現在、渡辺明九段の挑戦を受け、第65期王位戦七番勝負を戦っている藤井聡太七冠。6月には2勝3敗の大熱戦の末、叡王の座を伊藤匠七段に奪われ、一冠を失った。だが、絶対王者の失冠が一大事とばかりの報道に「不適切」の声があがった。(6月24日配信)

◆     ◆     ◆

 将棋の第9期叡王戦五番勝負第5局が6月20日、山梨県甲府市の「常磐ホテル」で行われ、挑戦者の伊藤匠七段が勝利し、藤井聡太が「八冠」から陥落した。

 藤井は2023年の第71期王座戦五番勝負を制し、前人未踏の八冠を達成後、254日間にわたって全タイトルを独占していたが、今回の敗北で叡王位を失い七冠に後退した形になる。

 勝利した伊藤七段は、小学生時代から藤井のライバルだった。プロ入り後の直接対決では藤井に10連敗したこともあったが、ついに雪辱を果たした。

 激闘を繰り広げた2人に、将棋ファンからは温かい拍手と声援が送られているが、そんな中、複数のメディアが藤井の失冠を「254日天下」と報じ、物議を醸している。

「百日天下」とは、フランス皇帝から退位したナポレオンが、パリに入り再び帝位についたが、ワーテルローの戦いに敗れてセントヘレナ島に流されるまで約100日間の天下だったことをいったもので、ごく短期間の政権の例えとして使われる。254日はそれよりもはるかに長いものの、あたかも短期間の八冠であるような物言いに、将棋ファンが怒っているのだ。

「1996年に当時7つあったタイトルを全て制覇した羽生善治九段が七冠を保持していた期間は168日。藤井は八冠を取り、さらに3カ月程度上回って保持しています。今回の叡王戦が初のタイトル戦敗退とはいえ、これだけの長い間八冠を保持していたのは、他の棋士を圧倒する棋力があったからにほかならないのです」(将棋ライター)

 今からわずか6年前、藤井がまだ無冠時代の2018年は、羽生善治竜王、佐藤天彦名人、高見泰地叡王、菅井竜也王位、中村太一王座、渡辺明棋王、久保利明王将、豊島将之棋聖と、全てのタイトルが違う棋士によって保持されていた。この数年後、藤井はそのすべてを手中に収めたのである。

 そもそも八冠を制覇するだけでも前人未到の快挙である。将棋ファンの怒りもむべなるかなといったところか。

ケン高田

【写真ギャラリー】大きなサイズで見る