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公開 2023年06月13日  

「名前」は子どもが自分で持って生まれてくるかも?名づけ迷宮のゴールは出産当日だった。

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その子の一生を共にする大切な名前を贈る時、色々考えて悩んでそうして「その子に一番相応しい」名前をプレゼントするものと、思うのですけれど、子ども3人分の名前を散々悩んできた私はどうやって子に名前をつけたのかなといいますと…というお話です。


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名づけ事件

人の名づけというのは、人生にそうあるものではないし、とても緊張するもの。

お国によっては、ゴッドファーザー、ゴッドマザー、後見人とかそういう形で、近しい人のお子さんに名前を与える役割を貰うことがあるらしいけれど、もし万が一私がそんな大役に指名されてしまったら、悩みに悩んで気が付くと赤ちゃんが1歳を迎えてしまいそうな気がする。

悩みやさんには、とりわけ難しい子の名づけ。

1人目の長男の時は、それこそ妊娠がわかってスグ、男女それぞれの名前を1ダースくらい考えた。

古の文学少女だった私は割と名前に凝る方で、実際昔々弟が友達に貰ってきたハムスターの名づけに3日3晩悩み抜いて寝不足になった過去があるほどで(でも弟が勝手に『ハム太』にした)、それで我が子の名づけには大変気合が入っていた。

産まれる季節に花咲く樹木から貰うか、好きな本の登場人物の誰から取るか、それとも日本の伝統色のうつくしい名を紐解くか。

そういうのを手帳に沢山書き留めてずっと考えていた。

でも長男を予定日よりも1ヶ月程早く産んで3日目、それは安産ではあったものの予定日よりやや早めのお産で、少し動揺していた私は名前のことをすっかり忘れていた。

それをその日の夕方、果物なんかを持って訪ねて来てくれた夫が大変いい笑顔で

「出生届出して来たよ!」

と言うではないの。

なんだそれは、ちょっと待て。

「名前はどうしたん、名前が無いと出生届けは出せへんやろ?」

当然聞いた、名前は、まさか白紙で出したんか?

すると夫は私がお産の直前に、なんとなく「…ていう名前もいいよね」と言った名前をとても気に入っていたらしく、それをそのまま長男の名前にして届けてしまったそう。

私はお産直後でまだしくしくと痛むお股と腰を気にせず腹式呼吸で怒鳴った、まあ怒鳴りますわ。

「どうしてそんな大事なこと、ひとこと相談しないのッ!」

「…だっていい名前だと思ったんだもん」

役所に一度出してしまったものを、おいそれと差し戻すことはできない。

長男の名前はこうして決まった。

これが長男の出生後14年経った今も我が家で語り継がれる「長男勝手に命名事件」である。

結局その名前は長男の雄々しい見た目にぴったりだったし、読みやすいし、呼びやすいし、病院や学校で先生が読み間違えそうにないし、だったらこれでいいかということにはなったのだけれど、あれから14年経った今も私は割と赦していない。

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思ってたんと違ってた

長男の名づけの轍を踏んで第2子である長女を妊娠した時、私は夫に高らかにこう宣言した。

「娘の名前は私が付けるし!」

妊娠22週目に「まあ十中八九女の子だね」と産婦人科医の先生から「女児である」とほぼ太鼓判を押されていた長女の名前を、今度は私がつけるんや。

私はこの時、おはようからおやすみまでそれこそ3分おきに「あぶない!」「ダメ!」「やーめーろ!」と叫ばなければ何をしでかすかわからない生物、2歳になったばかりの長男を抱えていて、それでも長男のお昼寝の間に、夜寝た後に、隙を見ては長女の名前を一生懸命考えていた。

(世界のうつくしいもの、よいもの、きらきらしているもの、そういうものの詰まったうんときれいな名前を贈ろう)

お腹の中の長女と、前述のえらく手がかかりかつ動きの機敏な2歳児の長男を抱えていた私は、長男の身の安全を確保しつつ万全の布陣でお産に挑みたいと、実家に長男もろとも連れて帰る『里帰り出産』を予定していた。

それでその長女の出生地として選ばれた私の実家がとてものどかな、夏には水田に緑が広がり、春にはフツーに熊が出るという、とても自然の豊かな里山だったものだから

(この子の名前には、自然の中にあるうつくしいモノの名前を使おう)

そう思って、葵、百合、桔梗、向日葵。出産予定日の夏の盛りに咲くさまざまな夏の花の名前を頭に思い浮かべては手帳に書きつけていた。

そうして8月の半ば、明け方に陣痛で目が覚め、慌てて病院に行き、いざ分娩台に乗って約30分(超早かった)、私のお腹の中からやってきたその子に初めて出会った時

「あー…ウーン…この子はその…花というよりはもっと、こう素朴な感じ…」

『はじめまして、こんにちは』をしたばかりの長女のご面相というか、纏っている雰囲気というものが、華やかに鮮やかな夏の花というよりは、もっと優しくて素朴で穏やかな、とにかく用意していた名前の印象とは違う感じのものだなと、思ったのだった。

