「ガンダム」シリーズのMSには欠かせない要素のひとつである「型式番号」、現在ではほとんどのMSは誕生と同時に振られていますが、最初はそうではなかったのです。型式番号誕生の歴史を紐解いてみましょう。



そういえば「RX-78」の「R」って何なのでしょうね。「RG 1/144 RX-78-2 ガンダム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

【ジオングは02】こちらが型式番号「MSN-01」を振られたMSです(11枚)

後付け設定だった「型式番号」

 2024年現在の「ガンダム」シリーズで欠かせない設定のひとつに「型式番号」があります。放送当時は設定されていなかったものですが、今ではMS(モビルスーツ)にはなくてはならないものといえるかもしれません。

 もともと型式番号というものは、身近なものでいえば乗用車、兵器としては戦闘機などに付けられていました。アルファベットと数字、ハイフンなどを組み合わせて表記します。この型式番号がガンダムの世界観をよりリアルに見せるための要素のひとつになりました。

 本来、型式番号とは生産や流通、部品供給などの管理のため、製品が特定できるようにメーカーが付けた番号のことです。乗用車などの分野ではモデルチェンジした際に変わることから、世代を識別させるために重要な番号となりました。

 この型式番号が「ガンダム」シリーズに導入されたのは、劇場版1作目公開前だったといわれています。

 もともとTV版第1話のシナリオに記されながらも、本編では使われなかった「ブライト・ノア」と「テム・レイ」の会話のなかに、「ガンダーX78」という言葉がありました。これが現在の型式番号の原型といえるものです。

 企画書にも「VX-78」という記述がありました。こちらは「V作戦」を意味するともとらえられ、「ガンキャノン」と「ガンタンク」を含めている可能性もあります。

 このガンダーX78から着想を得たアニメ雑誌「アニメック」の、当時編集長だった小牧雅伸さんが、富野喜幸(現、由悠季)監督から許可を得て考案したのが「RX-78」という型式番号でした。これがやがて劇場版1作目以降に公式となり、現在に至るわけです。

 ちなみに型式番号の頭にある「R」にはさまざまな説がありました。ロボットのRという説、連邦軍のRという説、メカデザインを担当した大河原邦男さんの当時の愛車が「マツダ・サバンナRX-7」だったからという説などです。現在、小牧さんは鬼籍に入られているので、真相は永遠の謎といえるかもしれません。

 ともあれ、この「ガンダムの型式番号」を基にして、「RX-75 ガンタンク」「RX-77 ガンキャノン」と型式番号が振られたことは安易に想像できるでしょう。こうして、地球連邦軍のMSの型式番号は、基礎ができました。

 一方のジオン公国軍のMS「ザク」は、それほどひねることなくほぼ同時期に「MS-06 ザク」と設定されます。そのオリジンはおそらく「モビルスーツ」のMSに間違いないでしょう。6番目に設定した意図は不明ですが、現在のMS開発史を見ていくと適当な位置だったといえるかもしれません。

 かくしてガンダムの世界観に「型式番号という設定」が加わったわけですが、そこからしばらくの間はいくつかの混乱が繰り返されることになりました。



「MS-10L」と振られかけという「MS-07」。「GUNDAM FIX FIGURATION METAL COMPOSITE MS-07B グフ」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

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型式番号が数パターンある単純なワケとは?

 最初に混乱を招いたのは「MS-10L」という型式番号です。バンダイが主に模型店などに置いていた小冊子「模型情報」1981年4月号で、大河原さんが描き下ろしたカラーイラストに表記がありました。

 この「MS-10L GUF」(表記ママ)と記されていたMSは、現在では「MS-07 グフ」と呼ばれているものです。当時の設定管理システムは現在のように確立されておらず、こういった形で先行してしまうことも珍しくありません。もちろん「MS-07」がグフという設定はまだ公式では出ておらず、大河原さんが間違えたというわけでもないのです。

 ちなみに翌月の「模型情報」1981年5月号では、大河原さんは3機の「ドム」を描き下ろしました。この時の表記は「ZION HEAVY MS DOM」(表記ママ)となっています。おそらくグフは間に合わなかったのでスルーでしたが、ドムの時には何らかの抑止力が働いたのでしょう。

 結果論になりますが、この時のままグフが「MS-10L」として進んでいれば、後の「MSV」で隙間を埋める作業がやりやすかったかもしれません。それはすなわち、ジオン軍のMSの数が今以上に増えていた可能性があるということです。

 制作会社である「日本サンライズ」(現、バンダイナムコフィルムワークス)があずかり知らぬところで型式番号が独り歩きした例は、ほかにもありました。それが1981年8月に販売されたムック本「ガンダムセンチュリー」(みのり書房)です。後にこの本は「ガンダム」シリーズにおける「設定」の基礎となりました。

 この書籍で、後の公式設定と異なってしまったのが、劇場版第3作『めぐりあい宇宙』以降に登場するMSとMA(モビルアーマー)の型式番号です。前述した「模型情報」と同じように、製作側と出版側ですり合わせができないまま発売されたことが原因でしょう。

「ガンダムセンチュリー」では「MSN-02 ジオング」と「MAN-08 エルメス」と記載されていましたが、劇場などで販売された4枚つづりのグループ鑑賞券には「MS-X16 ZIONG」「MA-05E HERMES」と、異なる表記になってしまいました。

 常識的に考えて、製作側が設定した型式番号が正式のものとなるところでしょう。ところが、現在の表記を知っている人ならご承知の通り、「ガンダムセンチュリー」のものが現在は正式なものとして認知されています。これは、それだけ「ガンダムセンチュリー」の影響力が当時は大きかったことの証明といえるかもしれません。

 こうした表記揺れはいくつかあったものの、数年後に続編となる『機動戦士Ζガンダム』が発表される頃には、製作側の設定した型式番号がデザイン画と同時に発表されるようになり、そこからの混乱はほとんどなくなりました。もっとも出版側の誤字による表記ミスがそのままになるということもあって、誤った型式番号が世に出てしまうということがいくつかあったそうです。

 制作側のチェックが厳しくなったのは、筆者の体感ですが、21世紀になる前後くらいだったでしょうか。厳しすぎて差し戻しになることも少なくありませんでした。現在、まれに違った型式番号が紹介されているのも、ガンダム誕生期にあった些細なミスが原因だったということになります。