『NICU命の授業~ 小さな命を守る最前線の現場から~』(豊島 勝昭著/赤ちゃんとママ社)より、その一部をご紹介します。
2020年10月公開の作品です。
https://mama.smt.docomo.ne.jp/conobie/article/17468
おなかの子に障害があるかもしれないと言われたら…。
医学が進歩し、産科の先生が胎児のうちにさまざまな病気を見つけてくれるようになりました。
すぐにNICUで治療できたり、新しい治療や手術法もふえているため、早産や病気の赤ちゃんの命をたくさん救えるようになりました。
ただ、医学が進歩したからこそ、新たな悩みに向き合うことになる場合もあります。
病気のある子を妊娠しているとわかると、育てることへの不安が大きく、産むかどうかを悩むご夫婦もいるのです。
病気のない赤ちゃんでも、ご夫婦が産んで育てることに自信が持てず、産まない選択をすることはあります。
この世には、さまざまな事情で産まれてこられなかった赤ちゃんがいます。
ドラマ『コウノドリ』のシーズン2の最終章では、赤ちゃんがダウン症だとわかった2組の家族の物語があります。
1組の家族は中絶を選択し、もう1組の家族は悩みながらも出産を決断します。
それでも産後の不安が募り、ダウン症の先輩家族に会いに行き、そこでご家族の生活や想いなどを知ります。
障害がある子を産み育てると決心したご家族は、どんな想いで過ごしていると思いますか?
告知を聞いて泣いた日
ダウン症は、染色体異常によって起こります。
私たちのNICUには、年間400人の入院患者さんのうち、毎年ダウン症の赤ちゃんは30人前後います。
しかし、ダウン症だから入院するわけではありません。
ダウン症の赤ちゃんは、心臓病や食道や腸の病気、血液の病気などがある場合が多いので、その治療のためにNICUに入院してきます。
2008年に生まれたけいたくん。
血液の病気で私たちの病院に運ばれてきました。
重症だったので、ご両親には「もしかしたら3ヵ月以内に亡くなってしまうかもしれません」ということと、顔つきなどから「ダウン症だと思います」とお伝えしました。
その後、けいたくんの病状は回復し退院することができました。
今もNICUフォローアップ外来で成長を見守らせてもらってます。
おどけた表情とかわいいしぐさをみせてくれるけいたくん。
けいたくんのお父さんは小学校の先生です。
このお父さんが勤めている学校で、いっしょに命の授業を続けてきました。
けいたくんのお父さんが命の授業のときに、生徒さんに語っていた言葉を紹介します。
「先生は、どんな子にも幸せになってほしいと願って、学校の先生になった。
息子がダウン症だと告げられた日のことは忘れられない。
病院から学校へ戻るために車を運転したときに、どしゃ降りで前が見えなくて、危ないと思いながら運転していた。
でも、学校に戻って車から降りると雨なんて降っていなかった。
どしゃ降りだと思っていたのは、先生の止まらない涙だったんだ。
一生でいちばん泣いた日だと思う。
先生は自分のことを差別や区別のない人間だと思っていたけど、息子がダウン症と言われてたとき、すごく悲しかったんだ」
懸命に想いを伝えてくれる姿に感動
けいたくんには、お姉ちゃんと弟がいます。
けいたくんのフォローアップ外来には、毎年ご家族で来てくれて、みんなでけいたくんとの最近の生活を伝えてくれます。
けいたくんは難聴なので、聾学校に通っています。
でも、補聴器をつけるのはあまり好きではありません。
最近の授業で、お父さんはけいたくんの運動会の話を生徒さんにしていました。
「息子はリレーのときに、受け取ったバトンを観客席にいる自分に渡したくなって、コースを外れて観客席に走ってきた。
みんなが『けいちゃん、そっちじゃないよ!』と知らせたけど、そのときも補聴器をはずしていて聞こえていなかった。
聾学校の先生たちに抱き止められていたけど、それでも自分にバトンを渡そうと頑張っていた。
そのとき、聾学校の先生には迷惑かけてすみませんって謝りながら、一生懸命バトンを渡そうとしてくれたことがうれしかったし、それでも走ってこようとする姿がすごくかわいかったんだ」
という言葉でした。
先生としてでなく、けいたくんのお父さんとしての言葉は、生徒さんたちの胸に響いていると感じました。
私はけいたくんに、こんな風に思ってくれるお父さんのもとに生まれてきて幸せだねと、伝えたい気持ちでした。
お母さん、お姉ちゃん、弟と、けいたくん。フォローアップ外来に来たとき。
NICUに入院してくる赤ちゃんたちにとって、「病気があるから不幸、病気がなければ幸せ」と決まっているわけではないと思います。
「病気があっても、いっしょに生きていきたい」と思ってくれるご家族のもとに生まれてきたことは、きっと何より〈幸せ〉なことなのではないかと思います。
そして、「病気があっても生まれてきてよかった」と、お子さん自身やご家族にいつか思ってるらえるよう、応援を続けられるNICUでありたいと思っています。
本書によると、およそ33人に1人の赤ちゃんがNICUに入院して治療を受けているそうです。
NICUは決して特別な場所ではなく、自分の家族や自分の大切な人が、いつか関わる可能性も。
「もし自分や、自分の家族だったら…?」と考えるのは、少し勇気が必要ですが大切なことかもしれません。
他にも早産で生まれてきた赤ちゃんのお話や、「命の授業」を実際に受けた学生たちの「その後」など、じっくりと読みたいエピソードがたくさん。
ぜひ書籍でご覧ください。
(編集:コノビー編集部 大塚)