宮崎駿監督の大ヒット作『ハウルの動く城』の原作には、続編とも言える「姉妹編」が2作あります。ハウルとソフィーのその後はどのように描かれているでしょうか?
ハウルとソフィーが仲良く手をつないでいる。画像は『ハウルの動く城』場面カット (C)2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT
【画像】えっ、怖っ! これがうつろな目をしたハウルです(5枚)
驚愕! ソフィーの奇想天外な出産
宮崎駿監督による映画『ハウルの動く城』は、興行収入196億円を記録した大ヒット作です。2006年に始めて『金曜ロードショー』で放送された際は、視聴率32.9%という今ではなかなかお目にかかることのない数字を叩き出しました。
魔法使い「ハウル」と魔女によって90歳の老婆にされた少女「ソフィー」の出会いと恋を描く『ハウルの動く城』は、イギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんのファンタジー小説『魔法使いハウルと火の悪魔』が原作です。
同作には姉妹編の『アブダラと空飛ぶ絨毯』、『チャーメインと魔法の家』があり、日本では3冊とも徳間文庫より「ハウルの動く城」シリーズとして発売されています。「続編」ではなく「姉妹編」とされているのは、それぞれ異なる主人公がいるからですが、どちらにもソフィーとハウルが登場し、ふたりのその後を知ることができます。
※この記事では『魔法使いハウルと火の悪魔』、『アブダラと空飛ぶ絨毯』、『チャーメインと魔法の家』のストーリーについての記載があります。
宮崎監督は原作の人物設定を大胆に改変し、物語の核となる戦争の描写を加えて映画を制作しましたが、「ハウルとソフィーの出会いと恋」という基本線は守っていました。映画のラストで、元の年齢の姿に戻ったソフィーとハウルはキスをしますが、『魔法使いハウルと火の悪魔』の結末でもふたりは結ばれます。なお、原作のソフィーは映画よりもずっと気が強く、意固地で、毒舌です。
『アブダラと空飛ぶ絨毯』は、アラビアンナイト風の世界を舞台に、若き絨毯職人の「アブダラ」が「魔神(ジン)」にさらわれた姫を助けるため、魔法の空飛ぶ絨毯に乗って冒険をする物語です。この頃、ハウルは王室付きの魔法使いになり、妻のソフィー、火の悪魔「カルシファー」とともに動く城で暮らしていました。
ソフィー、ハウル、カルシファーは意外な形で物語に登場します。なんとアブダラが拾った「真夜中」という名の猫の正体がソフィーだったのです。動く城をジンに盗まれてしまったハウルが、ソフィーを猫の姿に変えて逃がしていたのでした。猫になったソフィーはネズミなどを食べて生き延び(小鳥は羽が喉にかかって食べにくかったそう)、猫の姿のまま息子の「モーガン」を出産しています。
一方、姿を消したハウルはジンによって瓶のなかの精霊「ジンニー」に姿を変えられていました。ソフィー、モーガン、ハウルはそれぞれ元の姿に戻り、その上、魔法の絨毯の正体がカルシファーだと明かされます。ジンは改心し、ソフィーたちは動く城に戻り、アブダラは助けた姫と結婚して、ハッピーエンドとなりました。
『チャーメインと魔法の家: ハウルの動く城 3』(徳間文庫)
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ソフィーをイライラさせたハウルの変身
『チャーメインと魔法の家』の主人公は、本が好きな14歳の少女「チャーメイン」です。本作でのソフィーは、チャーメインが暮らす「ハイ・ノーランド」という王国の危機を救うために登場します。ソフィーはチャーメインがうらやむほど若くて美しい女性として描かれています。
まもなく2歳になるモーガンをお守りしているのは火の悪魔カルシファー、そしてハウルは6歳ぐらいの「キラキラ」という名前の男の子に姿を変えていました。国を乗っ取ろうとする悪い王子をあざむくためのハウルの計略ですが、見た目は天使のような姿でも、傍若無人な振る舞いで舌足らずな言葉をしゃべるキラキラはソフィーをイライラさせ続けます。ラストはみんなで協力して悪い王子を追放し、ソフィーたちを乗せた動く城は人びとの喝采を浴びながら去っていくのでした。
3つの物語は巧妙につながっており、ソフィーとハウルはいつも意外な形で登場して、辛口のソフィーがハウルに毒づきまくるという楽しいやりとりを繰り広げます。原作者のダイアナ・ウィン・ジョーンズさんが楽しんで書いていたことがよく伝わってきます。映画『ハウルの動く城』が公開された頃、インタビューでこのように答えていました。
「(ファンタジーを書きたい人へのアドバイスを)自分が面白いと思わないような物語を書いてはいけないということ。だって、自分が面白いと思わないものをどうして他の人が面白いと思えるの?」
実際、ジョーンズさんは小説を書きながら笑いすぎて、イスから転げ落ちそうになったこともあったそうです。残念ながらダイアナ・ウィン・ジョーンズさんは2011年に逝去されました。生前、映画『ハウルの動く城』の出来栄えにはとても満足していたそうです。