2025年の大阪・関西万博では「実物大ガンダム像」が設置され、ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督が手掛ける実写映画版も企画が進行中です。いよいよ「ガンダム」が世界的な知名度を得るための土壌が整ってきたようです。しかし、これまでの初代『ガンダム』のアメリカ進出は、挫折の繰り返しでした。
大阪・関西万博「GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION」ティザービジュアル (C)創通・サンライズ
【画像】え、日本での知名度低い? これが「ガンダム」を名乗っていない「ガンダムの実写作品」です(4枚)
「ガンダム」は世界的認知度をアップできるか?
2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、「ガンダム」のバンダイナムコホールディングスが出展します。パビリオン「GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION」では「実物大ガンダム像」が設置されると発表され、話題になりました。
また、2024年秋には、「一年戦争」を舞台にした3DCGアニメーション『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』がNetflixで世界独占配信されます。さらに、『キングコング:髑髏島の巨神』のジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督が手掛ける実写映画版も企画が進行中です。いよいよ、「ガンダム」が世界的な知名度を得るための土壌が整ってきたようです。
数ある「ガンダム」シリーズ作品のなかでも、その原点である『機動戦士ガンダム』は国内では国民的作品ともいえる人気を誇ります。しかし、海外、特にアメリカではほかのアニメと比べて突出して有名なわけではありません。『機動戦士ガンダム』いわゆる「ファーストガンダム」は、これまでもアメリカ進出を試みながら、挫折を繰り返してきたのです。
最初のTVシリーズ『機動戦士ガンダム』は、1979年の日本での本放送後、翌80年にイタリアと香港で放送されましたが、アメリカでは長く放送されませんでした。しかし、1983年に意外な形でアメリカに進出しています。それは放送でも映画公開でもなく、実写映画化企画でした。
当時、国内のファンの間で「ハリウッドで『ガンダム』が映画化されるらしい」といううわさが流れたこともありましたが、公式な発表はありませんでした。
ところが映画『ブレードランナー』や『トロン』で知られ、後に『∀ガンダム』にも参加するデザイナー、シド・ミード氏の個展『シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019』で、スペースコロニー内外で「ザク」と「ガンダム」が戦う「Zak’s Attack Gundam World」「Gundam’s Attack Zak’s World」と題した2点のイラストが展示されたのです。
図録の解説によれば、描かれたのは1983年で、「米国で映画化をもくろんだコンセプトアートだったといわれている」そうです。
詳細は不明ですが、当時の状況を考えれば、あまりに早すぎた企画といえるでしょう。何しろ1995年の『G-SAVIOUR』制作時でさえ、現代科学の延長線上にありながら人型巨大ロボが活躍する「ガンダム」の世界観を、アメリカ側のスタッフと共有するのにいかに苦労したかが伝えられているのですから。もちろん、この映画化は実現せず、企画自体も表に出ることはありませんでした。
結局、一部の個人的なビデオ上映会などを除き、アメリカでアニメ『機動戦士ガンダム』が公式に解禁されたのは1998年、劇場版三部作のビデオリリースでした。
1990年代後半は、インターネットの普及と『美少女戦士セーラームーン』や『ドラゴンボールZ』の大ヒットで、アメリカで日本アニメの人気が高まっていた時代です。バンダイ・アメリカが設立したオンラインストア「アニメ・ビレッジ」で、これを機にいよいよ「ガンダム」を海外進出させるため、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』とともに『機動戦士ガンダム』劇場版三部作のビデオを発売したのです。
当初はマニア向けの英語字幕版だけの販売予定でしたが、より一般層のファンを獲得するために、翌1999年に英語吹替え版の制作も始まりました。ここで『機動戦士ガンダム』は、アメリカ進出において大きなつまずきを経験します。
