元銀行員のラッパーが「月イチリリース」で音楽を配信し続ける理由

サブスクリプションサービスをはじめとする音楽視聴のデジタルプラットフォームが浸透する昨今。リスナーが簡単に世界中の音楽を聴けるようになったと同時に、ミュージシャンも簡単に楽曲を発表し、リスナーのもとへ届けられるようになりました。レコードレーベルや事務所に所属せず、セルフマネジメントで音楽を制作・発信する「インディペンデントアーティスト」が増えています。

彼らの中には別の仕事と掛け持ちしながら楽曲をリリースする人もいれば、アーティスト1本で活動する人も。ラッパーであるSKRYUさんは「兼業」から「専業」へとシフトし、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍しているインディペンデントアーティストの1人です。

2023年10月現在、Spotifyの月間リスナー数は25万人を超え、TikTokで注目された『How Many Boogie』は460万再生を突破。人気上昇中のSKRYUさんは「音楽一本の生活」を継続するために「月イチでの新曲リリース」を意識していると言います。その背景と、インディペンデントアーティストとして活躍する裏での努力と苦悩について、話を伺いました。

地元の銀行員からラッパーへ転職

――本題に入る前に、SKRYUさんはいつからラッパーとしての活動を始めたんですか?

もともと高校時代から文化祭でラップを披露したりしていたのですが、本格的にMCバトル(即興でラップを披露し勝敗を決めるバトル)へ参加するようになったのは大学からです。大学があった愛媛を拠点に、中国・四国地方で活動していました。

当時はとにかく名前を売りたいから、フリースタイルラップができる場所に足を運びまくっていましたね。交通費なども自腹を切っていたぶん、バイト代も追いつかなくて。遊びやお付き合いも重なり、常にお金がない状態でした(笑)。

――それくらい熱量が高かったんですね。では、大学卒業後はそのままラッパーの道へ?

一旦は「人としてのていねいな生活」を挟んだ方が良いと感じ、大学卒業後は銀行員としてはたらき始めました。金銭的余裕を作りたかった、というのもあります。でも何よりもまず、4年間も大学で遊ばせてもらいましたからね。一度は地元である島根に戻り、実家を支えられるようなところで仕事をしようと思ったんです。

ただ、昼は銀行員、夜や週末はラッパーとして生活していたのですが、「いつかは音楽活動に本腰を入れたい」という想いは抱き続けていました。

平日は仕事が終わったら深夜まで近くの河原で歌詞を書いたり、遠征費を浮かせるために自動車免許を取りに行ったりしていて。そして週末になったら東京まで遠征。とにかく仕事以外の時間をラップに費やしていました。

――では、どういったきっかけで現在のように、本格的なアーティスト活動をスタートしたのでしょうか?

入行して1年目、2020年に参加した全国規模のMCバトル「戦極令和杯」で優勝したんです。SNSで「SKRYUっていうやばい奴がいる」という、ちょっとしたムーブが起きました。

その後、自分で制作した楽曲を初めてリリースしたのですが、やっぱりバトルの影響か、再生数もそこそこあって。「マイク一本で生活できる」可能性を感じ、銀行も入行して1年で退職しました。

――メジャーレーベルに所属する、という選択肢はなかったのでしょうか?

もちろんメジャーに所属することで、プロモーションやマネジメントのサポートも充実しますし、活動範囲もかなり大きく広がるはずです。

でも、メジャーに所属できるのはほんの一握り。仮にメジャーデビューを目指すとしても、それまでに実績を作らなければどこも受け入れてくれませんよね。時間のかかることだと思ったんです。

何より、個人の活動でも音楽で収益を得る仕組みが整っているからこそ、インディペンデントな活動でも十分に生きていけると思いました。

むしろメジャーに所属することで、ライブ出演料や音楽配信の収益還元率が減ってしまうかもしれない。このまま個人で活動した方が利益は得られると判断したんです。

そこで個人でも簡単に楽曲配信ができる、TuneCore Japanを利用するようになりました。現在までインディペンデントアーティストとして、音楽活動を続けている次第です。

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「月イチ」ペースの新曲リリースが再生数維持の秘訣

――生活を支える収入は、具体的にどういったところから得ているのでしょうか?

楽曲をSpotifyやApple Musicなどの配信サービスから得る収益が、全体の9割を占めます。残りの1割はライブの収益やバトルの優勝賞金、そしてたまにある楽曲提供のお仕事です。

――予想以上に配信の割合が高いことに驚きました。楽曲配信によって収益を得る仕組みについて、詳しく教えていただきたいです。

まず、配信サービスは主に楽曲データを購入して視聴していただく「ダウンロードサービス」と、定額費用を支払って音楽を視聴していただく「サブスクリプションサービス」があります。

前者は曲が1曲購入されると売上の何%かが、そして後者は1曲再生されるごとに何円かが手元に入ってくる仕組みです。

TikTokで曲がバズったときや、バトルで功績を残せたときなどは、再生数が一気に増えることもあります。でも、基本的には緩やかに再生数が伸び続けている状況です。


SKRYUさんの場合はディストリビューションサービス「TuneCore Japan」を経由し、各配信サービスに音源をリリースしている。図表はTuneCore Japanサイトより。

――SKRYUさんが配信の再生数を保ち続けるために工夫していることはありますか?

なるべく月に1回のペースで新曲を出し続けることです。TuneCore Japanの方にアドバイスを受けてから、現在まで習慣にしています。

というのも、今やディストリビューションサービスも普及し、誰でも楽曲を発信しできるようになりました。日々リリースされる音楽の数が増えたぶん、リリースのスパンがあいてしまうと、すぐ名前を忘れられてしまうんです。

何よりリスナーにフレッシュな「今の自分」を届けられることが、月イチリリースのメリット。常に最新のSKRYUを知ってもらい、アップデートしているさまを示し続けることはポイントだと思います。