TVアニメから人気に火が付き、劇場版となった『超時空要塞マクロス』、当時としては異例の新規作画による映像は、現在でも最高傑作と考えるファンが多い作品です。その魅力を「おぼえていますか?」。



『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』ビジュアル (C)1984 BIGWEST

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人気を博したTV版『マクロス』でファンが感じた不満とは?

 本日7月21日は、1984年に劇場用映画『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』が公開された日です。今年で40年が経過しました。そのクオリティの高さはいまなお、ロボットアニメの劇場用映画として最高峰と評価する人もいます。

 元々、この劇場版はTV版である『超時空要塞マクロス』の人気が高かったため、その放送中から企画が開始されました。当時の風潮として、人気の高いTVアニメ作品が劇場用映画になるという流れはごく自然なものだったのです。

『マクロス』はスピーディーのあるメカ描写、主人公をめぐる三角関係、「歌」が物語の中心となる作劇といった要素が、特に目を引く作品でした。後にシリーズ化された際、これらの要素は継承されていくことで、後に「マクロス三大要素」と認識されるようになります。

 これらが引き金となって数多くのファンを生む一方、、そのファンのほとんどが不満に思ったであろうことがありました。それが「作画クオリティの低さ」です。正確に言えば、各話ごとに「スゴイ!」と思わせる回もあれば、プロとしてレベルが低いとしかいえない回もありました。

 前者の代表格として挙げられるのは第27話「愛は流れる」でしょうか。徹頭徹尾、劇場版並みのクオリティで当時のアニメファンを驚かせました。このエピソードでは味方メカ「デストロイド・モンスター」が、格納庫の床を踏み抜くという伝説的なシーンがあります。これを作画したのは、当時まだアマチュアのアルバイトだった庵野秀明さんでした。

 逆に後者の代表格といえば、第11話「ファースト・コンタクト」が挙げられます。作画レベルも低かったうえに、動画が足りずに不自然な動きになっていた箇所がいくつもありました。当時のファンからは「紙芝居」とまでいわれています。放送後にフィルム自体を修正したため、現在では再放送や配信などで観ることはできません。ただソフト化した際、特典映像として「当時のTV放送を録画したビデオ映像」を収録しており、これのみが流通しています。

 こういった事情から、当時のファンが望んでいたのは、作画クオリティの高い劇場版でした。当時、TVアニメ作品が劇場化される際には、TV版の映像を中心とした再編集ではあるものの、そこへ新規作画を追加することが通例だったからです。

 第27話の作画クオリティが劇場版並みと前述しましたが、この品質で劇場版は再構成されると、ほとんどのファンが期待していました。ところが劇場作品『愛・おぼえていますか』の情報が少しずつ公開されていくと、多くのファンは予想外だった「スタッフの本気」を見せられることになったのです。



メカも魅力のひとつ。「DX超合金 劇場版 VF-1S ストライクバルキリー (一条輝機) メカニックエディション」(BANDAI SPIRITS) (C))1984 BIGWEST

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スタッフの本気が生んだ当時としては異例の劇場版

 スタッフの本気、それは劇場版が単にTV版を再編集したものではなく、新たに一から制作した「映画作品」だったことです。

 前述したように、当時のTVアニメ作品が映画になる場合、TV版のダイジェストになることがほとんどでした。それゆえ劇場版『愛・おぼえていますか』もそうなるであろうと、ファンの大多数は思っていたわけです。それが全編、新作映像になるとは驚き以外のなにものでもありませんでした。

 さらに付け加えれば、映画でキャラクターデザインが一新されたことも異例のことでした。メカに関しては大きくは変わらなかったものの、新たな装備となった主役機「VF-1 ストライクバルキリー」が話題となります。

 変化はこれだけではありません。アイドル歌手「リン・ミンメイ」の歌により、文化を知らなかった異星人との星間戦争に決着がつく……という大筋はそのままに、男しかいない「ゼントラーディ」と、女しかいない「メルトランディ」との戦いという形に物語を改変してきたのです。

 TV版とは違った作品として生まれ変わった劇場版は、大喜びでファンに受け入れられました。その結果、この1984年に公開されたアニメ映画『風の谷のナウシカ』『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』と並んで、「劇場用アニメの当たり年」とまで評されます。その人気は映画だけにとどまらず、セルビデオは1984年の年間第1位を記録しました。

 こうしてTV版に頼らない新しいタイプの劇場版は、結果的に大成功を収めます。しかし、その結果として『超時空要塞マクロス』という作品は、TV版と劇場版というふたつの異なるストーリーが紡がれました。ほかの作品ならば、どちらが正史になるのか、という論争が起こっても不思議ではありません。ところが、これに関して後に明確な回答がありました。

『マクロス』の続編となる『マクロス7』などで、回答となる設定が明かされています。それによると、TV版と劇場版は共に、史実を元にした「フィクション」であり、それぞれの表現や描写が異なるだけ……というものでした。つまり、本来あった歴史を題材に作られた、別の作品であるというものです。

 ちなみに、TV版の『超時空要塞マクロス』は「作品内世界で放送されたTVドラマ」、映画の『愛・おぼえていますか』は「作品内世界で上映された劇場映画」という「作品内設定」でした。こうすることで、ファンの間で起こるであろう正史論争を封じたわけです。つまり、最初の時代の『マクロス』を今後リファインすることも可能な設定だといえるでしょう。

 最後になりましたが、忘れてはいけないのが、主題歌である飯島真理さんの「愛・おぼえていますか」です。この歌は続編でも引き継がれて歌われただけでなく、番組とは関係なくカバーされることも多く、「マクロス」シリーズを代表する名曲となりました。

 今なお新作が生み出されている「マクロス」シリーズ、好きな作品は人それぞれかもしれませんが、劇場版『愛・おぼえていますか』が果たした功績はひときわ大きなものかもしれません。