「パトレイバー」のアニメはOVA、TVアニメ、劇場用アニメで展開され、基本的な設定は共通ながら、作品によってだいぶ雰囲気が異なります。アニメのパトレイバーの違いやこれまでの経緯について振り返ります。
「イングラム」と泉野明。「機動警察パトレイバー35th 公式設定集」(玄光社)
【画像】こちらが立体化されてもきっちりカッコいい「イングラム」と「グリフォン」です
メディアミックスプロジェクトの大成功例
『機動警察パトレイバー』は、複数のメディアでさまざまなストーリーが展開されています。そのタイトルを耳にして、「週刊少年サンデー」で連載されていたマンガ版を思い浮かべる方もいれば、TVアニメやOVA(オリジナルビデオアニメ)、アニメ映画や実写のイメージを持つ方も多いでしょう。
OVAとTVアニメは別モノ!?
アニメ版『パトレイバー』には複数のシリーズがあります。最初に作られたのは「アーリーデイズ」と呼ばれるようになる最初期のOVAシリーズです。これは1988年から89年にかけて全7話が制作されました。
その後、OVAのリリースと同じ1988年に連載が始まったマンガ『パトレイバー』人気との相乗効果を受けて、1989年には『機動警察パトレイバー the Movie 』や『機動警察パトレイバー ON TELEVISION』が制作されます。そして1990年には新たなOVAシリーズも制作されました。これらのシリーズは独立しているものの、基本設定は共通のため、まったく予備知識がない状態でどこから観ても楽しめます。
ただし「PATLABOR OFFICIAL WEBSITE」によれば、初期OVAシリーズは『機動警察パトレイバー the Movie 』や『機動警察パトレイバー the movie2』、実写プロジェクトの『THE NEXT GENERATION -パトレイバー』につながる時間軸にあるとのことです。押井守監督のカラーが濃いシリーズといえるかもしれません。
そしてTVアニメ版と新OVAシリーズは同じ時間軸にあり、水面下で進行中の新プロジェクト『パトレイバー EZY(イジー)』に繋がっています。同じOVAでも初期シリーズと新シリーズは異なる時間軸のストーリーなのです。
DVD「機動警察パトレイバー ON TELEVISION SERIES 1.」(バンダイナムコフィルムワークス・東北新社) (C)HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TFC
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最終回はどうなった?
シリーズが継続している以上、本当の意味での最終回を迎えていない「パトレイバー」ではあるものの、シリーズごとに締めくくりとなるエピソードがあります。
初期OVAでは主人公、「泉野明(いずみのあ)」の入隊から、のちの『機動警察パトレイバー the movie2』を思わせるクーデターの鎮圧を経て、第7話「特車隊、北へ!」の、軍用レイバー「ブロッケン」を奪って共産圏へ密輸しようとするテロリストを追うエピソードで完結しました。いわゆる主役機「イングラム」のライバルとなるメカ「グリフォン」は登場せず、その点が特徴です。
『機動警察パトレイバー ON TELEVISION』では、第35話でグリフォンとの決着がついた後にも放送が続き、第46話で新型機「AV-0 ピースメーカー」が登場しました。愛機イングラムに、死別した愛犬と同じ「アルフォンス」と名付けて大事にしていた野明は、乗り換えの予感に葛藤します。
しかし最終回となる第47話「コンディション・グリーン」で、野明は別離の悲しみを吹っ切り、川崎のコンビナートに逃げ込んだテロリストのレイバーを見事に取り押さえました。TV放送の最終回ではありますが、ひと区切りといった程度の印象のエピソードです。これは、本来は全52話の予定だったところを、放送枠の関係から47話に短縮されたせいだといわれています。
そして、1990年の9月にTVアニメが終了してから年も明けないうちに、上述した「コンディショングリーン」からの展開を引き継いだ新OVAシリーズがリリースされました。
新OVA第1話ではグリフォンが復活し、なんと新型機ピースメーカーが敗北します。ピースメーカーは高性能機だったものの、周囲への被害を考慮したシステムが組み込まれており、条件次第では操縦者の思い通りに「動かない」ことがあるのです。
その後、第4話でグリフォンとの決着がついてからは、特撮のパロディなどを含めた1話完結型のエピソードが続き、第16話「第二小隊異状なし」で新OVAシリーズは最終回を迎えました。その最後のエピソードは、特車二課第二小隊のメンバーの成長ぶりなどが描かれ、出動のサイレンが鳴り響くシーンで幕を閉じます。
放送後も根強い人気
「パトレイバー」にはイングラムのメカデザインをはじめとして、多くの魅力的な側面があります。しかしそのなかでも特筆すべきは「大人向け」のユーモア、展開が描かれている点ではないでしょうか。
たとえば、慰安旅行中に女性隊員「香貫花(かぬか)・クランシー」と「熊耳武緒」の関係が険悪になってしまい、とばっちりや巻き添えを避けようとした男性隊員たちが無茶な飲酒で泥酔しようとする「VS(バーサス)」や、後藤隊長と南雲隊長がラブホテルに泊まることになって眠れない夜を過ごす「二人の軽井沢」など、単純なギャグやラブコメに分類できない名エピソードが数多くあります。
また『機動警察パトレイバー the Movie 』では、レイバー暴走事故の原因が、そのOSである「HOS(ホス)」にあるという衝撃の展開が描かれました。開発プログラマーの手によって、特定の条件で暴走を引き起こす「トロイの木馬」が仕込まれていたのです。これは情報セキュリティの重要性が高まる現在においても通用するテーマだといえるでしょう。
1988年に初めてOVA『機動警察パトレイバー』が発表されてから、35年以上にもわたって愛され続けてきたのは、観るたびに新たな発見のあるコンテンツ性と、時代を経ても変わらないキャラクターの存在感ではないでしょうか。
そのような「パトレイバー」の新プロジェクト『パトレイバー EZY』の発表は、最速で2024年夏と言われています。もしかしたらそろそろ新たな発表があるかもしれません。続報に期待です。