初めて経験した。

目線を財布の中に向けたその瞬間、彼はいなくなった。

私が目を離すその時を待っているんだな?と思うほど鮮やかにいなくなった。

そして、その一瞬でいったいなぜそのように遠くまで?!!!!

と思うほど遠くへ行っており、そして、私と目が合うと戻ってくるのかと思いきや、追いかける私をよそに平然とまた違う方向へ行くという。

なんなの。


お金を払いながら

「え、うそ、こら、行かない!あ、お金ここに置きます!待って!!ああああだめ!!」

ガッシャーン……!

なんてこともあった。

小ぶりな陳列棚を倒したのである。

なんてことをするのよ。


彼の俊敏さは毎日、私の想定を超えていった。

”こつぜん”という言葉を何度も脳天から浴びた。

「これが世に言う目が離せないというやつなんだな」

と全身に突き刺さるほど痛感した。

2人目とは言え、それは私の全く知らない子育ての世界だった。

抱っこもカートも嫌がるし、歩かせればどこかへ消える。

駐車場ではチャイルドシートからリリースした瞬間にミニカーのように飛び出すので、こちらも受け止めるべく体幹にそれなりの覚悟が必要。

とにかく動体視力が問われる毎日だった。

反射神経が異常に鈍く、学生時代のテニス部では

「ボールが行ってからラケットを振るな!」

と言われた私が、こんなにすばしっこい生き物を生かすなんて無謀なのでは、と何度も思った。


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そして想定を超え続ける彼の行動は、俊敏さだけにとどまらなかった。

あれはある夏の昼下がり。

長女は幼稚園に行っていて、長男とふたり、お昼ごはんを食べようと食卓についたときだった。

「いただきます」と浅くこうべを垂れた彼の、登頂部の様子がなんだかおかしい。

違和感の正体がなんなのか分からず、首をひねりながら頭を覗き込むと、なんてこと、てっぺんが短く刈られていた。

いつの間に??!!!!!ハサミはどこにあったの??!!!!

動揺する私をよそに、彼はもくもくと食事を続けていた。

あたりを見回すと、小上がりの和室に散らばる髪の毛。

そして犯行現場よろしく、ああ、ベビー用の爪切りが落ちていた。


当時、私はどこかで見た子育て世代へ向けた防災の記事を参考に、鞄の中に長女と長男、ふたり分の母子手帳を常に入れていて、母子手帳ケースの奥にはベビー用の爪切りも忍ばせてあったのだ。

その記事には「ベビー用爪切りはあらゆる側面で万能なのでマザーズバッグにぜひ」という文言があり、なるほどと参考にさせていただいていた。

しかし、平穏な日々を送っているとそんなこと忘れてしまうのが人間だし、マミーブレインを抱えるお母さんだったりもした。

私がせっせと昼食をこしらえている間に、彼は私の鞄をあさり、母子手帳ケースを見つけ、ファスナーを開け、ハサミ(ベビー用爪切り)を発見。

どおれ、とひっそりと断髪してしまったらしい。

ベビー用爪切りとはいえ、もし顔にぶつけていたら……と思うと肝を冷やした。

狼狽しながら「ハサミ!!!髪の毛!!切っちゃったの??!!」と慌てる私に、彼はにっこり笑って「ちょちちょちした」と満足げだった。

あの笑顔は今も目に焼き付いている。

とても満ち足りた顔をしていた。


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そんなふうに、彼はすばしっこい上に大胆で、それまでの長女で培った子育て経験はなんの役にも立たなかった。

長女はすばしっこくもなかったし、ひとりで予想を覆すような危険を冒すこともなかった。

彼女に難儀したのは主に睡眠周辺だったので、私は寝かしつけと夜泣きに関してはまあまあ強靭なメンタルとあらゆる手札を持っていた。

にもかかわらず、彼は生まれつき眠るのが劇的にうまくて、発揮する側面はとうとう訪れなかった。

そう、彼は本当に眠るのが上手だったのだ。

それもまた、私にとっては想定の範囲外だった。


彼はよく動くせいか、とてもよく寝た。

しかも、それがどこであれ、眠くなったら寝るのだ。

ごはんを食べながら寝る、は日常茶飯事だったし、洗い物をしている間にテーブルの下で寝ていた、ももちろんある。

2歳のときに姉と妹の結婚式に出席したのだけど、そのどちらの披露宴でも彼はお昼寝の時間に差し掛かると、コテンと寝てしまった。

花嫁さんがお色直しから戻るドラマティックな演出と音響の中でも、健やかに眠っていた。

妹の結婚式のときは式場の方がまさかのお布団を持ってきてくださって、式場の床に敷かれたお布団で2歳児が眠っているというなんとも不思議な光景だった。

あんなに寝かすのに難儀した長女からは考えられないことで、電池が切れたように突然寝てしまう長男の入眠は何度見てもいっそ鮮やかで、清々しくさえあった。

幼稚園の先生からも「失神したのかと思うほど急に寝ますね!」と太鼓判を押されたほどの寝つきのよさだった。


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とにかく彼の2歳は毎日がとてもフレッシュだった。

日々新しく驚いて、日々想像を超える事態に悲鳴を上げた。

あの頃よく「宇宙を育てている」と思った。

すべてが未知で果てしなかった。


そんな彼も7歳になり、さすがにごはんを食べながら寝ることはないけれど、わりと容易く迷子になりかけるし、駐車場でもまあまあ不注意だ。

宇宙に果てはあったらしいけど、宇宙は宇宙のままだった。

5年間「駐車場は車が通るから気をつけてね」と言い続けているんだけど、いつ彼の脳裏に届くんだろうか。

ハサミで髪の毛を切ることはもうないけれど、工具を見れば触りたがるので、やはり三つ子の魂なんとやらだなと思う。

生まれ持ったものってどうやらとても巨大でなかなか揺るがない。

もうそれは神がつくりたもうたもの。

だってそもそも宇宙だし。

当然、神にも宇宙にも抗えるとは到底思えないし、なんなら恐れ多いので、人間の親にできることなんてほんと、飯を炊くくらいよね、と思っている。


※ この記事は2024年08月28日に再公開された記事です。

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