作家・アルテイシアさんと考えるジェンダー表現「言葉は文化をつくるが、呪いにもなる」|新聞労連公開シンポジウムイベントレポート#1

女医、リケジョ、弁当男子、イクメン……。私たちの日常には、実はジェンダーまみれの表現がたくさんひそんでいます。何より、発信するメディアの人間こそがジェンダーを学び、差別表現に違和感を持てる感覚を身につけておきたいところ。ジェンダーに詳しい作家・アルテイシアさんが、歯切れのいいトークで解説してくれました。

※本記事は、2024年6月29日に東京・水道橋で行われた「失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック」(小学館)発刊2年記念シンポ「ジェンダー表現たのしんでいますか~アルテイシアさんを囲んで〜」の内容から構成しています。

ジェンダーを学ぶと、それまで見えなかったものが見えるようになる

2024年6月にニュースになっていた「大阪で、54歳の会社員の男が小学生女児を買春して逮捕された」事件。複数のメディアで「小学生女児がパパ活!」という見出しがついていて、強烈な違和感がありました。「女児がパパ活」は間違いで、正しくは「54歳の男が買春」ですよね。マスコミの方には、ぜひこういうジェンダー表現をNGとする感覚を身につけてほしいです。

ジェンダーを学ぶと世の中の解像度が上がり、それまで見えなかったものがクリアに見えるようになります。例えば会社でセクハラに遭っても、知識がなければ「自分が悪いんだ」と思い込み、自責にかられてしまいます。

私はジェンダーを知ったことにで、加害者に対して正しく怒り抗議できるようになり、前もって被害を避けられるようにもなり、そして自尊心を取り戻せたと思います。見たくないものまで見えちゃうからモヤモヤも増えますが、それはアップデートできているということ。知識を得たのだと、胸を張ってほしいです。

アルテイシアさん(作家)。2005年『59番目のプロポーズ』でデビュー。ほかに『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』など著書20冊。

日本で今までフェミニズムが広がらず、バトンがつながってこなかったのは、正しく伝えてこなかったマスコミのせいでもあると思います。よく指摘されるように、マスコミは男性社会ですよね。日本のジェンダーギャップ指数は118 位(2024年)と相変わらず国際社会の中でも底辺で、とくに「経済」と「政治」が低い。つまり、社会の仕組みをつくったり決定権を持つ立場に女性が少ないわけです。メディアの世界もそうですよね。

毎年3月8日の国際女性デーにはジェンダー関連の取材がいくつも入りますが、実際私のもとに取材に来てくれるのは女性の記者さんばかりです。私と同世代や年上の記者たちから、「会社でジェンダーの企画を出したけど、上司に潰された」という話を本当によく聞きます。

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ジェンダー感覚は九九みたいなもの、学べばパッとわかるようになる

では、どうすればジェンダー表現を判別できるようになるか。これはもう、九九みたいなものです。ちゃんと学んでいれば、パッと見て「この表現はアウト!」とすぐにわかるようになります。差別しないためには、まず「何が差別か」を学ぶ必要があります。「差別なんてない、私はしない」と思っている人ほど差別的な言動をしやすいんです。

大事なのは、私もあなたも、みんなアップデートの途中なのだということ。ジェンダーギャップの激しい日本社会で生きていれば、ジェンダー的感覚がバグって当然なので、「学び落とし」が必要です。私自身、つい会社で「◯◯さんは女子だけど、同期でいちばん優秀だよ」とか言ってしまったこともあって、ミソジニーが刷り込まれていたと思います。

上の世代の女性は、今以上に権利や自由を奪われていた時代を生きてこられました。学校の文化祭では、男子の衣装を女子が縫っていた時代だってありました。でも、そのときはそれがおかしいと気づけないもの。生まれた時代が違えば、感覚も違って当たり前です。

そして、間違えてしまったら、むしろ「スタート地点に立てた」と思って批判を真摯に受けとめ、正しく謝りましょう。くれぐれも「不快な思いをさせて申し訳ありません」と、“ご不快構文”を使わないように。それは屁をこいたときの謝り方です(笑)。なぜ自分が間違えてしまったか、それの何が問題だったか、今後どう改善していくか説明しましょう。

マスコミには、ジェンダーにまつわる正しい情報をどんどん出してほしい。そして間違った情報があれば、積極的に訂正してほしいと思います。