「劇団四季」の看板俳優として活躍し、退団後も数々のミュージカルや舞台作品に出演し、人気を博す石丸幹二。俳優としてのみならず、「題名のない音楽会」「健康カプセル!ゲンキの時間」の司会やオーケストラコンサートをはじめとした音楽活動もこなすなど、幅広く活動を続けている。そんな石丸が主演を務める音楽劇「ライムライト」が8月3日から上演される。本作は、チャールズ・チャップリンの晩年の傑作映画『ライムライト』を原作とした音楽劇。かつて一世を風びした老芸人が、人生を悲観し自殺を図った若いバレリーナを助け、再び舞台に立たせる姿を描く。主人公の老芸人・カルヴェロを演じる石丸に本作への意気込みや本作で描かれている“老い”への思いなどを聞いた。

-2015年に初演され、19年に再演、今回は3度目の上演となる本作ですが、今回、どんなところを深めていきたいと考えていますか。

 この作品は、チャップリンの映画を初めて音楽劇として上演した作品です。今回は、映画を撮ったチャップリンの年齢に近づいてきました。彼のせりふの裏に隠された意識にいっそう近づけるにはどうしたらいいかを考えながら台本と向き合っているところです。前回とはまた違ったものをお届けしたいと思っています。

-前回と違うものというのは?

 年を重ねたことで、チャップリンが伝えたかったことがより明確に見えるようになったと思います。(初演の)10年前には考え付かなかった思いや表情が、チャップリンの映像の中に残されていることが分かってきたというか。今回は、そうしたものも表現できたらと思っています。

-19年の再演後も、「蜘蛛女のキス」や「ハリー・ポッターと呪いの子」、「ラグタイム」などさまざまな作品に出演してきました。そうした経験を通し、改めて本作で演じるカルヴェロという男をどのように感じていますか。

 さまざまな役を演じることは、より客観的にキャラクターに寄り添える手助けになるんですね。まったく毛色の違う役どころだからこそ、新鮮な気持ちで向き合える。それって、すごく大事なんですよ。だから前回の再演から5年間の期間が空いたことが僕にとって良かった。なぞるのではなく、もう一度生み出す。そんな作業ができるなと思います。

-時間が空き、年齢を重ねたからこそ分かることもある、と。

 われわれも年を経ると人生が深まりますし、深まったからこそ気付くことも多いですよね。チャップリンもきっとこの映画を作ったときに、自分が年を重ねたことで欠落していったことに向き合ったのだと思います。そうした絶望と向き合って、どう再生していくか。映画で、チャップリンは、自分が成し得なかったことを次の世代に託します。「後世の人に託す」ことは、若い頃にはあまり考えないですよね。でも今、僕もこの年になって、「そうかもしれないな」と思う気持ちが芽生えてきました。なので、きっとこれまでと(劇中で話す)せりふのニュアンスも変わってくるのではないかなと思います。

-この作品と向き合うことで、石丸さんご自身も年齢の重ね方やこの先について、考えが変わりましたか。

 僕にとってこの作品は“テキスト”でもあります。これから、自分はどう生きたらいいのか。何を持って生きていけば自分が輝くのか。そうしたことを見せてくれるのがこの作品だと思います。“老い”は、人間誰しもがたどる道です。この作品を通して「そのときにできることをやればいいんだよ」と言われているような気がするんですよね。俳優には、年齢を重ねたことで演じられるキャラクターもある。そうした役に真摯(しんし)に向き合っていけばいいんだとこの作品から感じました。

-そう感じるようになるまでは、石丸さんの中にも迷いはあったのですか。

 迷いの連続でしたよ(笑)。今の自分を測れるものというのは、そのときの作品や役柄でしかないので。その都度、極限までトライしながら、「こんなことができる」「これはもうできなくなっている」と感じてきました。ただ、年を重ねたからといって、決して捨てるものだけではないんですよね。例えば、台本をより読み込めるようになったり、役の気持ちがより深く理解できるようになったり。捨てるものもあれば、新しく受け取るものがあるのが人生かなと思います。

-年を重ねることは楽しみですか。

 衰えていくものと向き合わなくてはいけないという意味では、楽しみとは言いがたいですね(苦笑)。ただ、人生がもし航路だとしたら、船に乗って出合った新しいものに向き合い続けなければいけません。それならば、楽しいと思える航海をしたいと思います。若い頃は、ただがむしゃらで、視野も狭いので、突然、岩が目の前に出てきて驚くことがあったけれども、今は危険を察知できるようになっている。岩も予知できます。老眼じゃなければ(笑)。これまでの経験は、必ずプラスになっていると思います。

-改めて、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

 この作品のタイトル「ライムライト」という言葉は、「スポットライト」とも受け取れるそうです。スポットライトを当てられた人たちの人生の航路を垣間見られる作品になっています。ぜひ、劇場で、彼らの思いを感じ取っていただけたらと思います。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 音楽劇「ライムライト」は、8月3日~18日に都内・日比谷シアタークリエで上演。