北条司先生の連載デビュー作『キャッツ・アイ』にはいくつもの最終回があります。ファンによく知られている最終回だけでなく、意外なものまであるのをご存じでしょうか。
2019年公開の映画『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』に登場した来生三姉妹 (C)北条司/コアミックス・「2019 劇場版シティーハンター」製作委員会
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瞳が記憶喪失!ファンが愛する感動の最終回
美人怪盗の三姉妹が活躍するマンガ『キャッツ・アイ』は、『シティーハンター』で知られる北条司先生の連載デビュー作です。1981年から1984年にかけて「週刊少年ジャンプ」に連載され、単行本の累計発行部数が1800万部を超える大ヒット作品になりました。
TVアニメは、第1期が1983年から1984年にかけて、第2期が1984年から1985年にかけて放送され、杏里さんが歌う主題歌「CAT’S EYE」も大ヒットしました。今から40年近く前の作品ですが、近年も舞台やアニメが発表されるなど、不動の人気を誇っています。
『キャッツ・アイ』のストーリーの縦軸になっているのが、主人公「来生瞳(きすぎ ひとみ)」とキャッツを追う「内海俊夫(うつみ としお)」刑事との恋の行方、そして行方不明になっている来生三姉妹の父「ミケール・ハインツ」の消息です。
本作の最終回ではそれぞれどのように描かれていたのでしょうか。
※この記事では『キャッツ・アイ』の結末についての記載があります。
マンガ『キャッツ・アイ』の最終回は、実はふたつあります。「絆よ永遠に!の巻」は連載時の最終回です。来生三姉妹の父であるミケールを陥れたクラナッフ・シンジケートは壊滅し、瞳たちは平穏な暮らしに戻りますが、俊夫の心は揺れていました。「婚約者の瞳」への愛は変わらないものの、「キャッツである瞳」にも心を奪われかけていたのです。いわば、瞳と俊夫とキャッツとの三角関係です。
迷いを断ち切るため、俊夫はキャッツと湖畔で会います。深い霧で顔を隠したキャッツに、泥棒を廃業すること、父を探すために旅立つこと、永久に俊夫の前から姿を消すことを告げられた俊夫は動揺を隠しきれません。
「キャ…キャッツ… おれはいつの間にかホントにきみのことを…… でも…でもな キャッツ おれには瞳がいるんだ!!」
やがて霧が晴れていきます。正体を見たくないとうろたえる俊夫の前に、ついにキャッツが正体を現します。俊夫の目の前に立っていたのは瞳でした。呆然とする俊夫に、瞳は「ありがとう俊夫――瞳のほうを選んでくれて…」と感謝し、泥棒と刑事は結ばれないからと別れを告げて去っていきます。
ロサンジェルスに向かう来生三姉妹を、「ねずみ」こと怪盗(表の顔はルポライター)の「神谷真人(かみや まさと)」にハッパをかけられた俊夫が追いかけます。俊夫は刑事を辞めるつもりで課長に辞表を渡してありました。瞳の乗った飛行機は離陸寸前でしたが、俊夫は旅客乗降機の上を走り、瞳と向かい合います(飛行機のドアを愛が開け放っていました)。
「瞳…いや…キャッツアイ!! お…おれから逃げられると思っているのか?? おれはおまえおつかまえるまでは… 地の果てまでも追って行くと誓ったんだっ!!」
こう叫んだ俊夫は、瞳に手錠の代わりに婚約指輪を投げます。キャッチした瞳は、指輪を薬指にはめて姉妹の「泪(るい)」「愛(あい)」とともに飛び立ちました。こうして連載は終了します。
もうひとつの最終回が、後日譚として「週刊少年ジャンプ」1985年新年号に掲載された「恋ふたたびの巻」です。「ジャンプ」の表紙には『キャッツ・アイ-完結編-』と銘打たれていました。現在は単行本の最後に収録されています。
俊夫は助けを求める神谷の呼びかけによってロスに向かおうとしていました。空港では課長と特捜班の面々に送り出されます(これも名場面!)。