私に似た鼻の高さ、何故だか私の姉に似ている一重の優しい目の形。

あの時、丁度お盆に入ったばかりの、しんと静かな田舎の総合病院の婦人科病棟の中、私はしみじみ思ったものだった。

(名前って、実際本人に会ってみな分からんもんやな…)

結局、長女には鮮やかな盛夏の花にちなんだ名前ではなくもっと素朴で優しい、彼女らしい名前を贈った。

あんまり今風ではなく、ぱあっと華やかな感じでもない名前だけれど、今11歳になった娘の穏やかで優しくて、マイペースな気性にピッタリだと思う。

その子が名前を持ってくるのか、それとも名前がその子を作るのか。

名前の中に、私の大好きな夫の祖父、だからこの子にとっては曾祖父である人の名前の一文字が意図せず入ったところも、実はとても気に入っている。

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名前は贈るもの…でもないのかも

そんな風に『名前は、その子が持って生まれるものかもしれないな』という思いを強くしたのは次女が産まれた時だった。

次女は、生まれつきの病気を持っていて、出生後は即それの治療を始めなくてはいけない関係で、産まれたらそのままNICU(新生児集中治療室)に搬送される予定になっていた。

当たり前だけれどとても心配だった、心配すぎて名前なんて考えている余裕も無く、名前に関しては全くノープランでお産の日を迎えることになってしまった。

もしかすると名前を決めておいて、生れたあとに何かあってそれで天国に逆戻りなんてことになったらいたたまれないし目も当てられないと、無意識の内に思っていたのかもしれない。

次女が産まれる前から予定されていた出生後の搬送先は、産婦人科病棟と同じフロアにある小児科病棟のNICU、そこに分娩室から専用の廊下で運びますと聞いていた。

これまでのお産とは全く勝手が違うし、その後は何ヶ月か入院しなくてはいけないらしいし、これまでの「怖さ半分、楽しみ半分」なんて不安と期待の綯交ぜになった気持ちとのお産とは全く違って不安100%、3度目にして一番心配で恐ろしいお産になった。

(ほんまに無事に生まれてくれるやろうか)

そう思いながら挑んだお産で幸い大きなトラブルなく生まれてきてくれた娘は、少し難しい心臓の病気の子らしい、か弱さというか、可憐さというか、儚さというものが、あんまり感じられない子だった。

「…元気やん?」

産声は大きいし、体もぷりぷりに大きいし、足も腕もなかなか太い、そして助産師さんに体を軽く拭いてもらい簡易な計測を済ませて「女の子ですよ~」と連れてこられたその顔が

「フミ子やないか!(※仮名)」

と声に出しては言わなかったけれど、今は亡き母方の祖母に似ていて私は驚いた。

その眉毛の形、気の強そうな目じりの上がり方。

思えば長男は「夫を産んでしまった…」と笑いがこみあげるほど夫に似ていて、その次の長女は11歳になった今、私の姉に瓜ふたつだ。

そしてこの一番下、次女は母方のどういう訳か出生すぐの当時、私の祖母にそっくりだった。

(何故、私の子どもは誰も私に似てないの…)

やや解せない気持ちはあったものの、その祖母というのが、東京で小さな商売をしていた夫を40過ぎで亡くし、その後遺された4人の子供を1人で働いて育て上げ、そのついでに姑を看取り、最後は地元である北陸の田舎町で娘達と孫に囲まれ余生を過ごしたという、気の強さと口の悪さで結構な逆境を越えてきた一族イチ豪胆な、とにかく強い女だったものだから、私は

(次女、なんか大丈夫そう)

何の根拠もないけどそう思って、そうして次女にはその一族イチの女傑である祖母にちなんだ名前を贈ろうと、その場で決めたのだった。

次女は産まれてものの数分でお迎えに来ていた新生児科の先生と看護師さんに透明な箱にそっと乗せられ、NICUに搬送されていったけれど、何が気に入らないのか大変な仏頂面で(そう見えたんだもの)、あの時

「…いやあ、アレは強い子やで、すごい頑固そう」

と思ったその印象は、そのまま次女の性格の根幹を成し、祖母フミ子の性格と気性をそのまま名前と共に受け継いだ娘として今日、病気ではあるものの割とやりたい放題、元気に暮らしている。

もしかすると名前って、子ども本人が自分で抱えてくるものなのかもしれない。




※ この記事は2024年10月13日に再公開された記事です。

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