『勇者王ガオガイガー』は勇者シリーズの代表作のような扱いをされがちなものの、全8作を通してみれば「異端」そのものです。そうした異色作だからこそ「スパロボ」に初参戦し、他作品参戦の道を切り開いたといえるでしょう。
ドリル戦車に新幹線が合体して……この説得力。「スーパーミニプラ 勇者王ガオガイガー」(バンダイ) (C)サンライズ
【画像】変形合体完全再現 こちらが「ガオガイガー」の「分離」した各機です
「ガオガイガー」は最高に格好いい! けど勇者シリーズの代表かといわれると…?
1990年から1998年まで連作されたオリジナルのロボットアニメ「勇者シリーズ」のうち、『勇者王ガオガイガー』はその代表格と扱われがちの印象があります。
胸にはライオン、腕は新幹線、脚部はドリル戦車でバックパックにはステルス戦闘機を背負う、いわばカッコ良さの固まりです。腕からはロケットパンチこと「ブロウクン・マグナム」を放つ一方で、「プロテクトシェード」でバリアも張れる攻防一体にして、「ディバイディングドライバー」や「ゴルディオンハンマー」も装備できるなど、オプション類も幅広く見られました。
そして両手を組んで突進する「ヘル・アンド・ヘブン」は、敵ロボットの核を抜き取って本体を爆散させます。アニメにしてもゲーム化してもビジュアル映えするアクションの数々は、「スーパーロボット大戦」などの演出とも相性が良く、引っ張りだこ(毎回、参戦というわけにはいきませんが)となるのも納得です。
しかし、『ガオガイガー』の構成要素を指差し確認していくと、勇者シリーズの主流から外れたものだらけです。
勇者シリーズは計8作あり、作品ごとに振れ幅は大きくはありますが、共通しているひとつの要素として挙げられるのが、人間サイドの主人公が「子供」であることです。ほとんどが小学生であり、『勇者特急マイトガイン』や『勇者指令ダグオン』もギリギリ高校生に留まります。
共通要素のふたつ目がファンタジーにしてファジーなメカ設定で、どういった動力源で動くか、誰が整備しているかはほぼ不明です。せいぜいが「メカに精通している高校生」が開発部門に協力したり、勇者ロボの性格設定に関わっていたりする程度でした。それも深く考えるとどうなのよ、という具合です。
そして最後が、パトカーや救急車、消防車やショベルカーなど「身近な乗り物がロボットに変形する」という点になります。ジャンボジェットやスペースシャトルまで行ってしまうこともありましたが、それも子供向け絵本に出てくる乗り物にどうにか収まっているでしょう。
その点「ガオガイガー」は、ダブル主人公のひとり「獅子王凱(ししおうがい)」は20歳です。もうひとりの主人公「天海護(あまみまもる)」は小学生とはいえ、やはり「ロボに乗り込む方」の凱が圧倒的に存在感はあるでしょう。また「地球防衛勇者隊GGG」の人間メンバーも大人ばかりで、基地では補給や整備など、地に足付いたエンジニアらも控えていました。
また動力源は「Gストーン」というファンタジー寄りながら、メカニック部分は地球由来の技術で作られており、巨大なシリンダーで動かし油を差しています。そしてGストーンや敵となる「ゾンダー」や「機界31原種」も、三重連太陽系に緑の星、赤の星、紫の星があり……とハードSF設定をガッチリ固められているという具合です。
たしかに「意思を持つロボット」など勇者シリーズの要素は散りばめられているものの、全体的には70年代から80年代のスーパーロボット+緻密な設定考証のリアルロボットのハイブリッドという性格が濃いものでした。『ガオガイガー』は面白いけど、勇者シリーズを代表されるのはなあ……と、複雑な思いを抱いたファンが多いのも事実でしょう。
「勇者王ガオガイガー VOL.1」(ビクターエンタテインメント)
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異質だからこそ「スパロボ」参戦の先がけになれた
なぜ異質の勇者ロボになったかといえば、シリーズ最終作になることがほぼ決まっていたからでしょう。
もともと「タカラ製玩具を売るための番組」的だったものが、『ガオガイガー』放送の数年前にサンライズ(当時)がバンダイの傘下に入ったため、続けることが次第に難しくなり、次こそ最後っぽいからサンライズ主導でやろうという流れだったことは、複数の関係者が語っていることです。「勇者王」と冠していることにも、本作でやりきってしまおうという覚悟があふれているようですね。
そこからロボットのデザインにもサンライズ色が濃くなり、オリジナル玩具が増えていった……という事情が、のちのちガオガイガーがタカラ以外の作品、具体的にはバンダイ系の作品、さらにいえば2003年にゲーム『第2次スーパーロボット大戦』への初参戦に繋がったと推測されます。
ほかの勇者シリーズに登場するロボットは、敵味方ともにタカラのトランスフォーマー系玩具(そもそも勇者シリーズは、国内で「トランスフォーマー」のアニメがなかった空白を穴埋めする性格が濃いものです)のアレンジやリデコが結構、多いのです。『ジェイデッカー』の「シャドウ丸」は「シックスショット」、『マイトガイン』の「飛龍」は「ソニックボンバー」という風に、バンダイのゲームに出しにくそうな顔ぶれが目立っていました。
そのため『ガオガイガー』がスパロボ参戦した当時は、大きな驚きと共に納得感がありました。しかも、主人公やそれを支える防衛チームの年齢が高く、スーパーロボットのカタルシス+リアルロボットの緊張感もあり、ガンダム系ともマジンガー系とも馴染みやすくもあります。
その後、勇者シリーズの作品権利はバンダイナムコホールディングスが所有することになり、版権的な問題は大幅にクリアとなりました。さらに2017年の『スーパーロボット大戦V』では『マイトガイン』が、2021年の『スーパーロボット大戦30』には『ジェイデッカー』が初参戦しています。
勇者シリーズは独自の空気感を共有し、だからこそほかのロボットアニメにはないファン層を勝ちえた一方で、世界観やメーカーの垣根もあって外への展開がしにくいものでした。その中で『ガオガイガー』は「異質」だったからこそ、ほかのロボットアニメやゲームとの架け橋になれたのではないでしょうか。