「ガンダム」シリーズのモビルスーツは、ソフトウェアで制御されています。リアルでも最新戦闘機におけるソフトウェアは重要で、バージョンアップでパワーアップ等、マンガみたいなお話が現実にも見られるのです。
搭載された「教育型コンピューター」は一種の学習型AIか。「HG 1/144 RX-78-2 ガンダム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
【通常の4倍】こちらが見るからにヤバい「ビーストモード」です(4枚)
現代戦闘は「ギガバイトの戦い」
現代社会において、ハードウェアが単独でその真価を発揮することは稀となりました。コンピュータ制御が不可欠な「モノ」にとって、ソフトウェアは命ともいえる存在です。このことは、アニメ『機動戦士ガンダム』シリーズに登場するモビルスーツ(MS)にも当てはまります。
「ガンダム」などのMSは、いわゆるオペレーティングシステム(OS)の類、すなわちソフトウェアの類によって制御されていることが、劇中描写からうかがえます。例えば、「アムロ・レイ」が搭乗したガンダムには「教育型コンピューター」が搭載されており、これは一種の学習型AIと解釈できるでしょう。このAIはアムロの操縦データに基づいて学習し、そのデータを量産型MS「ジム」に適用するために、「マチルダ少尉」が回収するエピソードも存在します。
現実世界においても、戦闘機などの兵器はソフトウェアに極めて依存しています。現代の戦闘はもはや「マッハの戦い」ではなく、「ギガバイトの戦い」と言っても過言ではありません。
例えば、アメリカの最新鋭戦闘機F-35「ライトニングII」は、操縦から武器運用までほぼ全てをソフトウェアによって制御しています。パイロットは操縦桿やスロットルレバーで直接機体を操縦するのではなく、これらの装置を通じてコンピューターに指令を出すだけです。
操縦桿は感圧式となっており、右手でかける力によって「何Gの旋回を行うか」を指示します。そしてソフトウェアは、指示されたGを実現するために必要な空力舵の角度を計算し、アクチュエーターに指令を出して舵を動かします。
このような飛行制御方式は「フライ・バイ・ワイヤ」と呼ばれ、人間では不可能な高頻度かつ高精度な舵の調整を可能にしました。その結果、熟練パイロットと同等の、あるいはそれ以上の機動性を新人パイロットでも発揮できるのです。
航空自衛隊のF-35A戦闘機。画像は通常の「ステルスモード」 (画像:航空自衛隊)
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ソフトウェアの更新で攻撃力マシマシ「ビーストモード」へ!
さらに、ソフトウェアの更新によって戦闘機の機能を拡張することも可能です。F-35はバージョンごとに「ブロックxx」という番号が与えられており、2024年7月現在の現行バージョンは「ブロック3F」になります。現在、次世代バージョンとなる「ブロック4」の開発が進められており、間もなく実用化される見込みです。
ブロック4では、ステルス性を犠牲にしてペイロードを増大させる、「ビーストモード」と呼ばれる飛行形態が実現する予定です。これは、レーダー反射源となるミサイル類を機外に大量搭載することで、さらなる攻撃力を追求した機能といえるでしょう。
しかし、ソフトウェア開発の難航は大きな課題となっています。本来ならば2024年初期に実用化される予定だったブロック4は、2024年7月現在も目処が立っておらず、2025年への延期が予想されます。
この遅延は、F-35の量産にも影響を与えています。2023年末から新造機にはTR-3と呼ばれる新型ハードウェアが搭載されていますが、TR-3はブロック4のソフトウェアでしか動作しないため、F-35の納入が半年間以上、停止するという事態が発生しているのです。
ロッキード・マーティン社のフォートワース工場(米テキサス州)では、年間150機という驚異的なペースでF-35を量産しているものの、すでに100機近いTR-3仕様の機体がソフトウェアのインストールを待ち、工場内に保管されている状態です。
このように、ソフトウェアは現代の兵器において極めて重要な役割を担っています。「ガンダム」シリーズのMSもまた、F-35以上に高度なソフトウェアを搭載していることは間違いないでしょう。開発環境はAIなどの未来の技術を駆使した高度なものであろうと推測されますが、それでもなおソフトウェア開発は困難な道のりであることは想像に難しくありません。
兵器の進化は、ハードウェアとソフトウェアの密接な融合によって支えられています。MSのOS開発においても、困難な課題を克服しながら、より高度な戦闘能力を目指していることでしょう。