「ターンタータタン♪タタタ……」というピアノのイントロを聴いただけで、自然と体が動いてしまうラジオ体操。NHKではEテレで毎朝、総合で月~金の日中、「テレビ体操」という番組で「ラジオ体操第1・第2」や「オリジナルの体操」などを放送しています。
現在3名のピアニストが、ローテーションで演奏を担当する当番組。収録現場ではどのように撮影を行っているのでしょうか。
1981年からピアノ演奏者として番組に出演しているベテラン演奏者・幅しげみさんに話を伺いました。
「あくまでメインは体操」だということを意識する
──朝の「テレビ体操」の収録では、どういった撮影スケジュールが組まれているのでしょうか。
基本的には収録がある前週の土曜日に体操指導の先生や、実技をする体操のアシスタントさんたちと一緒にリハーサルをすることから始まります。
──リハーサルではどういったことを確認するんですか?
番組では定番の「ラジオ体操第1・第2」だけではなく、年に6回の収録ごとに異なった体操を紹介する「オリジナルの体操」も放送します。体操指導の先生が「腕を振る×何小節」といった台本を準備するので、リハーサルで「体操が10分間の放送内に収まるかどうか」を確認。時間内に収まらない場合は、収まるよう内容を変更・修正するんです。
そして収録当日は、本番そのままの流れを一度スタジオで行った後、カメラリハーサルを経て本番を迎えます。
──カメラの前で演奏するときに、意識することはありますか?
もう長年続けているお仕事なので際立って意識しているわけではありませんが、姿勢や表情もテレビの前の視聴者さんたちに見られている、ということは念頭に置いています。縮こまって険しい顔で演奏していても、見栄えが悪いですよね(笑)。
見栄えで言うと、衣装もそうです。基本的には自分で選んでからスタジオに向かうのですが、華美すぎない服装をチョイスするよう心がけています。
そして演奏の面で意識しているのは「あくまでメインは体操」だということ。主張しすぎない演奏は第一に意識します。その上で仕事として演奏を引き受ける以上、無理のない範囲で自分らしさも出せたら良いな、と。
番組が終わってから「良い一日になりそうだ」とスッキリした気持ちになってもらえるよう、爽やかなタッチでの演奏を心がけています。
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「利き演奏者」を楽しむ視聴者も
──では、演奏する内容が決まっている「ラジオ体操第1・第2」の演奏で、幅さんが意識していることはありますか?
前任の演奏者の中には、アレンジをメロディの端々に少し加える方もいらっしゃいました。でも、私は譜面に忠実な演奏を心がけています。
ただ、体操指導の先生によってテンポが若干違うんですよね。キビキビとやる先生もいれば、ゆったりした動きの先生もいる。「第1」が3分10秒、「第2」が3分5秒という目安がある中、収録時の雰囲気や空気感なども加味しながら演奏することを心がけています。
──先生ごとに個性があるとはいえ譜面は同じですよね。一度収録した映像を繰り返し使うのではなく、わざわざ毎回収録し直しているのはなぜでしょうか。
それ、私も思っていたんですよ。1日の収録で6回分の放送を録らなきゃいけない時なんて「ラジオ体操第1・第2」を何度も演奏しますから(笑)。
ただ、「今日の演奏者は誰か」を耳だけで当てる「利き演奏者」を楽しんでいる視聴者もいる、と聞いたことがあります。鍵盤のタッチや演奏の展開で当てるそうですよ。
それだけ演奏を心待ちにしてくださっている視聴者がテレビの向こうにいる、ということに衝撃を受けましたね。
毎朝の10分間を心待ちにしてくださっている視聴者がいらっしゃる限りは、ちゃんと「ラジオ体操第1・第2」を弾き続けたいなと思いました。