「1番おいしいパン屋」でなくても勝てる。わざわざが年商3億円を達成した理由

環境や健康に配慮した商品だけが並ぶコンビニ

長野県東御市内を走る県道166号沿いにある、コンビニ「風」のお店。2023年1月13日にオープンしたそのお店「wazamart(わざマート)」に入ると、巷のコンビニとの違いがひと目でわかります。

たとえば、食品。冷凍ケースには、福岡県柳川市の農家が自家栽培した果物とこだわりの食材を使った椛島氷菓のアイスキャンディーが並んでいます。乾麺の棚には岐阜県美濃加茂市の桜井食品がつくる国産小麦100%、植物性原料のみを使用したラーメンが置かれています。

日用品にも、このお店のこだわりが窺えます。北海道の環境大善が開発した天然成分100%の消臭剤「きえ~る」、東京の松山油脂が手掛ける植物由来成分を用いたスキンケアブランド「Leaf&Botanics」など。1200に及ぶ店内すべての商品が環境や健康に配慮したもので占められているのです。

さらにユニークなのは、わざマートの隣りにある「よき生活研究所」。天井が高く広々とした空間に、座り心地が良さそうなソファやイスが配置されています。ここは1日3,000円、午後だけなら2,000円で利用できるスペースで、わざマートで購入した商品をキッチンで調理して飲食するのも可能。


よき生活研究所の中心に位置するキッチンスペース。広くとられたフリースペースでは、一日滞在して仕事をする人もいれば、書棚の本を読み耽る人も、昼寝をする人もいるそう

わざマートとよき生活研究所を開いたのは、平田はる香さん。同じ東御市にある牧原台地の山の上、標高約700メートルの場所にパンと日用品の店「わざわざ」を開き、年商3億円を超えるまでに育て上げた経営者です。彼女が短期の売り上げ目標に左右されず、本当に良いと思える商品だけを扱いながら事業を拡大することができたのはなぜなのでしょうか?

「わざわざ」が掲げるスピリットは、「すべては誰かの幸せのために」。その道のりは決して平たんなものではありませんでした。

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「仕事場」に飛び込んだ中学2年生

1976年、東京で生まれた平田さん。0歳で両親が離婚し、3歳の時、家庭の事情で祖母、父親、兄と4人で静岡県浜岡町に移り住みます。かつて建設会社を営んでいた祖父の資産を受け継いだ父親は、株式投資で生活費を稼ぎながら、生涯を孔子の研究に捧げました。平田さんの兄も物理学者をしているというから、探求型の家系だったのでしょう。

その血を引く平田さんは、子どものころから「なんで?」を連発する子どもでした。父親と兄はそれを受け止め、理路整然と回答してくれました。それが「普通」だったので、学校でも友だちや教師に同じように質問を重ねました。

「学校ではニコニコと愛想もいいんですけど、納得できないことはめちゃめちゃ問い詰めるような子どもでした。家庭の普通は世間の普通だと勘違いしていたので、変わった子だと思われていましたね」

「父や兄と同じようにコミュニケーションができる誰か」を学校の外に求めた平田さんは、中学2年生の時、近所の焼き鳥屋に「お手伝いさせてください」と頼み込みます。

片付けや掃除の手伝いをさせてもらうことになった平田さんは、自宅でも学校でも教わらない話を職場の大人たちから聞いて、好奇心の花が開きました。それから高校を卒業するまでの間、ゴルフ場のボール拾いから喫茶店の接客まで10種類ほどアルバイトを経験したと言います。ところが、そのうちにどこの職場でも同じような人間関係の問題があり、「どこも一緒だな」とはたらくことへの情熱は冷めていきました。