劇場版第一作の英語吹替え版のスタッフが、アメリカ市場に合わせてセリフや内容に手を入れたのです。かつて日本のアニメをアメリカで発表する際は、放送形態や視聴者層に合わせて独自の編集を行なうことは珍しくありませんでした。『機動戦士ガンダム』もその例にもれず、旧来のロボットものに合わせたノリに翻案されたのです。
パトリック・マシアス氏による『オタク・イン・USA』によれば、初めて「アムロ・レイ」がザクを見た時のセリフが「ジオンのロボトン・インベーダー軍団だ!」だったそうですから、その改変ぶりは相当なものだったのでしょう。同書には、後に「ガンダム」シリーズの英語版公式サイトでメインライターを務めたマーク・シモンズ氏が、発売前のサンプルビデオを見て「こりゃ、ダメだ。最悪ですよ」とクレームを付けたとも記してあります。
その甲斐あってか、後に発売された第2作『哀・戦士』、第3作『めぐりあい宇宙』のビデオでは吹き替えが改善されたものの、第1作の悪印象が尾を引いたのか、一般層にまでその魅力が届くことはありませんでした。同吹替え版ビデオは初回生産のみで終わったようで(日本側が再発売を却下したとの説もあり)、『機動戦士ガンダム』のアメリカデビューは、その魅力を本格的に発揮できないまま終わったのです。
そんな『機動戦士ガンダム』のビデオセールの不振を横目に、翌2000年に『新機動戦記ガンダムW』が、全米の有数のケーブルテレビ、アニメ専門チャンネル「カートゥーンネットワーク」のTOONAMI枠で放送されます。これはアメリカで初めてとなる「ガンダム」シリーズのTV放送でした。
『新機動戦記ガンダムW』ビジュアル (C)創通・サンライズ
(広告の後にも続きます)
『W』の放送を機に、1stもついに日の目を見る…と思われたが?
吹替え版ではありますが、『新機動戦記ガンダムW』は問題視されそうな戦闘描写などを調整した全年齢向け版と、日本と同じ内容の深夜放送版のふたつのバージョンが制作され、先述の日本アニメブームの波に乗って、ティーンエイジャーを中心とした大ヒット作となりました。カートゥーンネットワーク全体でもトップとなり、2000年にはプラモデルなどの関連商品も33億円の売上をあげたほどです。
そんな『W』の人気に乗じて、今度こそ『機動戦士ガンダム』をアメリカに浸透させようと考えた日本側はカートゥーンネットワークに切望し、ついに翌2001年7月23日、『W』と同じ枠でのTVシリーズ『機動戦士ガンダム』の放送へとこぎつけます。実際、当時日本側が発表した資料によれば第1週の平均視聴率は2.4%(6~11歳男児)。『W』の1.96%を上回る好調なスタートを切りました。
しかし、さすがに当時でも20年前に作られた作品だけあって、映像面でジェネレーションギャップがあったのでしょうか。『W』人気のメイン層であった、いわゆるティーン層にはなかなか人気が波及せず、期待したほどの盛り上がりは得られませんでした。それでも、視聴率や関連商品の売上の推移を見れば、最終回までは放送されて当然のレベルだったのです。
ところが放送開始から2か月近く経った頃、歴史的な事件が起こります。9.11同時多発テロです。すでに物語も後半に入っていましたが、事件の影響でさらにテロや戦争描写に厳しくなったカートゥーンネットワークは、9月12日の放送をもって『機動戦士ガンダム』の放送を中止してしまいました。
その後、同年年末のTOONAMIの特別番組「A Night of New Year’s Eve-il.」で最終回のみは放送されましたが、事情の分からなかったファンたちは相当に混乱したようです(当時の動揺を解説する映像がYouTubeにも投稿されています)。
ビデオリリースに続き、TV初放送でも『機動戦士ガンダム』が、アメリカでその真価を発揮できなかったのは不幸としかいいようがありません。しかし、近年の映像配信サイトの普及で、新シリーズが世界同時配信されるようになり、その原点となる『機動戦士ガンダム』の再評価も進みつつあります。
TOONAMI時に少年だった世代がクリエイター側に回ったからでしょうか、近年スティーブンスピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー・1』に「ガンダム」が登場したのは記憶に新しく、2022年にバンダイが行ったゲーム「GUNDAM EVOLUTION」アンケートでは、新作を抑えて『機動戦士ガンダム』が1位に輝きました。
今秋の『復讐のレクイエム』と2025年の万博、そしてジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督の実写版を機に、『機動戦士ガンダム』に触れる人が世界にひとりでも増えることを願ってやみません。