「リアル北斗神拳は可能か」、今までいろんな人が独自の考察を述べてきたはずです。今回、もしもこんな人がいたらイケるかも、とムリを承知で考えてみました。真剣に。
『北斗の拳 新装版』第1巻 原作:武論尊/漫画:原哲夫 (コアミックス)
【画像】こちらが「秘孔とツボ」を真正面から追求した漢たちです(5枚)
「おまえはもう死んでいる」……リアルだったら怖いけど
マンガ『北斗の拳』の「北斗神拳」は、「経絡秘孔」を突いて人体の内部から破壊する暗殺拳です。この北斗神拳、皆さんは「実現できる?」と思ったことはあるでしょうか。空想マンガの世界ですから「ムリ」と思うのは当然です。
しかし、それでは夢がないので「もし、こんな人がいたら」という考察をしてみます。鼻で笑いながら読んで下さって結構です。
「北斗神拳」は、本作の担当編集者である堀江信彦さんの「人体のツボを突くと肉体が破壊される」というアイデアから生まれました。東洋医学では、人体のなかを巡るエネルギー(気)の道筋を「経絡(けいらく)」、経絡に沿って並ぶ体の表面のポイントを「ツボ(経穴・けいけつ)」と考えます。マンガにおける「秘孔」は造語で、この「秘孔」と呼ぶツボを突き、「気」を送り込むことで人体に変化をもたらせるのが北斗神拳の奥義ということです。
ツボと秘孔はリアルか?
「ツボと秘孔」について調べました。まず「ツボ」は、東洋医学ではその数が約700です(※世界的に認められている経絡は361)。マンガ『北斗の拳』の「秘孔」の数は708(+アミバが開発した数か所)なので、ほぼ同じです。
次に「ツボと秘孔は同じ位置なのか?」という点について、マンガでは、主人公「ケンシロウ」が「経絡秘孔の○○を突いた」などと明言する場合もありつつ、ほとんどの秘孔名は明かされていません。筆者個人の調べでは、ジャンプコミックス全27巻において名称が分かる秘孔は「42」あります。
そして「秘孔とツボの位置はリンクするのか」について調べると、いくつかに分類できました。
A:秘孔とツボの名称、位置も一致(ほぼ一致)
例)秘孔とツボ「頭顳(ずせつ)」は、こめかみのやや下。
B:秘孔とツボの名称が多少違うが位置はほぼ一致
例)奥義「北斗残悔拳(ほくとざんかいけん)」の秘孔は「頭維(四号)」(とうい/しごう)で位置は「こめかみ」。ツボに「頭維」はあるものの読み方は「ずい」で、位置も側頭部の額の角の髪際なので、「こめかみ」より少し上。
C:秘孔とツボの名称は一致 or 似た名称はあるが、位置がかなり異なる
例)秘孔「新伏免(しんふくめん)」は位置が顔の両サイド。ツボに「伏免(ふくめん)」はあるが位置は太もも。
D:秘孔のみのオリジナル
例)ラオウがレイに突いた秘孔「新血愁(しんけつしゅう)」。位置は胸の中心部。
F:不明(体のどこを突いたか分からない)
例)「牽正(けんせい)」
秘孔の大半は創作されたもので、ツボとの違いは作者側が間違えたのか演出的なことか、それはわかりません。とはいえ、これで北斗神拳は実際のツボを意識していることがうかがえたので、「ツボ=秘孔」はほぼリアルと受け取れるでしょう。
中国の武術家、気功家である馮志強老師による陳式太極拳、気功法の実技指導と表演会の模様を収録。『気と発勁の実践講座』(BABジャパン)
(広告の後にも続きます)
北斗神拳開発の条件は3つ
以上をふまえ、「どういう人ならリアルな北斗神拳を会得できるか」という目線で詰めてみます。これは新拳法になるので開発しなければなりません。
このあと、「中国武術」や関連した用語を使いますが、これらは歴史が古く複雑なので見識も人によって違うはずです。異論、批判はあるでしょうが、あくまでひとつの考察としてご了承ください。
開発の条件は3つ
北斗神拳は武器を使わない打撃系の拳法で、そして打撃の強弱よりも、的確に秘孔を突き、気を体内へ送り込んで倒すのが特徴です。
そこで大前提として、北斗神拳開発の条件1は「ツボの位置を熟知していること」、条件2は「打撃系の格闘技術が備わっていること」です。
そして条件に「気功を扱える」ことは不可欠です。ただ、中国古来より伝わる気功は健康法で、武術においても身体や精神を整えるものとしています。太極拳はもともと闘う拳法という説もあり、気を込めてパンチなどを繰り出すとはいえ、「気を込めてツボを突き体内から破壊する」には、現実的には弱いかもしれません。
そこで浮かぶのは「発勁(はっけい)」です。「発勁」は中国武術における力の流れを指すもので、うまく操ることが武術の本質だそうです。門派や流派によって種類があるため簡単な説明ははばかられますが、たとえば、タレントで空手家の角田信朗さんが扱う「寸勁(すんけい)」は、至近距離からわずかな動作で大きな力を伝えます。重ねた10枚以上の瓦の上にわずかに触れ、押し込む動作だけで一気に割るパフォーマンスは不思議です。
そこで、最後の条件3は「気功+発勁を修練した達人」となります。全ての条件を満たした人物が、「気」と一緒に波動のような「勁」をツボに打ち込む術を会得して、体の内部から破壊する技を完成させれば、それは新拳法になります。以上が考察した北斗神拳の作り方です。
開発しても伝承できない
世界には数え切れないほどの武術があるので、もっと北斗神拳に近いものがあるかもしれません。着目したのは「気功」なので、やはり中国武術から発想しました。実際に太極拳で「気功と発勁」を修練している達人もいらっしゃいますし、拳法は進化するものです。
ただ、こうも思うのです。北斗神拳のような暗殺拳は、すでに存在したのかもしれないと。しかし、人を殺すと罪になります。そのような拳法は実戦稽古できませんし、伝承は不可能です。万が一、開発できても結局は絵空事になります。やはりマンガはマンガであしからず。
※記事の中で、太極拳、気功、発勁などいくつかの武術用語を使用しましたが、これらに命を奪う目的はありません。誤解のないようお願いします。