映画はグロテスクな描写があるからといって、一様にR指定作品と分類されるわけではありません。過激なマンガ原作を忠実に再現したとしても、全年齢対象とされた作品も見られます。年齢制限は、どういった理由で決められるのでしょうか。
「全年齢」が見られる映画『ミュージアム』ポスタービジュアル (C)巴亮介/講談社 (C)2016映画「ミュージアム」製作委員会
【画像】え…っ? 「佐藤健や橋本環奈が?」 こちらがメジャー作品でも意外と多い「R指定」のマンガ実写化映画です(10枚)
身体損壊の「結果」だけではR指定にはならない?
グロテスクな描写が多いマンガを、実写映画化することは容易ではありません。描写を過激にして「R15+、R18+指定」などの年齢制限が付くと、それだけで客層が狭まりますが、かといって残酷シーンをマイルドにすると原作ファンからの批判も出てきます。
ただ、なかには残酷描写を再現しつつ、R指定にならなかった作品も見られます。目を背けたくなるようなシーンがあるにも関わらず、なぜR指定にならないのでしょうか。映画の年齢制限を決める、映画倫理機構(映倫)のコメントとともに、いくつかの例を振り返ります。
『無限の住人』PG12指定
沙村広明先生による同題マンガを原作とする三池崇史監督の実写映画『無限の住人』は、2017年4月に公開された木村拓哉さん主演のアクション時代劇作品です。
物語は剣客集団「逸刀流」(いっとうりゅう)に両親を殺された少女「浅野凜(演:杉咲花)」が敵討ちのため、不老不死の肉体を持つ男「万次(演:木村拓哉)」に用心棒を依頼するところから始まります。万次と逸刀流の激しい戦いは、本作の見どころのひとつです。
その戦いの描写は、原作に比べるとマイルドに仕上がっているものの、血しぶきや、手足が切り落とされるシーンなどが多数、盛り込まれています。特に、物語終盤の300人を相手に万次が戦う殺陣シーンは、画面から血生臭さすら感じさせるほどでした。
こちらはPG12指定となっており、映倫の公式サイトではその理由について「簡潔な殺傷及び肉体損壊がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます」と説明されています。
ただ鑑賞者のなかには気分が悪くなる人もいたようで、「目を伏せたくなる描写のオンパレードで物語どころじゃなかった」「耐性がない人にはおすすめできない」など公開当時、SNSなどで話題になりました。木村さんを目当てに観に行ったという人も多かったでしょうから、そういった声がよく聞かれたのかもしれません。
ちなみに、人を選ぶバイオレンスな作品ながら、もともと海外での人気が高い三池監督作品らしく、『無限の住人』は諸外国で高い評価を受けることになりました。2017年のカンヌ国際映画祭にて、世界中の映画のなかから4つしか選ばれない特別招待作品に選出されるたほか、その後も海外メディアからも賞賛が相次いでいます。
『ミュージアム』全年齢対象の「G」
2016年に実写映画化された『ミュージアム』(原作:巴亮介)は、かつて「幼児樹脂詰め殺人事件」の裁判員だった人びとを殺害していく猟奇殺人鬼「カエル男」との激しい攻防を描いた、サイコサスペンス作品です。そのカエル男を妻夫木聡さんが特殊メイクで演じ、当時話題になりました。
本作は、カエル男の「私刑」が原作通り再現されているのも、見どころのひとつです。たとえば、鎖につながれた被害者が空腹の猛犬の餌になってしまう「ドッグフードの刑」や、口に何本もの釘を刺して殺す「針千本飲ますの刑」など、グロテスクなシーンが描かれています。
ところが本作はR指定どころか、PG12指定にもならず、「全年齢対象」の「G指定」作品として公開されました。公開当時、監督の大友啓史さんはネットニュースのインタビューで、R指定も覚悟していたが年齢制限なしで拍子抜けした、死体が映っていてもその過程が描かれていなければ大丈夫らしい、という旨のコメントをしています。
この観点から振り返るとたしかに、『ミュージアム』の殺人描写は「どのような犯行が行われたか」は分かっても、「具体的な過程の描写」はありません。映倫の公式サイトを見ても、本作の年齢区分については特に何の説明もありませんでした。年齢区分指定がないのですから、それは当然といえば当然でしょう。
そこで映倫に、本作の年齢区分指定の理由について問い合わせたところ、「公式サイトに書いてあること以上の理由の説明はできない」といった旨の回答がありました。全年齢で公開された詳細な理由は不明ですが、本作のポスターに「危険!」とあったとおり、年齢制限がないとは思えないくらいグロテスクな描写が多く、苦手な人が鑑賞する際には留意したほうがよいでしょう。
PG12指定ながら、「人体真っ二つ」の描写もある『寄生獣』ポスタービジュアル (C)映画「寄生獣」製作委員会
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地上波では過激シーンはカットされた?
『寄生獣』PG12指定
地球に侵略してきた「パラサイト(寄生生物)」と人類の戦いを描いた作品『寄生獣』(原作:岩明均)は、2014年から2015年にかけて2部構成で実写化されました。
パラサイトは、鼻腔や耳孔から人間の頭に侵入し、身体を乗っ取り、他の人間を補食するという性質を持つ地球外生物ですっていま。本作の主人公「泉新一(演:染谷将太)」は、1匹のパラサイトに侵入され、なんとか頭の乗っ取りを防ぐも、そのパラサイトは彼の右手と置き変わってしまいます。新一はそのパラサイトを「ミギー」と名付け、彼らの共生生活がはじまりました。
本作は、腹や首の切断面や、人体が真っ二つに切断された後の死体など、衝撃的な描写が多々見られます。前掲の『無限の住人』同様、本作品はPG12指定作品です。
映倫の審査結果によると、本作品がPG12指定になった理由は「殺傷・流血の描写がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます」とされていました。
映画『寄生獣』がR指定ではないことに驚いた人も多かったようで、「舐めて観たら痛い目にあう」「あれだけのシーンがあるのに、R指定じゃないのは不思議」といった声があがっています。ちなみに、本作が地上波で放送された際、過激なシーンは大幅にカットされ、ネット上で「まさに規制獣」と嘆く声も出ていました。
また韓国で翻案されて実写化された、Netflixドラマシリーズ『寄生獣-ザ・グレイ-』も冒頭からパラサイトによって群衆が襲われる場面が描かれたほか、その後も残酷シーンが続出し、16歳以上の鑑賞が推奨される「16+」の年齢指定に分類されています。