まつむら眞弓 (C)週刊実話Web

夏といえば怪談。さまざまな怪談師が活躍する中、異彩を放つのがまつむら眞弓だ。

東映京都撮影所俳優部の所属で、ドラマ『おかしな刑事』『科捜研の女』(ともにテレビ朝日系)、時代劇映画『せかいのおきく』(2023年公開)など数々の作品で活躍してきたベテラン女優が、時代劇の要素を取り入れた京ことばによる怪談朗読劇を披露して注目を集めている。

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7月26日には東京都港区の伝統文化交流館でオリジナルの『新選組異聞 怪談あかずの井戸』を上演予定。その魅力に迫った。

――怪談と聞くと、レジェンドの稲川淳二さんを思い浮かべますが、まつむらさんのは「怪談朗読劇」と銘打っている。どんな違いがあるのでしょう?

まつむら「稲川さんはチケットが取れなくてDVDやYouTubeでしか拝見したことがないのですが、あちらはトークライブ、私のは『ひとり芝居』というジャンルになるかと思います。オリジナルの台本があり、何人もの登場人物を私が1人で演じ分けます。そこが違いでしょうか。目標としているのは『怪談 百物語』で有名な白石加代子さんなんです。ただ、稲川さんのお客様を引きつける話術は本当に勉強になるので、いつか前座でやらせていただけたらなぁ…なんて思っています」

――怪談を語るようになったきっかけは?

まつむら「これが、自分からの売り込みなんです。2010年に嵐山と四条大宮を走る嵐山電車(京福電気鉄道)、通称らんでんというのがあるのですが、『何か仕事をください』と飛び込みで営業をしたのがきっかけでした。ちょうどらんでんでは100周年記念事業として夏に怪談電車を走らせる計画だったのですが、そこで『是非怪談をやってもらえないか』と。
もちろん、私はやったことなどないんですよ。何者かも分からない私にオファーする勇気もすごいけど、引き受けてしまう私もいい根性(笑)。すぐに図書館に駆け込みました」

――手探りで始まったわけですね。

まつむら「怪談電車は暗闇の中、電気を消してブラックライトのみ。片道25分をノンストップで走らせ、往路で1本、復路でもう1本を話しきるんです。そのときは本を丸読みする朗読のみで、往路は『牡丹灯籠』、復路は『耳なし芳一』を披露しました。
当時は1回も目を上げず、ただただ読むだけだったのですが、反響がダイレクトに分かるライブの面白さに感動し、『今後も続けたい』と思いました。そのうち音響を手伝ってくれる方、台本を書いたり殺陣を教えてくださる方などが増えていき、今ではオリジナルの朗読劇を披露する、結構な大所帯になっています」

――今回の公演『新選組異聞~』はどんなお話なんでしょう?

まつむら「舞台は幕末の京都です。ある織物問屋での不幸な事件をきっかけに、夜な夜ないろんなことが起こります。奉公人の16歳の少女おみつが、子守をしていて誤って子どもが井戸に落ちてしまうんです。
それが原因で子どもは死に、おみつは主人夫婦から折檻を受ける日々。ついに井戸に投げ入れられ、他の奉公人には内緒のまま、あかずの井戸となります。恨みに思ったおみつが…というお話で、そこには新選組の沖田総司なども関わってきます」

――完全なオリジナルなんですね?

まつむら「はい。たまたまアメリカのサクラメントに友人がいる関係で、そこでも上演したことがあるんです。当初は日系人の方を対象に…と考えていたのに、フタを開けたら日系の来場者は4人だけでした。SNSなどで興味を持っていただけたんですね。通訳なし、テロップもなしなのに、『言ってることは分からなかったが、とても怖かった』などなど、とても好評をいただきました。劇中で私が歌うわらべ歌も効果的だったのかもしれません」

――その歌とは?

まつむら「『京の大仏つぁん』といって、♪京の 京の 大仏つぁんは 天火で焼けてな~ という歌なのですが、今回の公演では舞台が始まる前、この曲を浪曲師の東家美さんが三味線で弾いてくださるんです。きっとあの時代にタイムトリップできると思いますよ」

まつむら眞弓 (C)週刊実話Web

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双子の姉と漫才コンビ「そっくりさん」結成

実はまつむらには、38歳で死に別れた一卵性双生児の姉がいる。

高校卒業後、1年間の社会人生活を経て、2人一緒に東映の門を叩いたのだ。

まつむら「当時、双子の歌手はザ・ピーナッツさんやリリーズさんなど、結構いらしたのですが、双子の俳優はいなかったので、『それを売りにしよう』と養成所の試験を受けたんです。採用されると、時代劇の監督が『2人に同じ着物を着させろ』と。ドラマで森の石松役をしていた尾藤イサオさんに監督が演技指導をしている近くで私たちが待機していると、尾藤さんが『監督、全然話は違うんですけど、あそこに同じ顔の人が2人見えるんです。幻覚ですかね?』なんて。監督は私たちのことを“松村(本名)シスターズ”と呼んで面白がってくれました。
また、新人の頃はガチガチに緊張していたので、会う人ごとに大きな声で挨拶をするんですね。『水戸黄門』(TBS系)の高橋元太郎(うっかり八兵衛)さんに私が『おはようございます!』とやると、5分後くらいに姉が挨拶。すると高橋さんが『君ね、昨日も思ったけど、2回も挨拶しなくていいよ。会うたんびにされたらこっちもしんどいから』って。双子と知ってすごく驚かれてましたけど、以来、とてもかわいがっていただきました」

――シスターズと呼ばれるくらいだから、コンビ芸もできそうだ。

まつむら「そういえば、売名行為で漫才のコンビを組んだこともありました。なんばグランド花月に出たり、チャンバラトリオさんと組んだことも。当時のコンビ名は『そっくりさん』。こっくりさんと同じ発音で言うんですけどね(笑)」

――怪談の話から脱線してしまいましたが、霊感的なものはあるのでしょうか?

まつむら「これが全くないんです。公演中に黒アゲハが肩にとまって、まるで演出のようだったとか、あるお寺で『耳なし芳一』の平家の落ち武者のくだりをやっていたら、後方の席の方たちがザクザクと砂を踏む大勢の足音を聞いた…というのはありますけど。
ただ一つ、ドラマ撮影のときや怪談朗読劇をしているときは、必ず姉が私の左側に寄り添ってくれています。それは強く感じるんです。漫才のときの立ち位置でしたから(笑)」