ロスで再会した瞳は、病のため記憶をすべて失ってしまっていました。衝撃を受ける俊夫に、泪はこのまま帰るように言います。しかし、俊夫が思い出のオルゴールを鳴らすと、瞳はこもっていた部屋から出てきました。興味を示す瞳を見ながら、俊夫は泪にこう語りかけます。
「こんなすばらしいことってありませんよ… だってそうでしょう?瞳ともう一度… もう一度恋ができる…」
これぞ名場面、これぞ名セリフでしょう。泪、愛、神谷らが見守るなか、瞳と俊夫は海辺を歩きます。夕焼けのなか、ふたりの笑顔がはじけた瞬間がストップモーションのように描かれてエンディングとなりました。「絆よ永遠に!の巻」「恋ふたたびの巻」ともに、素晴らしい最終回だと思います。
ちなみに父、ハインツの行方は描かれませんでした。北条先生は「自分としてはお父さんも見つけて、みんなで幸せに暮らしていてほしいなと感じていますが、続編を描こうと思ったことはない」「それぞれの続きを想像で楽しんでいただくのが一番いいのかなと思っています」と語っています(「北条司『キャッツ・アイ』原作40周年を超えて明かす、最終回の名セリフ秘話&続編を描かない理由」MOVIE WALKER PRESS 2023年1月26日配信)。
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意外過ぎるけど感動するアニメの最終回
一方、アニメ『キャッツ・アイ』には、第1期の最終回「ハインツを知る男」と第2期の最終回「愛のカーテンコール」があります。
第1期の最終回「ハインツを知る男」は、父、ハインツからのメッセージを託された男「醍醐」が登場します。醍醐はハインツを狙う某国の殺し屋に殺害されてしまいますが、キャッツが殺し屋を捕らえ、ハインツがいるとされるパリに飛び立ちます。
瞳は俊夫にパリに旅立つことを告げるものの、俊夫は重くとらえていませんでした。泪と愛にけしかけられた瞳は、自分から俊夫に迫ってキスを交わします。その後、パリの到着した三姉妹が、パリでの生活をエンジョイし、キャッツとしても活動している様子が描かれて終わりました。
「愛のカーテンコール」はかなりトリッキーな最終回です。なんと劇中劇としてキャッツの正体が瞳であることが描かれるのです。
愛が学校での演劇のために書いた舞台の脚本は、キャッツが主役のノンフィクションのようなお話でした。キャッツ役は来生三姉妹が演じ、立候補した俊夫が刑事役、課長や女刑事の「浅谷光子」まで自分の役で出演します。ハインツコレクションの指輪を美貌の夫人から盗もうとするサイドストーリーも展開しますが、やはり目玉は瞳と俊夫が対峙する場面でしょう。
暗がりのなかで銃を構えるキャッツ。「お前の顔を見て死ねたら本望だ」と俊夫がライトを当てると、そこにはレオタード姿の瞳が立っていました。瞳は自分の頭を撃ち抜こうとしますが、俊夫は阻止して抱きしめます。瞳は涙を流し、俊夫もまた慟哭していました。
キャッツに逃げられたことを課長に報告する俊夫の前に、瞳が現れて「私です! 私がキャッツ・アイです!」と叫びます。俊夫のクビを阻止するため、瞳は自分を逮捕するよう訴えたのです。課長は涙を浮かべながら手錠を俊夫に渡し、俊夫は泣きながら瞳に手錠をかけてふたりで抱き合いました。
しかし、夫人の機転で盗みはなかったことになり、課長も瞳の手錠を外します。万雷の拍手のなか、キャッツの姿をした瞳と刑事の俊夫が腕を組んで幸せそうに笑い合いながら歩くという、今まであり得なかった画が描かれました。
現実に戻ると、キャッツは夫人からダイヤを盗んでいました(夫人は良い人なのでちょっと気の毒)。俊夫は課長に怒鳴られ、瞳に励まされながら捜査に戻るというエンディングを迎えました。
原作とはかけ離れていますが、ファンが見たかった場面を劇中劇として再現し、ふたりの思いの丈を語らせるという、意表を突きつつ、非常に凝った最終回だったといえるでしょう。
原作マンガ、TVアニメをふくめて、どの最終回もそれぞれ違った魅力があります。あなたはどの最終回がお好みですか。