ナチュラルなオーラを放つキャスト陣!『ブルーピリオド』重要な美術室シーンの撮影取材レポート

「TSUTAYAコミック大賞」、「このマンガがすごい!」など国内の主要漫画賞にノミネートされ、「マンガ大賞2020」を受賞、アニメ化やYOASOBI「群青」とのコラボレーションでも話題を集めた人気漫画を実写映画化した『ブルーピリオド』(8月9日公開)。今回本作の現場取材レポート(美術室編)が到着した。

2017年6月に月刊アフタヌーンで連載が開始し、累計発行部数700万部を超える、山口つばさによる漫画「ブルーピリオド」を、眞栄田郷敦を主演に迎え、萩原健太郎監督が映画化する本作。高校2年生の矢口八虎(眞栄田)はある日、美術の授業で「私の好きな風景」という課題を与えられ、仲間と夜を明かした後に見た早朝の渋谷の風景を描く。“青く”見えたその風景を想いのままに描くことで、矢口は初めて本当の自分をさらけだせたと感じ、美術に自分の生きる道を見つけることに。国内最難関の東京藝術大学への受験を決意する矢口の前に立ちはだかるのは、才能あふれるライバルたち。美術予備校で出会う天才、高橋世田介(板垣李光人)に、矢口の背中を押す同級生の鮎川龍二/ユカちゃん(高橋文哉)。美術の道に誘う、矢口にとってミューズ的存在の先輩である森まる(桜田ひより)といった仲間やライバルに出会うなかで、もがきながらも挑戦し続ける矢口の物語が描かれいく。

このたび、本作の美術室シーンの現場取材レポートが解禁となった。昨年の2023年6月下旬に、眞栄田演じる矢口、高橋演じるユカちゃん、薬師丸ひろ子演じる佐伯昌子が美術室で正対するシーンの撮影が、都内の廃校を利用して行われた。このシーンは、物語が大きく動く起点となる重要な場面。「単なるコスプレにはしたくない」という製作陣の強い思いから念入りな衣装合わせを経て生まれた矢口の制服姿のヴィジュアルは、原作の単なるトレースを超えて実在感たっぷり。脱色したかのような髪色のヘアスタイルはウィッグとは思えぬ見た目と質感がある。矢口の目の前に佇むのは、美術部顧問、佐伯役の薬師丸。モニターを覗く萩原監督も思わず「ずっとこうだったかのように自然…」と唸るほど、ナチュラルなオーラを放っている。

一方、眞栄田は矢口の心の揺れ動きを動作でも表すべく、ズボンのポケットに手を入れたり、セリフのどの時点で薬師丸に近づくのがベストなのかを探ったり。萩原監督と入念なディスカッションを重ねて撮影本番に臨んだ。真剣な眼差しの寄りのショットを撮り終えた眞栄田。モニターで確認する萩原監督に「僕、芸大目指しそうですか?」と聞くと「うん、受かりそう」と満面の笑みで萩原監督が答えるなど、緊張感ある撮影のなかにも適度な緩和があり、それぞれの充実ぶりが伺えた。

そんな二人を見守りつつ、美術室で自身の導線と入りのタイミングを確認しているのはユカちゃん役の高橋。高橋は中性的な魅力を表すために約8キロの減量に挑戦しており、学ランとセーラー服をジョイントしたかのような個性的な制服は、原作のデザインを参考に高橋の体形にフィットする形で縫製されたという。製作陣が「クランクインしたばかりということもあるし、矢口とユカちゃんという相対するキャラクター性もあって、お2人はあえて距離を詰め過ぎないようにしている雰囲気がある。先々の撮影に向けて緊張感を高めているようだ」と指摘するように、カメラの外で眞栄田と高橋がベタベタと慣れ合う様子は皆無。小休憩の時間になると、眞栄田は楽屋を離れてフラッと美術室へ。教室全体を俯瞰して見渡せる教卓にもたれながら口笛を吹く。各々が自分のペースで撮影という時間を無理なく共有している。そんな様子が伺える印象的な姿だった。

「代役ではやらない」という製作陣の意向を受けて、キャスト陣はクランクイン前から絵の練習をスタートさせた。2022年末から新宿美術学院(現ena美術)の講師、海老澤功のもとで基礎から絵を学んだ眞栄田は、海老澤から「矢口のように受験すれば合格するぐらいの力はある」と太鼓判を押されるほどめきめきと上達。だがエキストラの生徒も交えて美術室で矢口たちがキャンバスに向き合うシーンの撮影では、そんな持ち前のセンスが思わぬ壁になった。絵を描き始めて間もない矢口の様子を捉えるカットでは、鉛筆を握る眞栄田の手元や画用紙に向かう姿勢が絵を描き慣れている人のように見えすぎるという問題が発生。静物画のデッサンに向き合う眞栄田の鋭い視線に対して萩原監督は「目線からして絵が上手そうだな…」と苦笑いで、撮影に帯同する海老澤も「一度絵を描くことに慣れてしまうと、下手に描くことが逆に難しくなる」と悩ましそうな表情を見せた。

眞栄田もモニターの前に現れて、絵を描く自分の所作を確認しながら、海老澤と「どうすれば素人っぽく見えるか」を相談。鉛筆の持ち方を直角に変えたり、海老澤から「絵を見るのではなく描くことに集中するような様子で」とのアドバイスがあったりしながら、ショットやカットが丁寧に積み重ねられていった。機材準備を待つ間、眞栄田はごく当たり前のように鉛筆をカッターの刃で削る。画材一式は小道具でありながらも、キャスト陣にとっては大切な相棒でもあるかのような愛着がすでに生まれている。その愛が作品に宿り、スクリーンからもにじみ出ることは間違いなさそうだ。

徹底的に役作りを詰めた眞栄田や高橋演じるキャラクターたちはスクリーンでどのようなドラマを生むのだろうか?本作の公開に期待が高まる。

文/鈴木レイヤ