「週刊少年ジャンプ」で連載された仲間りょう氏のギャグ漫画を連続ドラマ化した「磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~」が、7月12日からWOWOWで放送・配信スタートとなる(全10話/第1話無料)。「立派な武士を目指す」と言いながら、サボることに一生懸命な武士校生・磯部磯兵衛のぐうたらで突っ込みどころ満載な日常を描く時代劇コメディーだ。
主人公・磯部磯兵衛を演じるのは、昨年はNHKの大河ドラマ「どうする家康」に出演するなど、多彩な活躍を見せる杉野遥亮。脚本・監督は、ドラマ「小河ドラマ徳川☆家康」、舞台『ドクター皆川~手術成功5秒前~』など、ツボを押さえた絶妙な笑いに定評のある細川徹。本場・東映京都撮影所で、時代劇の常識を破壊する前代未聞のコメディーに挑んだ舞台裏を聞いた。
-細川監督は製作が発表された際、「杉野くんがやってくれなかったら、実写化不可能、と思うくらいだった」とコメントされていましたが、杉野さんを磯兵衛役に起用した経緯を教えてください。
細川 「見た目は格好いいけど、実はだらしなくて格好悪い」という磯兵衛を演じられる人なんているのかな…と思いながら俳優を探していたんです。そうしたら、たまたま見たテレビのバラエティー番組に、まったく格好つけずに歩く杉野くんがいて。それを見て、「磯兵衛がいた!」と。
杉野 うれしいです。僕は子どもの頃から手足を持て余す感覚があり、コンプレックスだったんです。だから、そんなふうに評価していただけるとは思ってもいませんでした。
-実際にご本人に会って以降、杉野さんの磯兵衛に違和感を覚えることはありませんでしたか。
細川 違和感はまったくありませんでした。本人に会ってみたら、テレビで見た以上に磯兵衛でしたし、衣装を着たらさらに磯兵衛で、寝転がってもらったら磯兵衛以外の何者でもなくて(笑)。さらに驚いたのは、撮影に入ってからの休憩時間の磯兵衛っぷり。全身の力を抜いてリラックスしているんです。「力を抜く」とはこういうことだと、杉野くんに教えられました。
杉野 その頃の僕は、NHKの大河ドラマと同時に撮影していたので、東京と京都を行ったり来たりで、結構大変だったんです。その忙しさが、いい具合に磯兵衛にはまったのかもしれませんね。
細川 それを見て、僕の方から、撮影が終わっているシーンを「その感じでもう一度、撮らせて」とお願いしたくらいだからね。
杉野 僕の方こそ、監督に助けていただきました。この作品については、どんな準備をすればいいのか全くわからず、撮影初日は不安でいっぱいだったんです。だから、いろいろと気遣ってくださる監督と一緒に、磯兵衛を現場で作っていった感じです。監督の演技指導も、とてもわかりやすかったですし。
-杉野さんが大河ドラマと同時期に撮影していたことも驚きですが、原作を読んでみたら、あまりに見事な実写化でさらに驚きました。静止画で表現される漫画を実写化する上で工夫した点を教えてください。
細川 ドラマ版の磯兵衛は、原作よりも刀の扱い方を雑にしています。刀を杖にして立ち上がったり、引きずったり、振り回したり…。「立派な武士になる」と言いながら、刀を大事にしない方が、磯兵衛らしくて面白いだろうと思って。それを杉野くんに伝えたら、紐を持ってくるくるっと回しながら歩いてくれて(笑)。
杉野 あれも、どうすればいいか悩んだ末に、たまたま思いついただけなんです。個人的には、間を埋めただけのようで恥ずかしいんですけど。
細川 でも、それを思いつくところが磯兵衛をつかんでいる証拠だよ。実は最初の頃、磯兵衛が街を歩くシーンで、杉野くんに漫画のまねをしてもらったら、やや硬かったんだよね。でも、スケジュールの後半でもう一度同じシーンをやってもらったら、だらしなく歩く姿が、漫画とは違うポーズなんだけど、完全に磯兵衛そのもので。きちんと磯兵衛をつかんでいることがわかって、感動した。走り方やジャンプの格好悪さも素晴らしかったし。
杉野 ありがとうございます。コメディーに妥協のない監督の姿勢も、とても勉強になりました。本当に面白いものを作ろうとするなら、こうあるべきなんだろうなと。面白いときはきちんと笑ってくださいましたし。
-本作を撮影した東映京都撮影所は時代劇の本場で、職人気質の方が多い印象がありますが、現場はいかがでしたか。
杉野 最初はやや心配でした。こんなバカバカしい作品を撮るなんて、と怒られるんじゃないかと思って。
細川 僕も最初は緊張したな。スタッフは僕以外全員、京都撮影所の方だったから。でも、最初にスタッフ全員で打ち合わせをした後、撮影所を歩いていたら、小道具の方が自転車で走ってきて、「監督、このカエルどうですか?」と“干したカエル”の小道具を見せてくれて。そこで、こんなバカバカしいことにもきちんと付き合ってくれる人たちなんだとわかって、安心した。
杉野 自分より大人の先輩方が「ああでもない、こうでもない」と、現場でわいわい楽しそうにやっている様子がうらやましくて、僕も加わりたくなりました。
細川 磯兵衛の刀で中島(襄・磯兵衛の親友/鈴木福)くんの服が真っ二つになるシーンも、デジタルではなく、アナログな仕掛けでやりたいと言ったら、いろいろと試行錯誤してくれて。
杉野 助監督さんが何度も裸になっていましたよね(笑)。京都ならではの伝統的な時代劇の仕掛けも、この作品の世界観にうまくはまっていた気がします。
細川 皆さんとても柔軟で、いろいろなアイデアも出してくれたし、京都でなければ撮れない作品だったと思う。
-杉野さんが本作を経験した感想は?
杉野 思い切りふざけているんですけど、実はものすごく難しいことをやっているんですよね。シュールな感じと同時に、芸術的なところもあって。“間”一つとっても、コメディーの難しさを実感しましたし…。そういう意味では挑戦でしたが、僕の好きな世界観でした。こだわろうと思えば、いくらでもこだわって精度を上げられるのかもしれませんが、今回は今持てる力を100%出し切ることができたと思っています。
細川 杉野くんの素のかわいらしさや面白さが一番出ている作品になったんじゃないかな。
杉野 自分でも、「格好いい役より、こういう役の方が向いているかも」と思いました。
細川 でも、こういう作品ばかり来たら困るよね。
杉野 それならそれでもいいかな(笑)。
細川 そんなことを言っていると、本当にオファーくるよ? 磯兵衛だって、まだまだ原作のエピソードがたくさんあるんだから(笑)。
-それでは最後に、視聴者に向けて一言お願いします。
細川 原作を読んだことのある方もそうでない方も、原作と見比べながらご覧いただけると、杉野くんの見事な磯兵衛ぶりも含め、さらに楽しめると思います。ぜひ原作と併せて楽しんでください。
杉野 中島役の鈴木福くんや磯兵衛の母上役の檀れいさんなど、共演者のみなさんも魅力的ですし、細川監督の天才ぶりが存分に発揮された作品になったと思います。ぜひ多くの方にご覧いただけたらうれしいです。
(取材・文・写真/井上健一)
WOWOW プライムにて7月12日(金)スタート、毎週金曜日23時放送・配信(第1話無料)