「ウルトラシリーズ」の新作がなかった時代に、再編集作品として劇場公開された『ウルトラマン物語』。新怪獣や、子供時代のウルトラマンタロウ、通称「コタロウ」の登場で、新作に負けないインパクトを当時の子供たちに与えました。



『ウルトラマン物語』では、タロウの幼少期からの成長物語が描かれた。画像は「S.H.Figuarts ウルトラマンタロウ」(BANDAI SPIRITS) (C)円谷プロ

【画像】タロウといえば第1話でウルトラの母が…妙な記憶を揺さぶる立体化物をチェックする!(5枚)

子供たちに人気だったタロウが主役の新解釈物語

 本日7月14日は、1984年に劇場用映画『ウルトラマン物語』が公開された日です。今年で公開から40年が経過しました。「ウルトラシリーズ」のTV作品がなかった時期、この映画が子供たちの人気を盛り上げることになります。

 本作以前のウルトラシリーズの映画は、TVシリーズをそのまま上映するか、総集編としてまとめた作品がほとんどでした。唯一の例外は、タイとの合作映画である『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』くらいでしょうか。

『ウルトラマン物語』の前作にあたる劇場用映画『ウルトラマンZOFFY ウルトラの戦士VS大怪獣軍団』もまた、そういった総集編作品には違いないのですが、ほかの作品群とは異なるアプローチで制作されていました。新規撮影部分を中心に、TVシリーズの映像にセリフなどを追加挿入することで、まったく別の作品として観られるように工夫されています。

 この制作方法をバージョンアップしたのが本作でした。新規撮影も全体の半分ほどになり、原典であるTVシリーズとは違う作品に見えるよう、より工夫されています。それゆえにTVシリーズとは異なる解釈の作品として成立しました。

 それが本作の主人公となる「ウルトラマンタロウ」の成長物語という点です。TV版では青年の姿で登場したタロウの幼少期が描かれ、子供時代からの成長を軸に本作は進行しました。

 さらにわかりやすくするため、ウルトラマンたちを手の届かないほどの高潔な存在として描くのではなく、人間に近い思考を持つ存在として描く仮面劇的なドラマ作りをしています。この部分は近年に制作された『ウルトラギャラクシーファイト』に引き継がれました。

 もともと、こうしたウルトラマンを人間臭く描く作劇は、第三次ウルトラブームのきっかけとなった内山まもる先生の『ザ・ウルトラマン』や、かたおか徹治先生の『ウルトラ兄弟物語』といった、マンガで人気だった手法です。これが映像に逆輸入されたと、考えられるかもしれません。

 この仮面劇に説得感を持たせるため、メインのキャラクターには演技力のあるベテラン声優をキャスティングしていました。子供時代のタロウには野沢雅子さん、「ウルトラの父」には石田太郎さん、「ウルトラの母」には池田昌子さんです。

 そして物語の中心となる成長したタロウには、石丸博也さんが起用されていました。この石丸さんのタロウはその後の定番となり、『ウルトラマンメビウス』以降、近年になって森久保祥太郎さんに交代するまで演じ続けられています。

 また新規映像には、これまでの編集映画と違って新規の造形物もいくつか登場していました。



「ウルトラマンタロウ Blu-ray Box」(バンダイナムコフィルムワークス) (C)円谷プロ

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当時としては破格の扱いだった超合体怪獣「グランドキング」

 本作においては既存のキャラクターも、一部は新規で制作されていました。そういった意味では、新規映像の部分の制作に力が入っていたといえるでしょう。例外として、ウルトラマンのスーツはビデオデッキのCM用に作られたものを流用していました。これは、ありものだから使ったというわけではなく、その完成度が当時のマニアでさえ認めたほどの出来栄えだったからです。

 新規にデザインされたものとしては、子供時代のタロウや、友好的な怪獣「ドックン」といったものが味方側として製作されました。さらに今回の敵役として、新規怪獣の「グランドキング」が制作されており、その費用は当時としても破格の300万円だったそうです。

 このグランドキング、一見するとただのロボット怪獣に見えますが、実はウルトラマンたちに敗れた怪獣の合体した姿で、頭部は「ゴモラ」、シッポは「ツインテール」になっていました。とはいえメカ化することで元がわかりづらく、同じ合体怪獣の「タイラント」ほど原型の怪獣がすべて明かされていません。

 ウルトラ6兄弟と戦うシーンでは、その重厚感あふれる姿が描かれています。もっとも本当に着ぐるみが重かったらしく、それゆえに劇中のような戦い方になったとか。なにせ制作方法が「ゴジラ」といった映画用怪獣と同じだったうえ、電飾など照明器具がふんだんに使われていたそうです。

 このボリュームある姿は当時人気商品だったソフビ人形の「ウルトラ怪獣シリーズ」でも再現されました。しかも通常は500円のラインナップだったシリーズにおいて、初の800円で発売されています。しかし、ほかの怪獣と違って販売個数が少なかったことから、コレクターには幻の商品となりました。

 当時の子供たちにとっては「新しいウルトラマン」として、本作は高評価だったと思います。当時、頻繁にTVで再放送されていたウルトラシリーズと共に、オモチャ売り場の怪獣ソフビのセールスに貢献していまいた。

 それゆえに、これに続く映画第3弾も企画されていたそうです。こちらでは「アンドロメロス」との共演も企画されていたという話も聞かれます。その敵である「ジュダ」が、本作の黒幕だったという設定も伏線だったのかもしれません。この企画は動くことなく、ウルトラシリーズの新作は海外との合作作品となるアニメ作品『ウルトラマンUSA』まで待つことになります。

 もっとも、本作がウルトラシリーズをつなげた点は間違いないでしょう。メイン商品だった怪獣ソフビ人形のセールスに貢献したことで、TVシリーズ不在だった時期に果たした役割は大きなものだと思います。