今年の全米オープンは、ノースカロライナ州パインハーストのパインハーストNo.2コースで開催され、ブライソン・デシャンボーの劇的勝利で幕を閉じた。最後のパーパットを沈めて大きなガッツポーズと雄叫びを上げるデシャンボーを、18番グリーンで見守る大観衆が歓声を上げ、勝利を祝った。

パインハーストには、No.1から10までのコースがある。今回の大会で、筆者はパインハーストNo.5コースに隣接する一軒家に宿を取った。メディアセンターまでは歩いても30分以内と至近距離にあるが、全米オープンのNo.2とは別コースということもあり、No.5コースは通常営業をしていた。宿の裏手にはコースを臨むパティオがあり、シャワー後のひと時を過ごすには最高の場所だった。

6月のノースカロライナは日没が20時半を過ぎる。取材から帰ってきてもまだ外は少し明るい。そこへ、地元のキッズと思しきグループがプレーする様子が見えた。クラブ数本を片手に、ラフな格好でプレーする。よく見ると、小型のセグウェイに乗っているではないか。多分、近隣に住むキッズが、日没間際のコースへ進入して、薄暮プレーを楽しんでいたのではないかと思われる。世界的な大会が行われているすぐ隣のコースで、こんなにも気軽にゴルフを楽しむ環境があるのは、羨ましい限りだ。

次の日、すでに日も沈んだより9時半ごろ、いつものようにパティオで涼んでいると、暗闇のコースにインパクト音がこだました。夜空に、まるでUFOのようなものが飛んでくる。なんだろう?

蛍光発光ボールだ!

噂には聞いていたナイトゴルフ(*ナイターゴルフではない)を実際に目撃したのは初めてだ。急いでプレーするキッズに近づいてみる。

Q.ボールが光っているとはいえ、暗闇で打つのは難しくないの?

「見えるから大丈夫。でも、距離感が掴みづらい」

Q.方向はわかるの?

「いつもプレーするコースだから、大体の方向はわかるよ」

Q.距離はどうするの?ピンフラッグは見えないじゃない?

「大体の距離感で打つしかない。グリーンに乗ればOK」

 照明があればグリーンやピンフラッグも見えるが、光っているのはボールだけで、周りは真っ暗。見えなくって当たり前だ。

 でも、こうやって気軽にプレーできる環境の中から、一流プロが生み出されるのかもしれないと思うと、アメリカゴルフ界の裾野の広さを実感させられてしまう。ゴルフかいの頂点を決めるメジャー大会を取材しながら、ゴルフ界の“底辺”も同時に見た気がする。

フォトグラファー 田辺安啓(通称JJ)
●たなべ・やすひろ/1972年生まれ、福井県出身。ニューヨーク在住。ウェストバージニア大学卒業後、ゴルフコース、テレビ局勤務を経験し、ゴルフを専門とするフォトグラファーに転身。ツアーのみならず、コースやゴルフ業界全般に関わる取材も行なっている。

取材・写真=田辺安啓 
TEXT & PHOTO Yasuhiro JJ TANABE