10年で生産30倍!? 名古屋駅の新名物「ぴよりん」が大ブレイクした理由。

名古屋名物のお菓子と言えば「ういろう」や「しるこサンド」が第一に思い浮かびますが、近年、そのイメージを覆すほどブームとなっているスイーツがあります。新名古屋名物の、『名古屋コーチンのひよこプリン ぴよりん(以下、ぴよりん)』です。

ぴよりんは、名古屋駅構内で2011年7月から販売されており、以来、二度のブームを経て10年以上にわたり人気が継続。駅構内に2店舗ある‎販売店には連日長蛇の列ができています。

見た目は可愛らしいものの、一見どこにでもありそうなスイーツに見えるぴよりん。なぜ、こんなにも愛されているのでしょうか?開発者の一人である、ジェイアール東海フードサービス株式会社 事業部担当部長(取材当時)の越智謙吾氏に話を伺い、その本質に迫ります。

一日30個しか製造していなかった

——ぴよりんは、将棋棋士の藤井聡太七冠が対局中に「ぴよりんアイス」をおやつに頼んだことでニュースになりました。L’Arc〜en〜Cielのボーカリスト・Hyde氏が好んで自身のライブの差し入れにするなど、著名人にも愛されていますよね。発売当初からずっと人気なのでしょうか?

そんなことはありません。当社は名古屋駅構内で複数のカフェやレストランを運営していますが、ぴよりんは、「新たな名古屋名物をつくろう」という社内の方針により、JR名古屋駅コンコースにある「カフェジャンシアーヌ」の店内飲食用スイーツとして開発しました。

2011年7月の販売開始当初の販売個数は、一日約30個。2013年3月にぴよりんの公式Facebookを立ち上げたのですが、それから徐々に口コミが広まっていきましたね。

ただ、行列ができるほどではありませんでした。


現在のカフェジャンシアーヌの外観

——行列ができるようになったきっかけはなんだったのですか。

売れ行きが急伸したきっかけは二度あります。一度目は、2019年ごろからSNSで自然と盛り上がっている「#ぴよりんチャレンジ」です。

そのころカフェジャンシアーヌでは、店頭のショーケースにもぴよりんを並べていたのですが、意外にもテイクアウトの需要が多くて。

ぴよりんは繊細なつくりなので、「持ち帰る際に崩れやすい」という特徴があります。それを、お客さま同士が、Instagramで「自宅まで無事に持ち帰れたら成功!」と楽しんでくださるようになったのです。いつしか「#ぴよりんチャレンジ」というハッシュタグも生まれ、X(旧Twitter)などほかのSNSにも広まっていきました。

——商品としてはマイナス要素になってもおかしくない「崩れやすさ」が、かえってユーザーの「どうにか崩れないように持ち帰りたい!」という願望を刺激したのですね。

実は、ぴよりんは一つひとつ手づくりなので、大量生産ができません。当時ぴよりんを製造していた名古屋市内のケーキ工房はスタッフ数が少なかったため、一日30個つくるのが限界でした。そこで作り手を1.5倍に増やし、ぴよりん以外のケーキの製造を止め、ぴよりん一本に絞る体制に変えたのです。一日約500個、週末には約800個が生産できるようになりました。


ぴよりんの開発者、ジェイアール東海フードサービスの越智謙吾氏

——二度目のブームはなんだったのですか。

2021年6月29日、藤井聡太七冠が「ぴよりんアイス」を対局中のおやつに選んでくださったことです。公式サイトがアクセス過多でサーバーダウンし、メディアからの問い合わせや取材依頼も急増。店頭にも行列ができるようになりました。

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世の中にありふれていないモチーフを

——藤井七冠の対局の翌日、地元メディアがぴよりんをこぞって取り上げたそうですね。その後は連日1,000個以上を売り上げたとか。そもそも、ぴよりんはどのような経緯で開発されたのでしょうか?

もともと当社は、2000年から、名古屋駅にあった別の喫茶店で「シャチボン」というシャチホコ型のシュークリームを販売していたんですね。シャチボンも名古屋名物として人気で1日あたり約100個を売り上げていましたが、喫茶店の閉店に伴い、販売を休止することに。2010年ごろ「次なるスイーツを」と企画したのが、ぴよりんでした。

開発メンバーは、我々本社スタッフ2名と製造担当者2名の4名。シャチボンに代わる「新名古屋名物」となるには、幅広い世代に愛される必要があります。そこで、「丸くてかわいらしいもの」をテーマにアイデアを持ち寄りました。クマ、パンダ……いろいろな案が出ましたが、すでに世の中に似たような商品が溢れています。

その時、製造担当者の一人が、「ひよこはどうですか?」と。丸くて可愛い上、スイーツのモチーフとしては、クマやパンダほどありふれていません。「一度試作してみようか」と、意見が一致しました。

——ぴよりんは、ふわふわした見た目がとても可愛らしいですよね。一口に「ひよこのケーキ」と言ってもさまざまな製法があったと思いますが、なぜ、現在のケーキになったのですか?

ぴよりんは、名古屋コーチンの卵を使ったプリンをババロアで包み、粉末状にしたスポンジをまとわせています。試作段階では、スポンジをまとわせていない「つるん」とした見た目も検討されましたが、ひよこのふわふわ感をどう再現したらよいのか?を考えた結果、製造担当者のアイデアで現在の製法になったのです。

プリンに使う卵も、普通の卵を予定していたのですが、「名古屋名物にするなら」と名古屋コーチンの卵を採用しました。


名古屋コーチンとは愛知県特産の地鶏で、その卵は、一般的にスーパーで売られている卵の2、3倍の値段がするほど上質なもの